29.好きな食べ物を検証しよう
翌日、アサギのシフォンケーキ好きをツワブキとアセビに話し、大いに盛り上がった。
お昼休みにお弁当のおかずを、みんなそれぞれ使役魔物にあげたが、どの使役魔物にも気に入ってもらえるおかずは無かった。アサギも『シフォンケーキが1番だ』と言っていた。
そして、更に次の日のお昼休み。ガゼボのテーブルいっぱいに、またスイーツが並べられた。
お昼休みの鐘が鳴った直後、アセビが「先に行っていて」と姿を消し、「お腹でも痛いのかなぁ」と3人でアセビが来るのを待っていたら、使用人数名と庭園にやってきたのだ。
「昨日の話を父にしたら大層喜んでね。使役魔物が何を好むのか調べてもいいだろうってなったんだよ」
とのことで、伯爵者の使用人がスイーツを並べ、記録係だろう人は紙とペンを持ちながらアサギに熱い視線を送っている。
わたし達はお弁当をかき込むように食べ、使役魔物の好みの検証に全力で挑むことにした。
こんなに楽しい企画を、お弁当を食べながらとか無理だ。アサギのことを、知るチャンスを逃してはいけない。
「アサギ、どれから食べてみる?」
アセビ達も自分の使役魔物に確認を取っている。アサギもだが、ピエリスもハナちゃんもヤマイシも興味津々にスイーツを眺めている。
『どれが美味しいんだ?』
「どれも美味しいと思うから、全部1つずつ食べてみる?」
アサギ達用に用意されたスイーツは、どれも1口サイズで作れている。食べかけを残す心配がないから、気軽にアサギに勧めることができる。
『うむ、そうしよう。あの白いのからだ』
「フルーツケーキだね」
そう、今回はこの時間にわざわざ使用人がスイーツを持ってきたので、生クリームやカスタードがふんだんに使われたケーキがあるし、もちろんクッキーもマドレーヌもプリンもゼリーも用意されている。他にもたくさん並んでいる。
スプーンの上にケーキを乗せ、アサギの口に運ぶと、アサギは1口で食べた。
『これはいらん』
「美味しくなかった?」
頷くアサギに、今度はタルトを食べさせてみる。
『周りの固いのはまぁまぁだが、中のねちょっとしたものがいらん』
カスタードが苦手なのね。だとすると、さっきは生クリームがダメだったのかもな。
こんな風にアサギが食べたら感想を聞き、忘れずに記録係の人にも伝えるを何回も繰り返した結果、アサギはクリーム系全般が苦手だと判明した。クッキーとかの焼き菓子に至っては、シンプルな物だけ『悪くない』と満足気に言っていた。
ハナちゃんはアサギとは逆でケーキ類を好んだが、ヤマイシとピエリスはどれも好きではなかったようだ。あえて選ぶなら、シンプルなバタークッキーという感じだった。
「甘い物が苦手なのかもね」
「そうかもしれないね。昨日のお弁当の方が喜んでいたからね」
「俺もそうだな。野菜を好んでいた気がする」
「ハナちゃんのケーキ、どうしよっか……毎日って難しいな……」
泡立てるだけでいいなら、アサギがしてくれると思うよ。たぶん……。
ただ生クリームは日持ちしないのが問題だよね。ガーベラは、その事で悩んでいるんだろうな。
『小娘。シフォンケーキを出せ。持ってきているだろ』
「まだ食べるの!?」
『あれに勝る物はあらん。口直しが必要だ』
こんなにも豪華なスイーツの横に、わたしの素朴すぎるシフォンケーキを出すなんてと思ったが、アサギに尻尾で叩かれて催促されたので、おずおずと鞄から出した。
意気揚々とシフォンケーキに齧り付くアサギに、アセビとガーベラはお腹を抱えて笑っている。ツワブキは「好物が分かっていていいな」と真剣に頷いていて、サンスベリア伯爵家の使用人達は記録する手を止めてしまうほど驚いていた。
「アセビ様。アセビ様用のシフォンケーキ、持って帰ってもらう?」
「本当に私の分もあるんだね。嬉しいよ」
「みんなで食べようと思ったのは、今アサギに取られちゃったけど、材料を提供してくれたアセビ様には、綺麗に焼けたケーキを用意しているよ」
微調整して焼いたケーキは、アサギに『昨日よりも美味い』と言わせたからね。自信作だよ。
ただ、最も綺麗に焼けたケーキは朝一で職員室に持って行ったから、アセビに渡すケーキは2番目に綺麗に焼けたものになる。
シオン先生に渡した時、シオン先生は「喜ぶ」と目元を緩ませていて、どれだけ奥さんが好きか伝わってきた。目の前のわたしのことはそっちのけで、奥さんをことを考えて微笑んだんだよね。
幸せをお裾分けされて胸が温かくなり、シオン先生を揶揄うとデコピンされるほど怒られた。照れ隠しの顔も、スチルになりそうなほどカッコよかった。
さすが隠れキャラ。何をしても様になる。
そんな朝からあった目の保養よりも、すんごい「THE・美」のハニかんだ笑顔が目の前にある。アセビの薄く頬を火照らせている姿が、神秘的で輝いている。
見た目が女神のように美しいって罪だ……
「嬉しい。ありがとう、フリージア。本当に嬉しいよ。大切に食べるよ」
「材料はまだあるから、気に入ってくれたら何回も焼くよ」
「うん、ありがとう」
何回も言われると恥ずかしいな。わたしの方が顔に熱を持っちゃうよ。
手で顔を仰いでいると強い視線を感じた。チラッと確認すると、ツワブキが瞬きせずにわたしを見つめている。
ごめん、ツワブキ……ツワブキの分もというか、明日のデザートにシフォンケーキ持ってくるから許して。
今日の夜もというか、アサギ用のシンプルなシフォンケーキとクッキーなら、わたしが作れる。だから、毎日夕食後に寮の台所を借りる代わりに、夕食の片付けの手伝いをすることにしよう。きっと寮母さんは貸してくれる。
来週は2話投稿します。王城に行きますよー。
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