わたしと老い
ダブルマインド―52才の淑女“わたし”と13才の少年“ぼく”の物語。
今回は、“わたし”のアイデンティティーがわかるエピソードです。
生真面目な人格なので、お堅い語り、そしてウツ展開ですが…
これによって次の“ぼく”が生まれますので、どうかお付き合いくださいマセ☆
―…まさか、あんな一言が…
“ぼく”を生み出すなんて―思いもよらなかったのよ。
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ね、あなたは占いって信じる?
わたしはね、おとめ座のA型。生真面目で分析力が高め、完璧主義なんだって。
ん~… ふっ、ちょっと―当たってる…かも。
あのね、前の職業がね?…薬剤師だったの。真面目さとか、分析力、完璧さとかが求められる仕事なのよ。
…とは言っても現役を退いて6年が経っちゃったから、ほとんど役には立たない。
薬学の知識や調剤技術も少し抜けてるし、最近の調剤機器はハイテクだし、そもそも薬機法自体が数年で様変わりする。その上、マイナンバーの導入があったでしょ?…もう、何が何だか。
恐らく第一線では働けないだろうから、社会復帰は無理ね。…諦めたわ。
6年間も何してたんだって?…うつ病の治療よ。ずっと部屋に引きこもってた。
…そういうところもおとめ座A型っぽい、のかな(笑)―なんてね。
時々はおなかが空いて冷蔵庫に行ったり、トイレへ行ったりしたけど、年がら年中パジャマのまま、ただ単にぼーーっとしてたの。家の外には一歩も出ず、世界がどうなっているのかなんて知り得なかったわ。
まぁ、寝床という名の棺桶で死んでたって事よね。
そして今、その墓場からようやっと甦ったの。いわゆる「寛解」ってやつ。
さすがに、以前のような処方せん100枚とかはさばけないけど―こうやって物事を考えたり、ちょっとした日常生活であれば難なくこなせる。
寛解って、約半数位は再発しちゃうらしいんだけど、う…ん、調子が良ければこのままやっていける可能性もある、かな。
おカネは―…何とかなるの。それこそ、生真面目で几帳面なわたしが、6年間もうつになるほど働いたのだから(笑)。
贅沢さえしなければ、今後30年以上飲んだり食べたりしても大丈夫、老後の生活くらいは賄える。
―あははは、わたしはココロと引き換えに、オカネを得た。ただそれだけの事。
大学卒業後、数年間はOTC薬局に勤務、その後10年頑張って、漢方と調剤を兼ねた薬局に勤務。
そこで今の主人と出会って結婚。
最初の数年は別行動、その後引っ越して、夫婦二人で漢方と鍼灸を兼ねた治療院を約3年間経営、そこからまた引っ越して、調剤薬局を7年間経営、今は現役を退いて6年間無職。
雇われ勤務してる時は、一旦慣れちゃえばまぁまぁ適当にこなせるから、仕事自体は楽なんだけど、上司とか同僚にキッツい方がいらっしゃると、色々気を使っちゃって―メンタルに響くのよね。
自分で経営すると、人間関係は楽なんだけど、仕事量と責任が倍に増えるのよ。
わたし達の場合、夫婦二人で切り盛りしてたから、どっちが倒れても困る。
しかも薬局でしょ?ノロとかインフルとか毎年襲撃されちゃうの。コロナよりはマシだけど。
近くの病院が夜遅くまで営業してるもんだから、それに合わせて薬局も開けてなくちゃならなくてね―心身ともに壊れちゃった。
―でも。いつまで凹んでいても仕方がないわよね。
わたしはベットから起き上がり、両足を踏みしめて―…歩き出した。寛解後の「決死の第一歩」ってわけ(笑)。
とりあえず、健常者たる日常の雑務をこなせるようにならなければ―。
…真新しいタオルを取って、前髪をピンで止め、顔を洗いに行く。
わたしはふと、ごくごく自然な流れで、洗面台の鏡に目をやった。
―………すると。
…なんと、そこには―…目を覆うような“バケモノ”が映っていた。
白髪交じりでボサボサの髪。深い溝のようなシワの入ったおでこ。たるんだまぶたとメンヘラ特有の眼。つやのない頬とほうれい線。色気のない薄い唇。
それもそのはず、わたしは6年間も、ドス暗い墓場の棺桶で、うつを患って死んでいたのだから。
直近の記憶は、確か46才だった―けれど、鏡に映った自分は、精気を失った52才だった。
かつて第一線の薬剤師として活躍していた面影はどこにもなく、ただ単に脳が空っぽになった老人がそこに突っ立っていた。
―アナタ ハ ダレ…―?
少なくとも大学生の時は、“天真爛漫”でボーイッシュな女の子として、日の当あたる場所を謳歌していた。
それが、社会人になった頃から、いつの間にやら世の中の下僕として扱き使われ、徐々に笑顔を失っていった。
そして6年の闇を潜り抜け―遂に、老化したゾンビとなって甦ってしまった、って事…なの、ね―。
わたしはヨロヨロとベッドに戻ると、失ってしまったモノの大きさに気が付いた。
メイクとお洒落。フリルとリボン。若さと奔放さ。弾む胸と恋。
そういった、女の子特権の“キラキラ”を、いったいどこに置き忘れてしまったのだろう。
主人は言う。「それはさぁ―無いモノねだり、だよね」
「いいじゃん、引き換えに薬剤師っていう社会的地位を得たんだから」
「概ね、女子力と勉強は、両立しないんだよ。俺の周りのクラスの女子も、みんなそうだったもん。」
そうかしら?―わたしは…。
勉強や社会的地位と引き換えに女子力を捨てたわけじゃない。
薬剤師ってのはね、真面目なら、そこそこの勉強量で誰でもなれるのよ。
女子力を犠牲にする程の勉強量なら、およそ医者・研究者くらいには到達してる。
わたしはこれまでの人生、事あるごとに言い訳をしては、勉強をサボって来た。
それに、わたしには「男の子になりたい」という、特殊な願望もあった。
だから敢えて、自ら、怠けと目先の楽しさを追求するためだけに、勉強と女子力の両方をドブに捨てて来たのよ。
そして今、残された数少ない武器である、若さと国家資格の能力さえ失っている。
手に残されたものは―何も、無い。
わたしは気落ちして、数日間寝込んでしまった。
まるでパソコンを強制的にシャットダウンしたかのように、動けない―。
まさかとは思うけど、うつ病特有の、あの暗く長いトンネルに、また入ってしまうのかしら…?
―それとも、今はただ単に眠りにつくだけで、目覚めたら何でもない日常が待っているのかな。
―…あぁ、神様。
わたしは贅沢なんてこれっぽっちも望んでなんかいません。通常の人間として、健康的な日常生活が送れれば、それで十分なんです。
「生きるための活力」と、「快楽を享受する能力」を、わたしにください。
このまま老いるなんてイヤ―…!!!
眼を閉じたまぶたは固く、開くことができない。
深く深く、闇と病みの中へ、ズブズブと沈んで行く―カラダが重たい…あぁ―。
はぁぁ~~ “わたし”パートは疲れますぅぅ~…orz
キャラが苦悶に満ちていると、書いてる作者の眉間にもシワが寄るんですわ(笑)
次の“ぼく”はおちゃらけたヤツで、流ちょうにしゃべるので、耳障りは良いかと。
ではまた、ごきげんよう…Ciao!




