表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/50

35.「あげた」じゃなくて「返した」だからね

昨日の夜に焼いたシフォンケーキを、朝からエビネが取りに来た。アサギのために毎日何かしら作るようになったので、いつでも渡せるのだが、休みの日の方がいいだろうということで日曜日になったのだ。


そう、今日はもう王宮訪問から1週間経っている。


若干心配していた側室云々の噂話は、イキシア殿下とわたしが話す素振りさえ見せないので、すぐに鎮火した。


本当によかった。不可抗力なのに、またアマリリスに怒られるところだった。


「なんですか?」


笑顔のエビネに差し出されたバスケットを受け取った。布を外すと、牛乳・卵・小麦粉等の材料が入っている。


「殿下からになります。よろしければ、今後も週1で作ってほしいとのことです」


「え? わたしはついでだから大丈夫ですけど、エビネさん、大変じゃないですか?」


可笑しそうに笑うエビネの面持ちが可愛すぎて、普段のキリッとしている姿とのギャップにときめいてしまいそうだった。


メイン攻略対象者の従者はイケメンである。これ、相場で決まっている。だから、エビネも何気ない笑顔が絵になるのだ。スチル獲得である。


「殿下とイクシャ様のためになるのことならば、嬉しいことこの上ありません」


だったら、いいけど。


でもさ、王宮のシェフの方が、絶対わたしより上手だよ。わたしなんかのシフォンケーキのためにって思っちゃうのよね。


「それと、殿下からの手紙が中に入っておりますので、来週伺った際にお返事をいただければと幸いです」


「手紙? 招待状じゃないですよね?」


「変哲もない手紙ですよ。派閥や政治等関係なく、気軽にやり取りをされたいのではないでしょうか。殿下の立場では、色々難しい部分がございますから」


「わたしでいいのかって思いますが、来週までに返事を用意しておきます」


「ありがとうございます。便箋も用意しておりますので、そちらをお使いください」


両親に手紙を書くように安い便箋は持っているんだけど、王子様相手じゃね。


というか、材料も便箋も用意するなんて、服のことで相当申し訳なく思われているのかも。有り難く使わせていただきます。


さわかやに帰っていくエビネを見送り、わたしは急いで出かける準備をした。今日はこれからアセビが迎えに来るのだ。


ガーベラに「大丈夫やって。フリージアは可愛い」と太鼓判を押してもらったが、正装をしているアセビを見た瞬間、一気に緊張が体を巡った。


心が躍るはずの空飛ぶ馬車に乗っても、今週も景色を楽しむ余裕はない。ため息しか出てこない。


「どうしたの?」


目の前で優雅に腰掛けているアセビの腕には、今日もピエリスが巻き付いている。もちろんアサギも一緒で、アサギはわたしの膝の上でお腹を見せて眠っている。


「先週も緊張の連続だったのに、今日もだなんて……失敗しないといいなと思ってね」


「フリージアなら大丈夫だよ。先週の謁見、父が褒めていたよ。ぜひうちの嫁にってね。私と結婚してくれる?」


楽しそうに細められた瞳に「冗談」と書いている。


面白がられているだけだと分かっていても、そんなことを言われるのは初めてだし、ましてやその相手が国宝と思えるくらい綺麗な顔のアセビだ。真っ赤にならずにはいられない。


「わたしには伯爵家、というより貴族の夫人は無理だよ。貴族社会も社交界も化かし合いも恐い。無理だよ、無理」


「フリージアなら大丈夫だと思うけどね。碌でもない男と結婚するくらいなら、私と結婚しようね。約束だよ」


「碌でもない人を選ぶくらいなら、結婚しないよ。アサギが一生側にいてくれるもん」


「本当にフリージアは手強いね」


可笑しそうに笑うアセビに、何が面白かったんだろうと謎しかない。でも、ここで突っ込んで聞いたところで、更にお腹を抱えて笑われそうな予感しかしないから、あえて聞かない。


それに、わたしは今、目の前のアセビよりも、緊張しないようにドキドキと早く動く心臓を鎮めなければいけない。


事の発端は、数日前の図書館でのローダンセの一言だ。


「父がフリージアさんにお礼をしたいと申しているんですが、日曜日のご予定はいかがでしょうか?」


「えっと、何のお礼でしょうか?」


ローダンセの父親って、宰相だから謁見の時にいたはずだよね? 魔法使った人かな?


「先日いただいた刺繍入りのハンカチを病弱な姉に持たせた所、少しずつ体調が改善されまして、今では自分の力で歩けるようになったのです」


へ? 何を言っているんでしょうか? それはわたしの刺繍の効果ではなく、お医者さんの腕がよかっただけでは? それに「あげた」じゃなくて「返した」だからね。


「やっぱりね。絶対に効果があると思っていたよ。私も父に話し、本や刺繍道具を見せたら、父がすごく興味を抱いてね。コムラサキ侯爵家に検証の協力をお願いしないといけないって、手紙を送っていたはずだよ」


「はい。サンスベリア伯爵からの手紙で、私の父はハンカチのことを知りまして、大騒ぎになりました」


えっとね、ローダンセもアセビも楽しそうに話しているけどさ。わたしとしては頭の中「?」だらけなの。


あの刺繍にそんな効果があるなら廃れた意味が分かんないし、ゲームに登場しなかった理由も不明すぎるよね。だから、絶対にお医者さんの力だと思うんだよね。


「それで、もしフリージアさんのご予定が大丈夫であれば、日曜日に昼食会を開き、サンスベリア伯爵も招待することになっています」


「私も行っていい?」


「もちろんアセビも来てください」


という感じで、休みの日は寮で勉強するしか予定がないわたしの、コムラサキ侯爵邸訪問がさくっと決まってしまったのである。


先生、5着もワンピースをくださり、本当にありがとうございました。絶対に先生の授業は真面目に受けて、高成績を残してみせます。


わざわざ迎えに来てくれたアセビにも感謝しかなく、今日サンスベリア伯爵から本と刺繍道具が返ってくるらしいので、アセビにも何か刺繍をする予定だ。


イキシア殿下から借りてしまったハンカチも、どう返すか悩んでいたので、こちらも刺繍をして返そうと思っている。






先週は更新予約を忘れていて、本当に申し訳( ;∀;)……申し訳ございませんでした( ;∀;)

来週長めの2話(12時と12時10分)更新いたします。

コムラサキ侯爵邸で何が起こるのか、お楽しみくださいませー。


リアクション・ブックマーク登録・読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