転生してから五年が過ぎた2
「アルソルト陛下、あのマサシゲは拾い物でしたな。」
「なんだ?もう魔法も幾つか覚えたか?」
魔法にしか興味を持っていないであろう帝の言葉に、新たに軍務大臣となったベントルは、恐怖で一瞬身体を震わせた。
「申し訳ありません。攻撃魔法の方はまだマスターしておりません。水と雷の二人の宮廷魔導師をつけているのですが、まだ生活魔法程度のものしか使えておりません。ただ、刀剣術はマサシゲの地元の剣術に相性が良いようで、五歳にして師範代のレベルにまで到達しております。」
汗を拭き拭き答えるベントル大臣に、アルソルトはさもありなんという当たり前の態度で答える。
「俺の血を引いているんだ、剣術については全く心配しておらん。先祖帰りの魔法のレベルがどれくらいのものなのか、それが早く知りたい。」
「はっ!判りました。二人の宮廷魔導師に魔法の学習をより推し進めるように伝えておきます。」
アルソルトがその場を去ったのを確認した後、ベントルは一休みしているマサシゲの元に足を運んだ。
「なかなかの腕前じゃの。ところで魔法の方はどうだ?進んでおるか?」
「水魔法は、井戸の代わり程度には使用可能となりました。雷魔法は少しピリッとする程度で、実践するにはなかなか威力に乏しいと思われます。」
「そうか、アルソルト帝もお前には期待しておる。励めよ。」
そう言いながら、その場からベントルが去っていくのを確認すると、マサシゲは大きくため息をついた。
実際には、マサシゲは既に、水球、水壁、氷針、氷弾、氷槍、氷壁、以外に水隠、水癒、水捜査、解毒、氷雪嵐などの水魔法を使い、雷魔法も、電弾、雷光、稲妻刃、雷嵐、神雷などは使用できるようになっていた。
その上級魔法の殆どは、宮廷魔導師でさえも使用できる者はいなかった。
主要な武器としては、日本刀に近い少し反りのある片刃の剣を使用していた。まだ、身長が足りないために、小刀ほどの長さでしか十分に戦えないことから師範代クラスとされていたが、その技術は既に免許皆伝のレベルにまで達していた。
見た目は五歳くらいの少し痩せ型の少年で、金白色と蒼色の房の混じったくるくる巻き毛の白銀の髪をトップは長めに、サイドから後部にかけては刈り上げており、今で言うツーブロックのような髪型にまとめていた。大きな瞳は黄金色とサファイアのような蒼色のオッドアイで、その少し吊り上がった目には、意志の強さが感じられた。
「おい、カス。」
その言葉に反応せず、そのまま休んでいると、突然左頬に拳骨パンチが飛んできた。
「テメェ、無視すんじゃねぇ!」
起き上がったマサシゲの腹部と再び左頬に、更に二発のグーパンチが飛んだ。
「なんですか?魔石の埋め込み手術が成功したのに、種火程度の魔法しか使えないお兄さん。」
「ガキが、少し目をかけられてるからって、調子漕いてんじゃないぞ!」
そのまま押し倒され、馬乗りでマウンティングされた状態で、顔を何度も何度も乱打され、力が抜けた時点で、今度は立ち上がってのメッタ蹴りで、マサシゲの意識は朦朧状態へと陥った。
「おい!そのままそいつが死ぬと、俺達にも火の粉が飛んでくるんだが、正直に王に話しても良いんだったら、そのまま続けな。」
背後から傍観していた一番年長の金髪ロン毛の気障ったらしい男が、その短髪マッチョの男に声を掛けると、最後にそいつはマサシゲを蹴り飛ばして、その場を離れた。
「お前もお前だ。ここは後継者選定の場だ。やり返しても一言二言嫌味を言われるだけで、たいして問題になることもない。」
「やり..返しても....良いんで..すか?」
マサシゲの途切れ途切れの言葉に、そのロン毛は、何言ってるんだこいつというような顔をして答えた。
「当たり前だろ。ここはさっきも言ったが、後継者選定の場だ。たいていの怪我には目を瞑られる。」
「そうで....すか。」
