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80 お父上をちゃんとお送りしろよ

 -----書簡の内容はこうだ。

 -----ンドペキが、手渡された書簡を読みながら、その場で逐一伝えてきた。

 -----口外無用で頼むぞ



 概略は以下のとおり。



・地球への帰還を望んでいるパリサイドは十万人。


・先遣隊として、すでに三万人ほどが地球に降り立っている。願いが認められれば、残りは順次帰還してくる。


・地球人類と交じり合って暮らすことを認めて欲しい。


・それが無理なら、隔絶されたところで独自の街を作りたい。


・独自の街を作る場合も、地球政府の一員として認めて欲しい。


・その場合、街の規模は、既存の街の人口密度に照らし合わせた適正規模でよいが、最低一万人以上のまとまりとして欲しい。


・居住地は、地上であれば、いかなる気象条件のところでもよい。


・街以外に少しの生産用地が欲しい。


・土地以外には、なんら物質的援助は求めない。



 最後に、


 我々は同じ人類として、地球に生まれた者同士として、平和に生きていくことを望んでいる。

 袂をわかった五百三十一年間があったとしても、それは諍いの上に生まれた断絶ではなく、思想の違いによって生まれた離別であったことを思い出していただきたい。

 我々は変わった。思想も社会も、そして身体も。

 しかし、我々は、我々を、地球人類と同じ思想を持つ者であると断言する。

 地球に迎え入れてくれることを希望する。


 締めくくりには、

 希望が聞き入れられた暁には、地球人類にとって有用な様々な技術を提供する用意がある。

 と結んであった。




 そして、回答期限。


「一週間後か……」

 コリネルスが呟いた。

「けっ、脚元をみやがって」


 部隊の誰もが沈み込んでいた。

 パリサイドの書簡は、読みようによっては居丈高で身勝手だといえる。

 小さな面積とはいえ、庭先の土地をよこせと言っているのと同じ。

 世界中の街に同じ文章を示しているというのだから、足元を見ているというコリネルスの指摘は正しい。

 わずか数日で、各都市が足並みを揃えた結論を出せるとは思えないからだ。



 イコマも、暗澹とした。

 今、世界は六十七箇所の都市で構成されている。

 それぞれの関係はゆるい繋がりで保たれ、独自の統治が行われている。


 上部機関はあるが、単に地球政府、あるいはワールド政府と呼ばれているだけで、実態は誰も知らない。

 レイチェルはニューキーツの街の行政長官だと名乗った。

 彼女はベールに包まれたそのワールド運営機関の一員なのだろうか。

 それとも、単なる現場所長みたいなものだろうか。



 一週間後に出る返答は……。



 いずれにしても、今の平穏な暮らしに大きな変化が起きるだろう。

 最悪の場合、一気に戦争に突き進むことになるかもしれない。


 少なくとも、この部隊の空気を見る限り、パリサイドを喜んで受け入れようという気分でないことは明らかだ。

 ハクシュウも自分の考えを言おうとはせず、隊員が様々な想像を膨らませるに任せていた。



「無理だ……」

 ひとり、隊員が呟いた。

「何がだ」

「どう転んでも……」

 一種の絶望感が、その言葉を吐かせたことだけは確かだろう。 



 ハクシュウが、がばりと立ち上がった。

 隊員を奮い立たせるように、陽気な声を出す。


「さあ、そろそろ取り掛かるか。明日の朝、十時には交代の部隊が来る。それまで、何も見逃すな!」

 そして、命令を下した。

「全員、持ち場につけ!」


 よく訓練された部隊だった。

 無理だと呟いた隊員も含め全員が、俊敏な動きで一瞬のうちに散っていった。


「チョットマ。街へ戻れ!」

「ハイ!」

「お父上をちゃんとお送りしろよ」

「ハイ!」

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