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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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死生の偽華




白橋に突入する『麾下の四兵』のシ速は二百十フォア、形状から察して固圧生成量千三百万ほどの『遅咲きの高老』のようだ。

 彼は中空に待機していたため、地表付近にできた空洞には間に合わず、真っ直ぐに白橋に突入をする。

 彼の前方に広がっていた巨大な発光体の橋は、たどり着く寸前に光を発し凝縮、無数の線条を伸ばす星散に変わり、やがてその残滓から白き巨雲が頭を覗かせた。

 この巨雲は白橋の残滓で、巨大な白華のようなものだ。

 大気濃度が濃いため、減速値が高く、それでいて敵にとっては白華生成の時短ができる関係で、入るのはあまり良策ではない。

 飛行する彼に白橋の爆発で生まれた球状の衝撃波が迫り、じれるような速度低下のあと衝撃波が過ぎると、『遅咲きの高老』が一直線に巨雲に突入する。

 巨雲内部に入ると白華の粘体が絡みつき、もともと遅い彼の飛速は大幅に低下していく。

 シ速二百から百五十、百四十、さらに七十、六十……と、少しの間計測していたが、おかしなことに、その減速値は本来より、あまりにも極端なものだった。

それに私は疑問を覚える。

 速度の減りを見るにどうやらこの急減速は自発的なものらしい。

 残滓の粘体による減速に加えて、火孔を停止することで、自ら止まろうとしているようだ。

 『遅咲きの高老』はやはりわからん。

 彼は中位個体最高峰に近い力を持つが、若い頃から考え方が他と違う。

 彼は強くなることより、固圧の種類を多く得ることを目的としていたため、強くなるまでは時間がかかった。

 結局寿命間際になってようやく『麾下の四兵』に数えられる強さになったが、他の個体と比した時、固圧の選択肢が圧倒的に広い。

 そんな独特さ故か、私にはわからん選択をよくする。

 彼のした『残滓に突入後、減速をする』という行為は間違いなく自殺行為だ。

 千の白橋の付近は非常に激しい攻撃密度を誇り、最高速を出し続けなくては生存の可能性はなくなる。

 速度低下が命取りになる場所で自ら減速を始めたのだから、私はもう笑うしかない。

 彼が火孔の出力を弱めると、みるみるうちに、シ速は落ちて十フォアほどになり、これによって彼は避ける力をほぼ失った。

「うーん、これでもう逃げられんぞ」

 追い風にはなっているから前には進んではいるが、正直心配でしょうがない。

私が気をもむ間に、彼のワイス機構が明滅し、白華を生成する。

 出現した白華は穴だらけで空洞が多い独特なものだ、その空洞を見るにつけ、それでようやく彼の考えが読み取れる。

 “死生の偽華”だろう、これは自身を白華に紛れさせ、狙われないようにするための特殊固圧だ。

 核融合生物の索敵は、実は核融合生物には反応せず、そのままだと核融合生物の形さえわからない。

 彼らの身体は対宇宙側からの電磁波を遮断するため、電磁波で認知をするワイス機構では、核融合生物の姿は写らないのだ。

 ただその核融合生物の周りにある四手子混じりの大気は綺麗に映るため、核融合生物がいる位置は大気にぽっかりと空白ができて、特に動いている間はよく目立つ。 

 その空洞を捕捉することで核融合生物の存在を感知しているのだが、“死生の偽華”は空洞の混じった白華によって、核融合生物を示す空洞を目立たなくすることで、巧妙に自分の存在を見極め辛くすることができる。

