81 オルゴールが呼び覚ますもの
驚いた。
コンフェッションボックスに入るなり、
「うわ! ここ! ここよ! 私の家!」と、アヤは叫んだのだった。
いの一番に、子供の頃いつもそうしていたように、見慣れた椅子に座った。
背を股に入れて。
「すごい! なぜ、こんなこと、覚えてるんだろ! 私、いつもここに座ってた!」
おじさんが笑った。
「そう、そこで君はいつも宿題をしていた。狭いマンションだったから、中学生だったのに自分の部屋をあげられなくて、いつも気にしていた」
「ううん、そんなこと!」
「よかった、喜んでくれて」
アヤは、心底、うれしかった。
涙ぐみそうになるのを堪えて、おじさんの、イコマのオフィス兼住まいの狭いリビングを歩き回った。
かつて私達が住んだ部屋……。
「うわ! 凝ってるね。これ!」
サイドボードに飾られたフォトフレーム。
家族三人で行った、北アルプスの白馬雪渓の写真。
「これも!」
アヤがユウの誕生日に買ってきた、ピアノの形をしたオルゴール。
「まさか」
ゼンマイを回すと、あのJポップの名曲が流れ出した。
それに合わせて、アヤは口ずさんだ。
「すごい……。私の記憶、どんどん生まれてくる感じ!」
そんなこともあるのかもしれない。
マトの記憶がどのように削除されていくのか、そのシステムは公にはされていない。
むしろ、再生時に注入されない記憶があるというのが、正しい表現だろう。
不要と思われるものから、ランダムにお蔵入りだ。
ただ、完全に消去されるわけではないようだ。
どこかに保存されている。
現に、完全に忘れてしまったはずのことを急に思い出した、というマトは多い。
今、まさにその状態だった。




