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カテゴリー・エラー  作者: 流氷陽北
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分類:地表域の死火




七は八に追われているのに、なぜか飛行速を上げて、後退中の四の軍勢を追いかけ始める。

 七が動けば当然七の軍円も進んで、配下たちは軍円に置いていかれまいと、四の本拠に向け飛行速をあげる。

 四を追いかける……?、八から逃げるのだとしてもこれはあまり良くはない。

 八から逃げるのなら、撤退した四軍がいなくなる六の領地方面に動くのが正しいし、なにより四の本拠地は最も堅固な攻勢固圧を使うから行くには……、私が思考している間に、ぐんぐんと七は空進し映る風景は変わっていった。

 最もたる景色の変化は地の底に広がる青き雷の輝きだ。

 四の本拠あたりの地を形成する岩盤は普通黒色に、黒光や硫酸鉄の緑白等が混ざった地色が多いが、この地の底を這う青雷は地質によるものではない。

 大地の底に長い長い横なぎの大穴が空いていて、そこから雲海がせり上がって青雷を発しているのだ。

 果ての見えないその穴は穴ではなく広大に続く地の断裂、つまりここは翼の縁で、七が四の本拠空域たる右岩翼に入り込んだことを示していた。

 その時“億齢”が傾き右の翼を下にする。

 下方に傾斜を強めていく岩石の翼と、その地表に立ち込める噴霧は見えぬほど遠くにまで続き、その大翼がひとたび、雲海の下方を薙いでいくと、切り裂かれた狭間から、私の透遠視によって微かにこの星の海が見える。

 一千百万地圧越えの大気の超圧に押しつぶされ、金属化した水素の海。

 その超圧から生まれいでた磁気流と雷電がこの星の強い放射線と磁場、巨雷を作り出す。

 大気や嵐の動きも磁気流によって予測できるため、その流れを察して“億齢”は針路を定めている。

 “億齢が飛んでいること”それを最も感じさせるのがここ四の奥地の岩翼だ。



 風の密度の流れが急になる岩翼の前縁を三シシほど飛んだところで、七は飛行速度を緩めた。

 七は八より速い。

 今代の八は九代目にあたるが、身体能力がそれほど高くなく平均よりやや上程度、対する七は最高位に近い身体能力をしている。

 この僅かながらの有利によって、七は八を完全に振り切ることに成功し、索敵範囲には多数の味方と、いくらかの敵だけが残っていた。

 言葉少なき彼らに伝令はない、八の配下には八の狙いは伝わりようがないため、七の位置を伝えられることは無いだろう。

 八を振り切った七は飛行速を緩め、軍円から外れかかった味方が前線に来るのを待つ。

 味方でもひとたび軍円から外れてしまえば、その戦争中は敵と認識されるため、首領は配下を先に行かせることで、できる限り味方を軍円から外れないようにしているようだ。

 今回は三十体ほどが置いていかれて識別不能になった。

 軍円と言っても半径十万フォアもあり非常に広大で、一番後方から最前線にたどり着くまでは二十万フォアの飛行を要する。

 彼ら全体の平均速度は大体シ速二百三十フォアほどだから、八百七十シ、つまり十七シシと三十七シの時間がかかる。

 まあ実際そこまで待つ必要もなかったようで、四シシ程度待って、味方が移動し、八が索敵範囲内に現れたところで、七は移動を開始する。

 八に捕捉されてから動いたということは、八を待っていたのか?よくわからん。

 状況的には八を待つ必要はないから、多分ミスだろう。


 四の本拠地は翼の先端付近に配置されているから、岩翼伝いにいくと、どんどん先が細っていくが、三角翼のため、先端付近にも最低限の面積は残っている。

 七の行く手には八の膨大な固圧攻撃が絶え間なく展開されては、弾として凝縮し、撃ち出されていた。

 八の固圧はあまり精練されていないが固圧生成量が異常に多く、九億を数える。

 七や他の上位個体が最大一億程度の瞬間固圧生成量であることを考えれば、上位個体全てを合わせた固圧生成量より、八、一体が作り出す量は多い。

 生成量の多い八の足止めは異常そのもので、その大量の物量を遣い、大半の空域を“三ツの危険空域”や“四ツの危険空域”に変え、そこで殺されなかった者には、固圧を集中。より上位の“五ツの危険空域”にして敵を打ち倒す、そういう戦法を使っている。