 雑に作ればすぐに見破られるが、巧妙に作った場合、攻撃の激しい空域ならば意外と見つからない。

 もちろん動きも大事で、速く動くと見つかるため、今のように速度を超低速に落とした上に暴風を考慮にいれて動くことで、ようやく偽装は完成する。

 『遅咲きの高老』は死か生を与える偽装にその身を委ね、火孔をほぼ全閉、中空域をゆっくりと漂いながら、遠い四の本陣に固圧攻撃をしているようだった。

 のんびりとしてるが、本当に大丈夫か?四の本拠は彼らの戦争の中でも最も攻勢の激しい空域だ。

 今も白橋が生成され、その橋と橋の間を塞ぐように敵の八十房固圧の群れが生成されていく。

 彼の周辺環境があっという間に危険空域化し、数多の白華が形成されたものの、彼は危険な白華からだけ絶妙に距離を置き、ゆったりと動く。

 直近で炸裂した固圧の弾が彼の黒皮を叩いても、彼は巧妙な偽装を解かず、橋と橋の狭間に漂い、慎重に敵地を攻撃しているようだった。

 ……やはり、彼は変な感性をしている。

 死生の偽華は失敗すれば死ぬため、覚える者がほぼおらず、使えるのは彼くらいだ。

 こんな参考にならん戦いを見ていてもしょうがないので、ここより一万フォア下、下方から攻め行った七の軍に視線を移す。


 地表付近や低空から行った七軍配下の者たちは、“億齢”の作った空洞によって最初の白橋をかわしたものの、そのあと生成された白橋と危険空域によって混迷を極めていた。

 低空には長い白橋が幾本も生成され、侵入した者達は橋と地表の間に根を張った四ツの危険空域の中を飛び回り、死の周回ともいえる、終焉に向かう飛行を繰り返していた。

 ……ここの危険空域を作った個体は、性格は芸術性より、効率を重視する個体のようだ。

 地表に白華を粘着させ減速値を高めているだけでなく、危険空域内に周回路を作っていることからも、それは読み取れる。

 危険空域内の周回路の有無は、その者の性質を見る上で極めて有用だ。

 危険空域というのは、非常に危険ではあるが、幅はそれほどでもないため、静止固圧で守りつつ、全力で真っ直ぐに飛べば助かる場合もある。

 だから固圧戦を理解した者は、内部に比較的安全な周回路を作る。

 むろん配置は刻々と変わるため、周回路は次々に生成し直さねばならんが、攻勢の緩い周回路を作りつつそれ以外の危険空域の攻勢を非常にきつくする。

すると、敵は一見安全なその周回路に逃げ込み、内部を回り続けてしまう。

それで生まれた時間を使って、さらに配置を緻密かつ広大にし、確実に葬り去る。

 一種の陥穽だが、危険空域特有のゆとり無さと合わさると、大抵の者は引っかかる。

 今危険空域内にいるのは、中位個体二体に下位個体三体の計五体か。

 私が数えている間に、下位個体の一体が周回路の攻勢に堪らなくなって、斜めに降下しながら地表に激突。

 岩盤を身体で削りつつ、周りに漂う白華を凝縮、殻固圧で自らを防御する。

 食事を示す白い光を出しても、こういう場合は文化障壁は働かず、可哀相だが回りを処理した後で焼き殺されることになるだろう。

 残りの下位個体二体は、下位にしては回避が上手く、なんとか周回路内を飛び回れているが、習熟がまだ未熟なため、対処する術は持たず、一心不乱に回避を続けている。

 下位と中位の違いはこういう時に厳然と出る。

何もできない下位個体と違い、中位個体ともなれば一つ二つは危険空域を抜ける方法をもっているものだ。

 中位個体の一体目は、“阻害”関係の習熟をしているようで、行く先の空域に強烈な熱を送り、固圧を無作為に阻害、または遅らせ脱出する機会を窺っていた。

 これは電磁放射型の阻害技法取得者で、性格等の把握まではできないが、かなりの練度を誇っている。これだけ阻害能力が高ければ、相手がこの個体への攻撃に専念しない限りはそうそう殺されはしないだろう。

 この阻害方法は同時に相手の危険空域維持を難しくするから、攻勢が緩くなるし、嫌がらせには充分だ。

 もう一体の中位個体は、生来的に電磁波を見極める力が強い、探査型の阻害技法者だ。

 敵の電磁波の流れから、この危険空域を作った個体を逆探知したようで、その敵の上空の広範に、槍形の撃発固圧を数十万具現させ、一斉に降り注がせているのが見える。

 槍か、どうやらようやく中位個体になったばかりのようで、固圧攻撃そのものはそれほど上手くはないが、静止固圧の雨によって、敵の思考を回避に割かせることで危険空域解除や、配置の失敗を狙っているようだ。

 中位個体ともなると、危険空域の抜け方をそれなりに心得ているから、二体も内部にいれてしまうと殺すのは困難になる。

 まして周回路は相手に猶予を与えてしまい、中位個体複数を殺す時には向かない。

 それでも周回路を使ったのなら、つまり、敵は慌てているか、頭が固く咄嗟の対応が苦手な個体なんだろう。

地表付近で中位個体二体を仕留めきれないあたり“下位殺しの怜悧者”の強めの方だろうか。

 さてどうしたものか、……彼らを助けたいとは思うが、前に、仲間を助けようとしたら、七に接続を切られたことがある。

今の状態でワイス機構に繋げなくなるのは困るし、それに--

「どの道、七の軍も長くないから変わらんか」


 視界を全体に薄く広げれば、現在危険空域に入り込んでるのは、彼らだけではなく、場所こそ違えど、攻め行った者の三分の一が危険空域に巻き込まれていた。

 巻き込まれなかった者も、橋を構成していた高密度の残滓により、飛行速を落とされ、進軍が遅れている。

 そして後ろからは八の『九億固圧』が近づいてきている。

あれと白橋が合わされば七軍は壊滅だ。

 それからしばらく推移をみていると、白橋や危険空域に巻き込まれた者の数割が殺され、それを突破した何体かが白橋を超えそうになると、白橋の出現位置がさらに下がり、今度はその者らが危険空域に巻き込まれる。


生きる者と死にゆく者、七軍が回避に汲々としているためか、四の本拠地を覆う攻撃は比較的緩やかで、さして損害を与えていない。

 本来なら撤退時期だ。

 彼らは首領を中点とした軍円で動く、七が撤退しないとあらば、軍全体で白橋に遮二無二の突撃を続け、遠からず全滅するだろう。

そう思い、減っていく七の軍の推移を見守っていると、七が最前線に突入した辺りで戦場に不思議な変化が起こった。





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