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魔大陸エテン

「はぁ、やっと地上に出たけど、何さ、これ?」


「そうだよ、ダンジョン内の方がまだマトモだったよ。」


ファナとアテルは、小さな身体を震わせながら、身体を抱きしめるように縮こまった。


曇天の雲の下、荒れ狂う海の中に立つ巨大な岩の上の鳥居を持つ社に、白の襟元の開いたノースリーブタイプのAラインドレスを纏い、額鎧、ガントレットを身に着け、右手に自分の身長より高い神杖を持ち、癖の無い白銀のサラリとしたロングヘアーと額上部から突き出した二本の反りのある色違いの角と真紅の瞳を持つ少女が、その両サイドに、真っ黒な全身鎧を身に纏い背中に大きなツーハンデッドソードを背負った赤髪の金色の瞳の大男と、水色のロングワンピースに両手と両足に金色の手環、足環をつけたアクアマリン色の長い髪の紺碧の瞳を持つ背の高い女を控えさせて立っていた。


前方には、金色の模様が刻まれた真っ白なロープを纏った黒髪に水色の瞳を持つ十歳位の少年と、真紅のゴスロリを身に纏った肩までの白髪の巻き毛の猫耳少女、金色の軽鎧を身に纏い、背中に真っ白な四枚の翼を持った金髪碧眼の少女の三人が並んでいた。


そして、最後に中央の少女の肩には、身長十五センチ程で真っ白な緑の翡翠色の房と伽羅色の房が混じった髪を、高い位置でツインテールに纏めたエメラルドグリーンと琥珀色のオッドアイの瞳を持つ少女が、座っていた。


ボロボロの太いしめ縄と、朽ち果てた鳥居を潜り抜け、崖の端に立った少女は神杖を高く掲げ、一言告げた。


「光あれ!」


すると曇天の厚い雲に覆われた空は、杖の指し示した先から逃げるように割れて、真っ青な高い空が広がり、地上は光に満ちた。


「道よ、あれ!」


すると、崖の先端から光がどんどんとアーチ状に伸びていき、対岸の陸地まで橋をかけた。


「僕さ、ウェスタ様と知り合いになれてホントに感謝してるよ。こんなの見ちゃったら、今の僕には絶対に勝てる見込みなんてないもの。」


「ガハハッ、ラルネよ、それは大きくなったら勝てるって言ってるのと同じだぞ。」


「えっ?そうか、そう意味になるのか。ちょっと想像つかないや。」


そんなことを喋りながら、七人は対岸へと足を運ぶと、そこは大岩がゴロゴロと転がり、所々に緑が存在する程度の荒れ果てた大地があった。


高い空と気持ちの良い風には全く似合わないその風景を前にして、


「これは僕の仕事だね。」


そう言って、ラルネがウェスタの肩から飛び降り、軽く両手を開いて目を閉じて集中しだすと、所々に生えていた草たちが急速に成長し始め、その範囲をあっという間に広げ始めた。


ポツンポツンと生えていた痩せこけた枯れ木のような木も、ぐんぐんと背が伸び、幹が太くなっていき、その荒れ地は、十分ほどで緑豊かな草原へと変わった。


「こんなもんかな?」


それを見ていた六人は、その光景に呆然となりポカンと口を開けていた。


「うん?どうしたの?僕なにかした?」


「お前さ、これだけの魔力を使って大丈夫か?また種に戻ってしまうんじゃないのか?」


「へっ?大丈夫だよ。僕、自分の魔力使ってないからさ。この大地にある魔素と大気にある魔素を草や木に誘導して、成長を促しただけだよ。」


目の前に広がる草原は、ラルネの言うように簡単に創り出せるものに見えなかった五人が、ウェスタに尋ねると、


「ウェスタ様、ウェスタ様のお仲間の神々の中には、このようなことが可能な神様も見えるのでしょうか?」


やはり目の前の光景に圧倒されていたウェスタは、暫く思考にふけっていたが、最後には首を振って答えた。


「大地と豊穣の女神であるテメテルなら、可能かもしれませんが、こんなにもあっさりと行えるものなのかは、私にも判りません。」


「ラルネ、お前って、凄い奴だったんだな!」


そう言って、アジバがラルネの背中をポンと叩くと、ラルネはピューンと数十メートル飛んで地面にゴロゴロゴロと転がり、バタンキューと倒れた。


「う〜ん、ここはいつからこんなにも神素が多くなったんだろう?魔素の量はあまり変わらないのに、まるで誰も使ってないかのように神素が大気に溢れてる。」


「ウェスタ様、私達にはよく判りませんが、そんなにも違うのですか?私達がダンジョンに閉じ込められている間に、何か状況が変わったのでしょうか?」


アミュの問い掛けに、ウェスタは首を傾げた。


「うん、私がダンジョン抜け出してきたら、あのババアがすぐにでも駆けつけてくると思ってたんだけど....」


そう言って、ウェスタは空を見上げたが、相変わらず空は高く綺麗な青空だった。


「じゃあ、外にも出れたことだし、食事にしませんか?」


ラルネの提案に、すぐに全員が賛成し、アテルとアミュがあっという間に飛んでいった。


土魔法で竈と土鍋を作り、周囲の林から薪を集めてきて、家庭魔法の水魔法で水を出し、お湯を沸かしていると、アテルが大きめの鳥と卵を、アミュが二メートル程の鮭によく似た魚を持ってきた。


