41.変な紙
「フリージア、出るよ!」
「アマリリス、行くよ!」
最後になってしまった4人で外に出た時、咆哮が響き渡った。飛び跳ねていたカエル達も怯えて、石みたいに転がっている。
『様子がおかしいな。おい、鳳凰。貴様、ここの奴らを守れるか?』
『白竜は本当にムカつくほ。私にできないことはないほ』
『白蛇。貴様はついてこい。小娘、行くぞ』
アサギにローブの襟首を咥えられたと思ったら、空高く投げ飛ばされた。「ええ!?」と叫ぶわたしの声に数人の「フリージア!」と呼ぶ声が重なっている。
最高到達点に浮かんだと分かる1秒にも満たない時間停止の位置、落ちると思った瞬間、地面が現れた。正確には少し大きくなったアサギの背中に乗っていた。そして、腕にはいつの間にかピエリスが巻き付いていた。
「え? え? なに? ピエリス、ここに居ていいの?」
『かまわん。白きモノが分散するより一箇所に集まる方が、奴らも目指しやすいだろう』
『白竜様の仰る通りねん。アセビは大丈夫ねん』
「ピエリスがいいならいいけど……って、奴ら?」
『黒きモノだ。こうもタイミングよく遭遇するとはな』
「え? 待って。奴らって言ったよね? 何匹もいるの?」
『3匹ねん。同時に3匹現れるなんて初めてねん』
『我も初めて遭遇する。あそこだな』
アサギが止まったので斜め下を見やると、歩きやすそうな道が3本あり、道の行き止まりに黒い影が揺れ動いている。「ゲームでは、もう少し可愛いシルエットだったな」と変に冷静な自分がいた。
『我らが空に浮かんだから、目標を見失ったのであろう』
『早く倒してあげないといけないねん。鳳凰に気付くねん』
『あそこには紫も2人いるからな』
そうだよね。鳳凰も強いし、紫色の瞳のアマリリスとシオン先生もいるし、イキシア殿下だってむらさ……ん? 人数おかしくない? 2人じゃなくて3人だよね?
『しかし、白蛇。我には突然3匹に増えたように思えたのだが、貴様はどうだ?』
『同じねん。全部、突然現れたねん』
「どういうこと?」
『魔力が消えそうな魔物は、湖に1匹いただけってことだ』
そっちにもゲーム通りいるの!?
あ! だから、イクシャに確認してたんだ!
「黒きモノの発生場所が分かるの?」
『当たり前だ』
ピエリスにも笑顔で肯首されて、白きモノって半端ないと目を見開いてしまった。
いや、イクシャもイキシア殿下に伝えてたよね。強かったら分かるってことかな?
『とりあえず、吸い込んでやるか』
「……吸い込む?」
何を言っているんだろう? と本気で首を傾げていると、アサギは2本の指で丸を作り、輪っかを口にあてて、空気を吸った。
何本かの木と共に、黒きモノ達は空中を高速移動してくる。
物理的におかしいはずなのに、それら全てはアサギの指の輪っか内を通るように紐みたいに細くなり、アサギの口の中に消えていった。
「えええ!? 食べっ食べていいの!? お腹壊さない!? 大丈夫!?」
ピエリスも目を丸くして驚いてるってことは、アサギの倒し方は独特だったってことでしょ? ゲップでつむじ風起こしてないで、教えてよ。
『問題あらぬ。風魔法で粉々にしてもいいが、生きたいと思っていた奴らだ。我の中で生きる方が幸せであろう』
「アサギ、男前、優しい、カッコいい、大好き、愛してる」
『我は当たり前のことをしているだけだっ』
ふふ、照れちゃって可愛いなぁ。背中から抱きしめちゃおう。
『これからは私も白竜様と同じようにするねん』
『好きなようにすればよい』
つっけんどんに返すアサギが愛らしすぎて、ニヤける口元を戻せない。
『小娘、少し調べるぞ』
「何を調べるの?」
『前触れなく黒きモノが現れた原因だ。発生した場所に何かあるかもしれん』
「分かった」
上空から黒きモノが作った道を辿り、道ができ始めた場所に降りた。アサギはいつもの手のひらサイズに戻って、辺りを見回している。
「ん? 紙?」
土が剥き出しになっている30センチほど向こう側、草の上に紙の切れ端が落ちていた。紙は火で炙ったかのように焼け焦げている。
『その紙から魔力を感じるな』
『おかしいねん』
「他には落ちていなさそうだよね。これ、持って帰った方いいよね」
サンスベリア伯爵なら解明してくれるかもだし。でも、シオン先生に渡さないとかな? 全部、説明しなきゃだもんね。
再び大きくなったアサギの背中に乗り、馬車で降りた場所に帰ると、クラスメート達ががむしゃらにグロッケルを討伐していた。
その光景が悍ましすぎて降りたくなかったが、イキシア殿下とアセビに気付かれ、大人しく討伐に参加した。
グロッケル討伐後、シオン先生に「学園に戻って綺麗になったら、何をしてきたか伝えに来てくれ」と言われた。
シオン先生もだが、わたしもクラスメート達もみんなグロッケルの粘液塗れだ。魔力の塊なんだったら、粘液や血液も無いはずだろとツッコみたくなる。カエルの姿は大丈夫だけど、この生臭さは「もう二度と参加しない」と誓うほど酷い。
馬車に乗り込むと、疲労からため息が漏れてしまう。
アセビは隣で、ピエリスから何があったのかを聞いている。
イキシア殿下は笑顔でイクシャを撫でているが、絶対に聞き耳を立てているはずだ。笑顔が嘘くさいからね。
アマリリスは、グロッキー状態でイキシア殿下にもたれている。目を閉じているけど、イキシア殿下と同じようにピエリスの言葉を拾っているのかもな。
「フリージア」
「アセビ様も難しいことは考えずに、今は疲れを癒すことに専念した方がいいよ」
「私は、父に連れ回されて討伐には慣れているから、あれくらいじゃ疲れないよ」
ええ? サンスベリア伯爵、何をやってるの? アセビがいくら天才でも、まだ学生だよ? 本気でビビるんだけど。
「私が言いたいのは、シオン先生に説明をする場に、私も参加したいってことだよ」
「うん、いいよ」
ただ報告するだけだからね。好きにしたらいい。
誰もお喋りする元気はないようで、その会話以降、馬車の中は本当に静かだった。
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