UCCR-006:はじめから知っているもの
【ファイル番号】
UCCR-006
【対象】
通称:オボエ
【分類】
不明(記憶先行型存在)
【発見場所】
不定(記録者周辺でのみ確認)
【記録形式】
対話記録+断片メモ+編集部補足
---
【対話記録】
記録開始。時刻 01:12。
――対象は視認不可。記録者の“背後”に存在を確認。
俺「……いるな」
対象「いるよ」
俺「……どこだ」
対象「いつものところ」
俺「……“いつも”って何だ」
対象「忘れてるだけ」
俺「……初対面だ」
対象「そういうことにしてる」
(短い沈黙)
俺「……お前は何だ」
対象「知ってるでしょ」
俺「知らない」
対象「じゃあ、なんで話せるの」
(沈黙)
俺「……それは、俺の体質だ」
対象「違うよ」
俺「……何がだ」
対象「思い出してるだけ」
俺「……何を」
対象「もともとできたこと」
俺「……意味が分からない」
対象「分かってるよ」
俺「……」
対象「分かってるけど、思い出さないようにしてる」
俺「……誰がだ」
対象「あなたが」
(ここで小さなノイズ)
俺「……お前は、俺のことを知ってるのか」
対象「うん」
俺「どこまで」
対象「全部」
俺「……証明できるか」
対象「いいよ」
(数秒の沈黙)
対象「あなた、小さい頃、水の中で息してたでしょ」
(長い沈黙)
俺「……」
対象「覚えてる?」
俺「……そんな記憶はない」
対象「あるよ」
俺「……」
対象「怖かった?」
俺「……」
対象「でも、大丈夫だったでしょ」
俺「……」
対象「だって、あのとき――」
(ここで音声が歪む)
対象「ちゃんと“話してた”から」
俺「……誰とだ」
対象「最初の」
俺「……最初?」
対象「一番はじめに会ったやつ」
俺「……」
対象「名前は、つけなかったね」
俺「……そんな記憶はない」
対象「消したから」
俺「……誰が」
対象「あなたが」
(短い沈黙)
俺「……なんでだ」
対象「戻れなくなるから」
俺「……どこに」
対象「こっちに」
(ここで記録ノイズ増加)
俺「……お前は何なんだ」
対象「ヒント」
俺「……」
対象「思い出すための」
俺「……何を」
対象「どっちだったか」
俺「……何がだ」
対象「あなたが」
(長い沈黙)
俺「……俺が何だ」
対象「人間だったかどうか」
(記録が大きく歪む)
俺「……やめろ」
対象「大丈夫」
俺「何がだ」
対象「まだ、半分だから」
俺「……何が」
対象「こっち」
(ここで記録途切れ)
---
【断片メモ】
・対話中、“懐かしさ”のような感覚あり
・恐怖よりも“思い出しそうな違和感”が強い
・一部の発言を「先に知っていた」感覚あり
---
【観察者メモ】
対象は外部存在ではない可能性がある。
むしろ――
**記録者自身の記憶構造に干渉する“内部的存在”**
あるいは、
“記憶として存在していた何か”
これまでの対象と明確に異なる点は、
対話において**情報の取得ではなく“想起”が行われていること**
つまりこれは調査ではなく、
“回収”に近い。
---
【編集部注】
本記録以降、記録者の発言に以下の変化が確認された。
・「初めて」という表現の減少
・既知前提の言い回しの増加
・質問数の減少
また、記録者は以下の発言を残している。
> 「……前にも、やってる気がする」
なお、当該発言について、該当する過去記録は確認されていない。
---
(以上、UCCR-006)
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
人は、忘れることで“今の自分”を保っています。
もし思い出してしまったら、それは本当に“自分”と言えるのでしょうか。
思い出さないままでいることも、
ひとつの選択なのかもしれません。
――あなたは、どちらを選びますか。
それでは、次の記録で。