ラルネが元素魔法で岩塩を作り出すと、みんなに呆れたような顔をされ理不尽だと言われたが、無視して大きめの竈を新たに作成し、三枚におろした魚に塩をまぶして焼き始め、最初に作成した竈で卵焼きと鶏ガラスープを作り、網焼き塩チキンステーキを焼いていると、突然右側の草むらがガサガサと動いて、二人のボロボロの服を着た子供が姿を表した。


自分達よりも料理から視線が離せない子供を見て、


「食べる?」


と聞くと、信じられないような顔をして、思いっきり顔を上下した。


「皆さん、少し情報聞くのも兼ねて、この子達と一緒に食事したいんだけど良いですか?」


ラルネが近くの草原を土魔法で平らに均し、そこに大きな丸いテーブルと十脚程の椅子を作成し、そこに土魔法と元素魔法の混合魔法で作った食器に料理を乗せたものを並べ、コップに家庭魔法で水を出し、氷の欠片を入れた。


「ちょっとぉ、ラルネの土魔法とか家事魔法って常識外だよね。」


「そうだよね、ありえないよね。」


全員の同意を得られたようだった。


子供達に散々料理をご馳走して聞きだせたことは、この新大陸には子供達の知ってる範囲では、文明的な都市は存在せず、せいぜい木造平屋建て建築の集落があるくらいで、何箇所か石で作られた遺跡があるが、誰も住んでいないとのことだった。


「僕達のご先祖様は遠い昔にね、ヘステという悪い神様を信仰しているという理由で、偉い神様に怒られたんだって....」


「なんだと!」


アジバがテーブルを叩いて大声で叫びながら立ち上がった為、二人の子供は恐怖で座り込んでしまって、机の下に隠れた。


「アジバ!何をしてるの!子供達を怖がらせるなんて最低の行為ですよ。」


「しかし....」


「アジバ....」


「はい..」


「子供達、もう大丈夫ですよ。怖いおじちゃんは、メッ!しましたから、心配ありませんよ。」


そのウェスタの優しい言葉に、のそのそと椅子に座った子供達は、ウェスタの側に正座するアジバを見て、ホッと一息ついて再び食事を摂る食べ始めた。


「それで、その偉い神様は、あなた達に一体何をしたの?雷の嵐とか火の雨を降らせたりしたの?」


「ううん、私達の住む大地ごと、最果ての海へ追放したんだって。」


「「「えっ!?」」」


「もしかして、この大地の名前は?」


「エテンだよ!お姉ちゃん、そんなことも知らないの?」


「あの糞ババア、やってくれたよ。私達がダンジョン潜って出てこないって判ったから、信民ごと追放したってか!最悪最低のクソ女神だな。」


テレスの辛辣な言葉に、その場の誰もが頷いていたが、ただ一人ウェスタの顔色だけが変わっていた。


「これだけの大陸の転移です。相手側の創造神の許可なくしては絶対に不可能です。この世界ではこの地の神も敵ということでしょうか?」


「違う!」


蚊帳の外であった突然のラルネの言葉に、皆が驚いて振り返った。


当のラルネは、自分がどうしてそんな言葉を口にしたのかも判らず、口を押さえてオロオロしていた。


「ラルネ、あなたは何かを知っているのですか?」


「わ..わかりません..でも、私の心の中で誰かが叫んでるんです。」


そう言って、ラルネは胸に手を当て、その理由を考えながら、自分の深い所を探っていくと、涙が突然に次から次へと溢れてきて、身体が碧色に輝き出した。


「ど..どうした?大丈夫か?」


一段と輝きが増し、突然白眼になったラルネが椅子の上に立ち上がった。


【やっぱり!やっぱり!クロノ様は悪くなかった!ウラノにハメられた!】


あまりの大声に周りのみんなは耳を塞いだが、二人の子供だけはキョトンとした顔をした。


言い終わると、ラルネの身体からは力が抜け、崩れ落ちそうになるのをアミュが抱えた。


「スゴい神託ですね。たぶんこの星中に届いたと思います。」


「ラルネは、この星の神なのですか?」


「そうだとも言えますし、違うとも言えます。今のラルネには神力がありません。おそらくは体内に神の欠片みたいなものを抱えているんでしょうね。」


ーーーー

「えっ?誰?」


周りに誰もいない見渡す限りの草原で、エシュタルは周りをキョロキョロと見渡した。誰もいないことを確認した彼女の目からは大粒の涙が溢れていた。


「ん?ゴミでも入ったのかな?」


ーーーー

「誰だ!」


刀を抜刀して振り返ったマサシゲは、注意深く周囲の気配を探った。範囲を周囲百メートル程に広げても、探知できるような者は存在しないことを確認して納刀すると、再び歩き始めたが、鼻がムズムズして、水鼻がタラ〜と流れた。


