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28.シフォンケーキ

寮母さんに荷物の確認をすると、冷蔵部屋の一角に置いてくれていた。「へ? こんなに?」という量が届いていて、「キッチンカーで販売できるな。お小遣いを……」と、つい考えてしまった。


『これで何ができるんだ?』


「シフォンケーキっていう素朴なケーキだよ」


『美味しいのか?』


「美味しいよ。食べられそうなら食べてみる?」


『うむ。食べてみてやろう』


わたしもこの時までは、「興味津々で可愛いなぁ」くらいだった。


「フリージア、今から焼くん?」


「うん。片付けを手伝った後に、厨房使っていいって許可をもらったからね」


夕食後にガーベラに問われ、「今日は練習だよ。明日が本番」と付け加えている。


「うち、見学しよう。ケーキ焼ける匂いが好きやねん」


「分かる。幸せな気持ちになるよね」


「やんな。だから焦がさんといてな」


「練習だから。焦げたら笑って」


そんなことを言い合いながら厨房に向かい、ガーベラは夕食の片付けを手伝ってくれた。その後は近くの椅子に座り、シフォンケーキを作り始めたわたしの手元を不思議そうに眺めている。


「めっちゃ手際いいやん」


「家の仕事、手伝ってたからね」


『小娘、早く作れ』


「アサギ、待ってて。焼く時間も必要だから、まだまだだよ」


「ん? もしかして食べたいとか言うてるん?」


目を点にしたガーベラにアサギを指されたので、軽く頷いた。アサギはガーベラの指を尻尾で叩いている。


「ごめんごめん。許してや」


『今回だけだぞ』


白竜ってもっと怖いイメージがあったけど、アサギって優しいよねぇ。喚び出した時から笑っていることが多いもん。明るくて優しくて可愛いって最高だな。相棒がアサギで、本当に嬉しいよ。


というか、「花束をあなたに」には戦いのパートがあるんだよね。リズムゲームで魔法のレベルを上げて、強敵の魔物を倒すってパートが。真っ黒で真っ赤な瞳の魔物が登場して、画面の色んな所に出る丸の、光る順番を覚えて押していかないといけないやつ。


あの魔物って、この現実でも出てくるのかな? 優しいアサギがいれば、かすり傷すら負わないだろうけど、出てきてほしくないなぁ。普通に恐いもんね。


ゲームのシナリオに思いを馳せながら材料を混ぜ、焼いている間に洗える物は洗い、残りの時間はガーベラとお喋りをして過ごした。アサギはオーブン前で、薄ら見えているケーキを見続けていた。


ちなみに、卵白の泡だてが大変すぎて「電動泡立て器、欲しい」と思いながら「うりゃー!」って叫んでいたら、ガーベラに爆笑された。そして見かねたのか、アサギが『混ぜればいいのか?』と風魔法で完璧に泡立ててくれた。絶対に風魔法を習得すると、心に決めた瞬間である。


わたし、本当にあの長い呪文と相性が良くないと思う。頑張るけどね。覚えるの大変なのよ。


『小娘。どうしてまだ食べてはならんのだ?』


「熱いからだよ。冷ました方が……って、今、何の魔法使ったの?」


『風魔法に決まっているだろ。もう食べてよいな?』


「取り出すから待って」


大きく頷いて待ってくれるアサギを見てから、粗熱が取れているシフォンケーキをまな板の上に出した。早々に短い腕を伸ばしているアサギに、気になったことを尋ねてみる。


「ねぇ、アサギが使うま——


『何だこれは! うまいぞ!』


わたしの質問は、途中でアサギの歓喜の声に遮られてしまった。しかも、顔を輝かせたアサギによって、わたしは目を点にさせられ、尚且つ高速瞬きまでさせられることになった。


なぜなら、一口目は愛らしい手で千切って食べたアサギが、二口目からはケーキ本体に齧り付いたのだ。一心不乱に食するアサギに目を疑ったのである。


「まま待って! わたしとガーベラの分!」


「ホンマや! うちも楽しみにしててんで」


『知らん』


まな板ごとケーキを取り上げようにも、アサギもまな板の上に乗ってしまっている。なので、アサギを両手で掴んで、上空に掲げた。


『離せ。我が食べるんだ』


「材料はいっぱいあるから。また作るから、わたしとガーベラにも味見をさせて。この分量で合っているか確かめさせて」


『もっと美味しくなるのか?』


「可能性はあるよ」


『なら、仕方あるまい。食べてもいいぞ』


なんとか了承してくれたアサギをまな板の上に戻し、わたしとガーベラの分を確保して、プチお茶会を開始した。


といっても、わたし達が食べ始める頃には、アサギが食べていたケーキはすでに無くなっていた。仕方がないので、わたしも食べつつ、フォークでアサギにも食べさせてあげる。


「ホンマに美味しいわ。アサギが爆食したの分かるわ」


「ありがとう。でも、もうちょっとしっとりさせたいなぁ。明日は分量変えてみるね」


バニラエッセンスとかキャラメルとかあったら、また違う味で美味しいんだけどね。生クリームもだな。わたしが稼げるようになったら挑戦してみよ。


「って、わたしのケーキが無くなってる……」


『我が食べてやった』


満足気に鼻から息を吐き出すアサギの体を突つくと、尻尾で指を叩かれる。


和やかな空間にほっこりし、ガーベラと微笑み合った。






来週もほのぼの回です。


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