 ただそれほどの物量を誇るにも関わらず、八はどうしてか“五ツ六ツの極限域”は作り出したことはない、のみならず“五ツの危険空域”も、五ツ群にはなっているものの質が悪い。

五ツや五ツ六ツになると、物量より、白華配置の発想力と精緻な操作がいるため、八は作れないのだ。

 八という上位個体は、危険空域を無数に作れはしても、その一つ一つの質は低く、高位者を仕留め辛いため基本的には足止め用に使っている。

 しかし、最高位の回避個体である七には足止めにさえならなかったようで、七は行く手に展開される“三ツ”や“四ツ”の危険空域を軽々と回避し、……その上で、黄幻の八のシ速二百五十フォアより僅かだが速く移動していた。

 三ツであれ四ツであれ、本来危険空域は確殺だ。

 それの中を易々と生き延び、なおかつ高速を維持する辺り、やはり七は異常な個体であるといえる。

 『黄幻の七』の分類は珍しい『地表域の死火』となっている。

 『死火』の名の付く分類は、短命に終わる性質の者を指し、基本的には病や、異常体質によって長く生きられない者たちに付けられる。

 しかし『地表域の死火』はそういった身体の異常ではなく、“危険嗜好”によって短命に終わる者たちの分類だ。

 彼らはその危険嗜好から、戦争可能になると最も危険な高さである、地表から十フォア以下の高さを飛び続ける。

 地表付近と言うのは、戦争で重くなった四手子が地表域に溜まる関係で攻勢が過酷になるため、上位個体や、中位個体最高峰の者たちも戦争中はほとんど降り立たない。

 四手濃度が上がってくると、軽く熱圏を作っただけで、ほとんどが厚い白靄や白華となり、危険空域の造りやすさも段違いだ。

 また地表にはもう一つ問題がある。

固圧は一瞬で固体を作る技術であるから、固圧生成時、地面に固定すれば、当たり前だが減速値、相手を止める力が高くなる。

 壁や網を出すのでも、空中で固定されていない状態より、地面に固定していた方が、簡単かつ的確に、相手の飛行を妨害できる。

 四手子濃度が濃い上に、固定による減速値の上昇効果が重なるため、地表域は最も危険な場所なのだ。

 そんな場所に下位個体の頃に入り込むのだから、戦争参加後一回生き残れば良い方で、良くて三回までには死んでいる。

 生き残っているのは七だけだ。

 ちなみに死火ではないが、地表で生存してる者には、異常体質者の“黄幻の二”や子育期の個体に擬態している“黄四黒呼の1”など、度々存在するが、 純粋に地表付近を飛び続けて生き残った者は撃発固圧が確立されてからは“黄幻の七”が初めてだ。

 だから、私は七が中位個体になった時、初めて彼らに分類を与え『地表域の死火』と命名した。

 一体として生き延びられず、命を粗末にする者たちなぞ、生き延びるまでは分類すら作りたくなかったのだ。

 そんな地表域で生き抜いてきた七にとっては、三ツや四ツの危険空域程度は、さして危険ではなく、物足りないと感じるのか、たまに地表スレスレを飛び、八との距離をつかず離れずの物にしていた。


 とはいえそんなことができるのは七だけなので、七の配下は“九億固圧”に巻き込まれ、更に減って、七百五十体になった。

 これからもまだまだ減るに違いないが、八に追われたらそんなものだ。

『固圧無力化』と『九億固圧』を合わせるだけで、八は遠距離戦ではほぼ無敵に近い。

 八の攻勢はまだ七とその後方の者たちだけを対象としているが、先行したものたちはどうだろう?

 七軍の最前線は八からかなり離れているから、前線には八の攻撃は飛んでこない、しかし、そちらはそちらで危険なのだ。

 三角翼である岩翼の連なりの先には、四の本拠空域があり、そこに接する最前線の一帯に熱圏が張られ始め、四の本拠地からの大規模な攻勢が始まりつつあった。



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