1. いきなりの憑依?転生?どちらにしても、最悪よ!
プロローグです。
「──────ラ。──ヘ────ラ、───ヘラ!」
「──っ!!」
驚きでビクッと身体が跳ね、誰かに呼ばれている事に気づく。
「大丈夫か?」
顔を上げると、すぐ傍に見知らぬ美丈夫──いや、この世の者とは思えない程の美しい顔の男が、心配気に問いかけている。
どういう状況なのか全く分からず、周囲を見渡せば、中天の陽の光が降り注ぐ中、ガゼボの様な所で目の前の男と二人でお茶?をしている様だ。
──というか、この人誰よ?あと、この服装って(ヨーロッパとかの神話の絵画や彫刻等で見られる、袖無しの簡素な服)?
二人とも、(男女の着方に差は有れど)白い布をそれぞれオシャレの為か、ブローチ等で留めただけの、私からしたら『服らしい服』とは呼べない頼りない服装をしている。
「──ヘラ?先程から、心此処に在らずの様だが、具合でも悪いのか?」
「っ大丈夫、よ。少しボーっとしていただけ。」
──いけない。不審がられたかしら?
違和感しかないが、どうも、私は彼からヘラと呼ばれているようだ。
此処で意識を戻す前は、20XX年春、花見でほろ酔いになった仕事帰りのバーメイドだったのに。
ちなみに、恋人とは別れたばかりだった。…って、これは如何でもいいか。(笑)
「そうか?─まあ、数百年ぶりに、溜まっていた仕事を片付けて、疲れが出たのだろう。もう少しお茶を飲んで、ゆっくりしようではないか。」
──っ?…い、今、何か聞き捨てならない、おかしな時間単位が──?!
「す、ぅ、ヒャク…年?」
──…!?……スウヒャクネン…すうひゃくねん。………って、えっ?!数百年?!?今、数百年って言った……?
血の気がサァーッと引いていく気がする。
…数百年。明らかに人間ではありえない時間単位。
身体が、手が、勝手に震えてくる。
『落ち着け、落ち着け』と内心言い聞かせ、お茶を飲む。
…だが、少しも落ちつけず、カップを戻す時に少しカタカタとなってしまった。
「?あぁ。新婚だから、蜜月で引き籠って仕事が溜まってしまっただろう?それを漸く片付けられたのだ。もう、暫くは私達がする仕事は無いだろうしな。」
何を今更?とでも云う様な顔で彼が答える。
「仕、事…」
──というか、待って。新婚?蜜月?!…誰と誰が!?……もしかして、私と─彼?!?………ということは、私達は夫、婦?
混乱する一方の頭に、衝撃の言葉が止めを刺す。それが引き金となり、────私は気を失って倒れた。
「っヘラ!!」
意識が遠のく瞬間、彼が名前を呼んで、抱き留めた気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目が覚めると、そこは見知らぬベッドの天蓋。
起き上がり部屋を見渡せば、目に飛び込んでくるのは、キングサイズと言っていいベッドに広い部屋。恐らく高級と呼べる家具などの調度品。
豪華な部屋には、不釣り合いな(少々無骨さを感じる)鎧戸の窓から見える外は、もう夕暮れ時なのか、オレンジ色に染まった景色が見える。
そして部屋の片隅には、恐らく看病の為の付き添いか、女性が一人椅子に座っている。
「ヘラ様!!」
私が意識を取り戻したことに気付いたのだろう。心配と安堵が交じり合った表情で立ち上がり、駆け寄ってきた。
誰だか知らないが、ベッド脇のローテーブルに置かれた水差しの水をコップに注ぎ、手渡してくる。
「…ぁ、り、がと、ぅ」
先程の、ガゼボでの出来事から数時間が経過している為か。渇いた喉は張り付いている為、小声でしかお礼が言えない。
手渡された水をゆっくりと飲み、喉の調子を確かめつつ、目覚める前までの事を思い出す。
──えっと、確か、もの凄いイケメンと何故かお茶?をしていたような?…で、その時の会話が色々おかしかった気がする。…というか、あの後どうなって、私は此処に居るのよ?