「水刃」
マサシゲの言葉と同時に放たれたそれは、彼から後ろ向きに離れて行きつつある金髪短髪男の右手首をスパッと斬り落とした。
「ウギャァァァァァ!」
その場に男の声が響き渡り、右手首から噴き出した血が周囲に撒き散らされた。
「手が!手が!俺の手が!アガガガカガガ!」
短髪男はあまりの痛さに、血を撒き散らしている右手を押さえて転がり回るが、マサシゲは落ちていた右手を拾い上げて、男に近づいていき、右手を切断面へ合わせると、
「水癒」
水系の癒しの魔法を使った。
「大した事なかったら、問題にならないんだろ。俺は部屋に戻るから、文句あるならベントルにでも言うんだな。あ〜、そうそう今日は右手は無理すんなよ。ポロッと落ちるからな。俺はそれには責任持たないぞ。」
五歳とは思えないセリフを吐いて、マサシゲは笑いながら部屋へと戻っていった。
「バ....バケ..モノ」
去って行くマサシゲを見ながら、短髪とロン毛は、言葉を震わせた。
ありのままの事実を話せば、後継者レースは大きくマサシゲに傾くのは目に見えて明らかだった。しかし、放って置くことができるほど、生易しい相手ではないことは理解していた。
「毒でも盛ってやろうか。」
そう言葉を漏らした短髪に、
「もうとっくの昔からやってる。魔物でも一瞬で殺せるような毒を使っても、平気でピンピンしてる。恐らくは、スキルとか薬で解毒の手段を持っているんだろうな。」
ロン毛がそう答えた。
「俺達にとって救いなのは、奴が帝位や後継に興味がないってことだ。兵隊に使うなら、あれ程の才能だ。逆にありがたい存在になるだろうな。ムカツクけど。」
ーーーー
その日の夜、部屋で魔力循環をしていたマサシゲに、明日の朝出発する旧王都の視察に同行するようにとの命令が届いた。
「よし!これで家族を探せる。」
そう考えたマサシゲは、収納空間から十字のクロスのクリスタルペンダントを取り出した。
「明日、探しに行くから、待っててね!」
そう言うと、すぐに床についたが、その日は興奮してなかなか寝付くことができず、逸る心を落ち着かせることのできなかったマサシゲは、視察一行が集まる正門に誰よりも早く駆けつけ、自分用の小型の馬に乗って、夜が明けるよりも早い時間から待っていた。
その後数日かけて到着した旧王都には、マサシゲの求めていた家族の気配はなく、何か痕跡はないかと探していた彼の目は、最近融けたように見える岩や大地を捉えた。
「これはなんだ?」
「はい、この近辺のバラックで暮らしていたドワーフの親子が居たのですが、最近母親が亡くなった為に、その娘が火葬した痕です。」
「ドワーフの火魔法は、これほどまでに強力なのか?」
「個人の才能にも左右されますが、我々と比較すると、かなり強力だと言えます。それが鍛冶の才能に繋がっているとも言われています。」
「その娘の火魔法を見てみたいのだが可能か?」
問われた兵士は周りの者に指示をすると、何名かの下級兵士がバラック外へと散っていった。
マサシゲには、これだけの火魔法を使う相手と戦闘した時に、自分の水魔法が打ち勝つ状況が想像できなかった。恐らくは全ての水魔法、氷魔法が一瞬にして蒸発させられてしまうだろうと推察できていた。
「マサシゲ様、配下の者によると、その娘はここで母の遺体を焼いた後に、このバラック街を出て南に向かったそうです。おそらくは国に帰ったものと推測します。」
その返答の内容に、マサシゲはそのドワーフへの興味を失くし、それからも付近の捜索を日が暮れるまで続けていたが、当然、何の手がかりも掴むことはできなかった。
最後までお読み頂き誠にありがとう御座います。
何分にも素人連合でございますので、御評価頂けますと、今後の励みになります。是非とも最下部に設定されている☆☆☆☆☆でご評価頂けると有り難いです。
よろしくお願い致します。