「うわっ、かっこワル。」


ーーーー

「えっ?神託?」


森の中を白夜に乗り移動していたミレイは、どこの誰かも判らない神からの突然の神託に驚いた。


「誰だろう?白夜は判る?精霊神様じゃないし、聞き慣れない声だった。」


ーーーー

「えっ?」


「デメル!」


二人が同時に振り返った。キョトンとした顔の瑠夏と異なり、ミルヴァの目には涙が堰を切ったように溢れ出してきた。あまり、泣くことがイメージできない彼女が瑠夏に抱きつき、声を上げながら号泣する姿に、女性に慣れていない瑠夏は硬直するしかなかった。


(生きてた!生きてた!デメルが生きてた!信じられない..もしかしたら、ティアとアノスも)


食事を堪能し、目を覚まさないラルネの頭を撫でながら、ここがエテンの北端なら必ずこの近くにあるであろうものを、ウェスタが尋ねた。


「さっき話してた。石の遺跡だけどさ。この近くにもあるんじゃないの?」


「お姉ちゃん、よく知ってるね。ここからもう少し行ったところに、この辺りで一番おっきい遺跡があるよ。でもね、そこには外の大陸から僕達を狩りにくる人達がいるの。」


「君達を狩りにくる?」


辛そうに眉を寄せながら、更に子供達は言葉を続けた。


「うん。正確には僕達のここにある命の石を狩りに来るの。」


そう言って、子供は自分の胸を指差した。


「命石取られたら、死んじゃうじゃん!」


ファナが驚き、大声をあげた。その声に寂しそうな声で子供達は言葉を続けた。


「僕達子供は、すぐに殺されないの。大きくなるのを待ってから殺されて、盗られるの。」


「そいつらは、命石で何をするの?」


テレスの問い掛けに、更に子供達は答えた。


「あの人達は、生まれた時に命石を持っていないの、だから命石を身体に埋め込むと魔法を使えるようになるんだって。大人の人達がそう言ってた。」


その言葉を静かに聞き終えたウェスタが、ゆっくりと口を開いた。


「ダンジョン抜けたら、ヘラに一泡吹かせてやろうと思っていましたが、それよりも大切なことができました。民あってこその神です。私達には使命が生まれました。この大陸を平定し、かつての文化を取り戻すことが我が使命と考えます。協力してもらえますか?」


「「「「「御心のままに!」」」」」


五人は、起立して敬礼のポーズを取った。


ラルネは幸せそうな顔をして、ウェスタの腕に抱かれて爆睡していた。


ーーーー

この夜、新大陸最北部に布陣していたドラマドル帝国の魔神狩り担当第一大隊が、一夜にして全滅し、拠点としていた遺跡は真っ白な砂へと変わった。


ウェスタは、最初は遺跡をそのまま拠点として活用するつもりであったが、内部で行われていた悍ましすぎる狂宴を見て、廃棄することに決めた。


内部に囚われていた子供達は全員生きたまま救出できたが、既に命石を抜かれていた成人以降の男女の救命は不可能であり、救出した子供達も、五体無事な者は一人もいなかったが、テレスとラルネの回復魔法がフル稼働したお陰もあって、ことが終わった時点では、全員元の身体を取り戻すことができていた。


この日から、新大陸の住民である旧魔人達の逆襲が始まった。最北端の地に新しく神殿が創られ、そこを中心に上下水道完備の都市システムが構築され、各自の居宅も木造ではなく石を資材とした街づくりが開始されていた。


その際に、ラルネの持つ元素魔法と前世の知識が大いに役に立ち、特に魔物の魔石を使った入浴施設やトイレシステムは、ほぼ前世の設備を再現できており、あまりの快適さにウェスタ一行にとっては、ラルネの国は、行けるなら一度は行ってみたい世界認定された。


最初の頃は救われた少年少女のみの街であったが、噂が噂を呼び、その街には新大陸の至る所から旧魔人と呼ばれる人達が集まり暮らすようになり、一年ほどで人口は三千人を超えた。


都市の周囲には外部からの侵入を拒むように分厚い高さ三十メートル程の壁が構築され、その手前には巾五十メートル程の堀が掘られなどの対策が取られた為、ドラマドル帝国からの軍隊が何度も何度も襲いかかってはいたが、その都度散々な目にあい、ほぼ全滅の憂き目にあっていた。


その為に死人の王亡き後のエルフ王国跡地への侵攻は中断され、新しい戦士を生み出すことができない彼らの帝国は、かつて大陸一の強国だった姿は見る影もなく、現在の自国の領土を維持するだけで精一杯の状況となっていた。


ここにアストレアの勢力地図は大幅に書き換えられた。

最後までお読み頂き誠にありがとう御座います。

何分にも素人連合でございますので、御評価頂けますと、今後の励みになります。是非とも最下部に設定されている☆☆☆☆☆でご評価頂けると有り難いです。

よろしくお願い致します。

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