取り敢えず、何か知っていそうな、この目の前の彼女に聴いて見た方がよさそうだ。
そう思い、彼女に問いかけた。
「私どうして此処に居るのかしら?」
「ヘラ様は、ゼウス様とのお茶の途中、急に倒れられたと聞いております。倒れられたヘラ様を抱きかかえ、運んで下さったのも、ゼウス様です。大変心配なさっておいででしたよ。」
──そうか、彼はゼウスというのか。………ん?ゼ、ウ…ス?はて、どこかで聞いたような?
思い出そうと必死に考えて首を傾かしげると、それまで目を背けていた──受け入れがたい現実が目に映りこむ。
「?」
誰の髪か一瞬分からなくて、軽く引っ張ってみると、僅かに痛みが走る。
──え、もしかして、私の?……私、生粋の日本人で(染めていた事があるとはいえ、『紅赤色』 (※一般的な口紅)の様な紅髪くらいで)、こんな金髪になんて、したこと無いのに。何が起こっているの?…というか、肌白っ!指、長!こんなキレイな体、自分のとは思えないけど、動かすと確かに感覚があるし……。
驚きと感嘆と色んな感情が綯交ぜになりつつ、身体を動かしていると、不審に思ったのか、「ヘラ様?」と心配気な表情で問われる。
先程から、違和感しかない『ヘラ』という名で呼ばれる自分。咄嗟に自分の名を言おうとして、口を開くが、喘ぐ様に言葉にならない小声しか出ない。
──ぁ、ぇ…ッ!な、ま…え、名前が、出て…こない?何で…?
自分の仕事や住んでいた国、地域。一人暮らししていて、直近で恋人と別れた事。
家族構成・友人関係などは思い出せるのに、その家族や友人等の顔や名前が、…それどころか、自分の名前や顔なども、どんなに必死に思い出そうとしても、モザイクでぼやけた様になっていて思い出せない。
そのまま暫く呆然としていると、少しの溜め息が聞こえてきた。
「まだ、お疲れの様ですね。夕餉までもう暫くお休みください」
「…えぇ、そうみたい。まだ混乱して、記憶が少し飛んでいるみたいなの。だから、ちょっと頭の中を整理したいから、話し相手になって欲しいのだけれど」
ここで少し情報を聞き出しておきたかった。
「ここは、私の部屋よね?」
「ええ。ヘラ様ご自身の神殿の一室でございます。」
──神殿?
「私の神殿?」
「?はい。ゼウス様の神殿はまた別にございますので、久々にお二人で過ごされる為に、お昼頃から此方においででした。ヘラ様の体調が宜しければ、此方にお泊りのご予定でしたが、本日はもうお帰りになられました」
なぜ今更当たり前の事を聴くのか?という怪訝な顔をしながら答えて、
「『また明日にでも逢いに来る』という伝言と共に、花も預かりましたので、そちらの花瓶に生けております。」
窓際に生けてある花瓶を手で指す。
──『ヘラ』が住んでいる神殿?それとも『ヘラ』が祀られている神殿?
どちらにしろ、私がヘラと呼ばれている以上、私は一般人ではないらしい。神殿に居るということは、少なくとも何かの宗教の上位者?の地位にいるようだ。
花瓶に生けられたナデシコの花を見ながら、更に質問を続ける。
「この後の…明日以降の予定は如何なっていたかしら?」
「ゼウス様が訪れられ、ご一緒にお過ごししたいという事以外は、特に決まったご予定は、御座いません。ヘラ様は結婚と貞淑を司る女神様でいらっしゃいますので、直近で神々の結婚が行われることは有りませんので、お仕事のご予定もございません。」
──ヘ?メガミ??めがみって、もしかして、女神の事?……私が?…え、もしかして、ゼウスも人間じゃない?
「女神…。ぁ、じゃあ、彼…ゼウスも神?」
「…はい、ハデス様やポセイドン様などから、仕事の催促があり、先日蜜月を終えられたばかりのご夫婦ですので。」
衝撃の事実が飛び込んできた。
どうやら私は、人間から神へ(憑依?だか)転生?したらしい。…死因も死亡時期も一切思い出せないし、死んだ実感もないが。
何が如何してそうなるのか。
そして、漸く。ここにきて、自分が誰に転生して(という事にしておく)、誰の妻になったのか。
ギリシャ神話をよく知らない人でさえ、ゲーム等で有名な神々の名が色々出てきて、やっと解りかけてきた。
時代は(服装以外)『古代の神代の時代』ではなく、『中世の欧洋』っぽい技術を感じるが、ここはギリシャ神話の中(といって差し支えないだろう)。
『ゼウス』は全知全能の神、『ヘラ』…つまり私は、彼の姉で、嫉妬深い恐妻───浮気性の彼の浮気相手やその子供に嫉妬し、色々残酷な事をするという意味での、恐ろしい妻───になった様だ。
──噓でしょう?!女神だという事も信じがたいのに、よりによって…『浮気性のバイ』(で節操無し)の妻!?何の冗談よ!!
