開かれる冥府の門と、龍の覚醒
趙宇の死、そして、ついに開かれてしまう、冥府の門。絶望の中、私は、天柱山で、天龍から、授けられた、ある、力を、思い出す。私の、血に宿る、初代皇帝との、絆。それが、後宮に眠る、龍の力を、目覚めさせる!
趙宇の、温もりを失った体を、抱きしめ、私たちは、ただ、慟哭した。
忠実な、友の死。そして、目の前で、ゆっくりと、開かれていく、冥府への門。
空は、完全に、闇に、覆われ、紫色の、巨大な、亀裂から、おぞましい、邪気が、溢れ出してきている。
もう、何もかも、終わりだ。
絶望が、私の心を、支配しかねた、その時。
私の、脳裏に、天龍様の、声が、響いた。
『――諦めるな、異界の、魂を持つ、娘よ』
『お前には、まだ、力が、残っているはずだ。我と、我が友が、未来に、託した、希望の力が』
天龍様……?
私は、ハッと、した。
そうだ、天柱山で、天龍様は、私に、月華草だけでなく、もう一つ、ものを、授けてくれていたのだ。
それは、彼の、鱗の、一枚。
『これに、我が力を、込めておいた。いつか、お前が、真の、窮地に、陥った時、道しるべと、なるだろう』
私は、懐から、その、青白く、輝く、鱗を、取り出した。
鱗は、龍の祭壇に、強く、共鳴し、熱を、帯び始めている。
そして、私は、もう一つのことを、思い出した。天龍様は、暁月のことを、「友の、血の、香りがする」と、言っていた。
暁月の、祖先である、初代皇帝は、天龍と、共に、戦った、盟友。
この、龍の祭壇は、初代皇帝が、友である、天龍を、祀るために、建てたもの。
つまり、この祭壇には、天龍の力が、眠っている。そして、その力を、目覚めさせることができるのは、天龍と、その友の、血を引く者だけ。
「……暁月様!」
私は、悲しみに、打ちひしがれている、彼の、肩を、揺さぶった。
「しっかりしてください! まだ、終わりじゃありません! 私たちには、まだ、やれることが、あります!」
私は、彼に、全てを、話した。
彼は、私の言葉に、最初は、呆然としていたが、やがて、その瞳に、再び、皇帝としての、強い光が、宿った。
私たちは、二人、龍の祭壇の、中央へと、進み出た。
私は、天龍の鱗を、祭壇の、中央の、窪みに、はめ込んだ。
そして、暁月は、自らの、手のひらを、短剣で、傷つけ、その、王家の血を、祭壇に、滴らせた。
「――目覚めよ、我が友よ! 初代皇帝との、盟約に従い、我らに、その力を、貸したまえ!」
暁月が、叫ぶ。
すると、祭壇が、轟音と共に、揺れ、天龍の鱗と、暁月の血が、まばゆいほどの、光を、放ち始めた。
祭壇に、刻まれていた、龍の紋様が、命を、宿したかのように、動き出し、巨大な、光の龍となって、天へと、昇っていく。
光の龍は、冥府の門から、溢れ出してきていた、邪気の、軍勢を、その、聖なる、ブレスで、薙ぎ払った。
「なっ……!?」
門の、向こう側で、待ち構えていた、邪神アスタロトが、驚愕の声を上げるのが、聞こえる。
『――何者だ、我が、降臨を、邪魔するのは!』
光の龍は、答える。
『――我は、天龍。この地の、守護者なり。邪なる神よ、この地を、穢すことは、我と、我が友の、末裔が、許さぬ!』
しかし、光の龍は、天龍、そのものではない。あくまで、その、力の、一部が、具現化した、守護者に過ぎない。
邪神アスタロトの、本体の力は、あまりに、強大だった。
門の、向こう側から、放たれた、闇の、波動が、光の龍と、衝突し、凄まじい、エネルギーの、嵐が、巻き起こる。
光の龍が、じりじりと、押し負け始めていた。
「くっ……! まだ、力が、足りないのか……!」
その時、私は、覚悟を、決めた。
初代皇帝の、血が、龍を、目覚めさせる、鍵ならば。
天龍と、直接、魂を、交わした、私の力が、その、龍を、さらに、強くできるはずだ。
私は、暁月の、隣に立ち、祭壇に、そっと、手を、触れた。
そして、私の、魂の力――私の、生命力、そのものを、光の龍へと、注ぎ込み始めた。
「秀麗! やめろ! そんなことをすれば、お前の命が……!」
暁月の、悲痛な叫び。
「いいえ。わたくしは、もう、決めたのです。あなたの、隣で、生き、そして、あなたの、隣で、死ぬと。……それに、わたくしの命は、もう、わたくしだけの、ものでは、ありませんから」
私は、彼に、微笑みかけた。
私の、生命力を、得た、光の龍は、その、輝きを、何倍にも、増した。
そして、ついに、邪神の、闇の波動を、押し返し始めたのだ。
私たちの、最後の、戦い。
この国の、いや、この世界の、命運を、賭けた、戦いが、今、始まろうとしていた。