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アルマの胸は凶器

「今日から皆で一組だね」


「また言ってる」


学校への道すがら、鼻歌でも歌い出しそうなほど機嫌の良いアルマに、ディアナもクラリッサの二人は呆れたように苦笑を浮かべていた。


「だってやっと二人と一緒に勉強できるもの。今まで違うクラスだったから正直寂しかったのよ」


三組、二組と同じクラスだったディアナやクラリッサと違って、これまで彼女だけがずっと違うクラスだった。もちろん社交的なアルマなので一組にも友達はもちろんいるが、それでも二人と一緒のクラスになれたことが心底嬉しそうだった。


「そうですわね。わたくしもアルマさんと同じ一組に昇級できて嬉しいですわ」


「ん」


二人ともアルマの笑顔に釣られたように、今日から同じクラスになることを素直に喜んでいた。

ディアナとクラリッサの二人は、基礎学年が終わるときにエメリヒに呼び止められた。


「お前達二人は、新学期より一組に昇級するから」


何ごとかと一瞬身構えたディアナだったが、教師から告げられたのはかねてから噂されていた通り、応用学年から一組への昇級を告げるものだった。

入学時に三組だった者が一組にまで昇級するのは、ユンカー魔法学校が始まって以来のことだと、エメリヒが興奮したように一方的にまくし立てていた。

それまで二人は二組でも群を抜いて優秀な成績を収めていたが、あの日の模擬戦が昇級の決定打となったのは間違いないだろう。一、二組のほとんどの生徒が目撃していたため、上位のクラスに二人の実力を疑う者はいなくなっていた。それどころか模擬戦を目の当たりにした教師達の働きかけによって、学校の教育プログラムに身体強化魔法を加えることが正式に決まったそうだ。

さすがに今期中は、教える先生の手配が間に合わず、また身体強化を使った授業内容(カリキュラム)もまだ検討の段階でしかない。そのため今年に限って前後期に一度ずつ、ディアナ達三人が臨時講師として身体強化の仕方について教えることになっていた。


「身体強化といえば、どうやらブルーノが休暇の間に身体強化の練習を始めたようですわ」


ブルーノは、ビンデバルト家の寄子であり子爵の地位を有し、貴族家に名を連ねている人物だ。

成績優秀で学年主席であるが、入学時の因縁からディアナに対抗意識を燃やし、彼女に対するあたりが強かった。

前期が終わった後の長期休暇に、模擬戦でディアナに完敗を喫してからは多少おとなしくなっていたが、後期最後のクラリッサとの模擬戦を目の当たりにしてからは、またメラメラと対抗意識を燃やし始めたらしい。


「休暇の間に兵学校の紹介で講師を招いたみたいですわ。噂では『次は負けねぇ』とエルマーと二人で必死で練習していたそうです」


「まだ諦めてなかったんだ」


口真似まで披露したクラリッサに、苦笑いを浮かべたアルマが呆れたような声を上げる。

眉目秀麗なブルーノは女生徒からの人気が高く、前期くらいまではアルマも彼に恋心を抱いていた。

しかし身分差もあって報われぬ恋だと悟ったのか、今ではその熱もすっかり冷めていた。代わりに他に熱を上げるお相手がいるようで、休日に探索士としての活動がない日は、どこかへと一人で出かけることが多くなっていた。


「ブルーノが身体強化を覚えたら、相当強くなりそうですわね」


もともと高い魔法能力で学年首席だったブルーノだ。身体強化魔法をものにできれば、この世代でも飛び抜けた存在になる可能性があった。


「ん、関係ない。次もあたしが勝つ」


そんなことは関係ないとばかりにディアナが意気込みを見せる。

こういった流れになれば、意外にも血の気の多いところを見せるディアナを、アルマが正面から抱きしめた。


「いやぁディアナちゃんったら、前はそんなこと言う子じゃなかったのに。昔のディアナちゃんに戻ってぇ」


もちろん冗談でアルマは笑顔を浮かべているが、抱きしめられた方はたまらない。

小柄なディアナは彼女の豊かな胸に挟まれて呼吸ができず、ジタバタともがくことになる。


「アルマさん、そろそろ離さないとディアナさんが窒息してしまいますわよ」


「えっ?」


クラリッサの指摘にアルマが視線を下げれば、呼吸ができずに青白い顔を浮かべるディアナの姿があった。


「まぁ大変! ディアナちゃん大丈夫!?」


慌てて離れたが少し遅かったようだ。

ぐったりしたディアナが、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。


「大丈夫ですかディアナさん。んもう、お二人は体格差があって危険だとあれほど言ったではないですか!?

もう少しでディアナさんが天に召されてしまうところでしたわよ」


入学した頃は頭半分ほどの体格差だった二人だが、一年経った今では大人と子供ほどの差になっていた。

二人が並んで立つと、丁度ディアナの顔の目の前にアルマの胸がくるのだ。

学校のローブで誤魔化そうとしても、それに負けることなく彼女の胸が存在を主張していた。


「気持ちよさに誤魔化されそうになるけど、アルマの胸は凶器だから」


「ひどい! 凶器じゃないですよぉ」


息を吹き返したディアナがうっとりしながらアルマの胸を見つめ、アルマが口を尖らせて胸を軽く持ち上げてみせる。

ローブ越しではあるが、手のひらからこぼれそうな大きさであることがわかる。通りすがりの男性が思わず二度見するほどの威力があった。


「抱きつくのはいいですけど、見境なく抱きつくのは考えた方がいいと思いますわ」


クラリッサは、さりげなく自分の身体を移動させてその視線をさえぎった。


「だってディアナちゃんお人形みたいでかわいいんだもん。それにわたしは誰彼構わず抱きついてる訳じゃありませんよぉだ!」


今度はディアナを抱き上げるように持ち上げたアルマが、クラリッサを見て口を尖らせる。

感情が高ぶればすぐに抱きつく癖があるアルマだが、彼女の言うとおり相手はちゃんと選別しているようで、ディアナとクラリッサ以外には抱きついたりはしなかった。


「確かにわたくしも、こんな子が妹だったらと思うことがありますけれど」


「あたしは人形でも妹でもない」


アルマを(たしな)めるクラリッサだが、彼女もアルマと同様にディアナの頭をよくなでていたりする。

意外とスパルタなディアナの練習への意趣返しなのか、二人は時折ディアナをマスコットのように可愛がって遊ぶようになっていた。

もちろんディアナは口を尖らせて抗議するものの効果はない。それどころか、傍目には三姉妹または母親と姉妹の末っ子(ディアナ)が、二人にからかわれて拗ねてるようにしか見えなかった。


「抱きつかれて昇天させられたらたまらない」


そう言いながらもまんざらでもないのか、ディアナもアルマにされるがままだ。

一度味わえばやみつきになる心地よさがあるため、彼女の胸の柔らかさからは抗いがたかったのだ。


「いつか二人を見返す」


しばらくおもちゃにされたあと、ようやく解放されたディアナはいまだに膨らんでこない自分の胸を見下ろしながら、決意を新たにするのだった。

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