パニック状態の私の頭の中では、真面な考えが浮かんでこない。
生前、趣味がプラネタリウムで、星座に纏る話が好きだったので、ゼウスという神が(恋人や夫としては)どれだけ『最低なクソ男』だったか知っている。
彼は、女性とだけではなく、美少年とも浮気をしていたのだ。
しかも手に入れる為には、何でもしていた───とも。
口説き、脅し、強姦し。
時には動物に変身して近づき、相手の警戒心を解いて、迫ったり強姦したり。自作自演のマッチポンプで口説く等。───おまけに、しつこい。
…いくら能力が良くても、そんな男は『最低クソヤロー』である。
本当であれば、そんな男とは一刻も早く別れたい。
だが、そんな事をすれば、『私 と 彼』との間に、生まれてくるはずの神が生まれて来ないのは非常に拙いし、『彼の浮気に嫉妬した私』に彼が嬉しがり、『浮気を止めない彼』と『浮気相手』と間の子供が生まれないのも、非常に拙い。
…『タイムパラドックス』をしていいのなら、私の心情としては、『ホント、もげろっ!!』という思いでいっぱいではあるが。
──はぁ。もう『今後起きる痴情のもつれ』、放っておきたい。
溜息と共に吐き出したい憂鬱な心情を無理やり、留める。
何だか一気に疲労困憊になった気がする。
疲れが顔に出ていたのであろう。彼女から、顔色が悪いことを指摘される。
「お話して、更にお疲れが出られた様ですね。ヘラ様。今一度横になられますか?」
──そういえば、この人は私の眷属で一番下あたりの階級神か何かかな?侍女っぽい事してるし。…まぁ、それは置いとくとして。今の私、そんなに分かり易いか?
「…そうね。今日はもう疲れたみたいだから、夕餉は取らずにこのまま休むわ。…あ、でも湯浴みはしたいから、お湯は沸かしておいて。」
「かしこまりました。」
「…一人で入るから、貴女も湯や着替えの準備等を済ませたら、今日はもう下がっていいわ。終わったら、教えてちょうだい。」
信じがたい現実に溜息しか出ないが。
…恐らく、風呂を沸かすのも一人で出来ると言えば、出来る気がする。
自身の身体の中に不思議な靄の 塊?───神力?だろう力があるのが解る。その力を使えば、大抵のことは出来るだろう。
だが、精神的疲労から全身疲れていたし、そんな状態で使い方もつかめていない神力を使って、しようとは思えなかった。
また、誰かに給仕されながら食べるよりも、湯浴みで疲れをとって、独りになりたかった。
暫くしたのちに「準備が出来ました」と声がかけられて、風呂場へ案内されせた後、下がらせて一人で入った。
湯に浸かると疲れが溶け出して、癒される気がする。
──頭の中を整理したい。明日の彼の訪問も、出来れば延期したい。というか、これからの彼の起こす『痴情のもつれ』に対処するにしても、なるべく関りは避けたい。無理なら、少なくしたい。
同時にそんな考えも浮かび上がるが、無理だろうなぁと諦めも感じつつ、長湯でゆっくりして過ごす。
のぼせる前に風呂から上がり、着替えなどを済ませ、先程の自室に戻る。
すぐにベッドで横になり色々考えたが、思考がまとまる事は無く、段々と眠気が来て、いつの間にか眠っていた。
次に目が覚めたのは、翌朝だった。
主人公が、セクシャルマイノリティーに対して、批判的な発言をしていますが、あれはあくまでも『自分の彼氏・夫が(性別関係なく)浮気をする節操無しな事』に対しての批判であって、決して人様の趣味嗜好・性愛に対して否定的なわけでは在りません。
勿論、作者も同じ様に、人に迷惑を掛けない(&犯罪でない)限り、趣味嗜好・性愛に対しては、否定も批判もしない事は、此処に記しておきます。(寧ろ、BL系どんと来い( *´艸`)です。)




