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7 サリがどうしたって、どうでもいいこと

「ね、ンドペキ、さっきのマスターの話、どう思う?」

 スジーウォンがあっさり話題を変えた。


「サリの? そうだな、ハクシュウはシャイだから」

「だから、あんなに怒り狂ってたって?」

「俺達のことを心配していても、あんなふうにしか言えないんだな。それが彼の持ち味」

「持ち味ねえ。単に、馬鹿じゃない?」

「おい、オマエ」

「だいたいさ、私はサリがどうしたって、どうでもいいこと」




 俺も、ある意味では同感だった。

 サリがいなくなることで戦力的にダウンすることは否めないが、だからといって悲しみはない。

 肉体が消去されたのか、あるいは遠く離れた街で別の人間として再生されているのか知らないが、いずれにしろ自分達とはもう関係のない人間。


「それをさ、チョットマのやつ、深刻に考えやがって、いい迷惑」


 スジーウォンは突っ立ったまま、ンドペキにだけ聞こえる声でメッセージを送ってくる。

 生の音声として聞こえてくるのではない。

 戦闘時に使うパーティチャンネルではなく、至近距離にいる者だけにしか聞こえない微細な電波を使っている。

 いわゆるラバーモードと呼ばれている通信。

 軍の正規品ではないし、むしろ使用を禁止されている装備だが、これを使っていない者に今まで出会ったことがない。



「あいつがあんなんじゃ、まともな狩りもおちおちできない」

「ははん。じゃ、スジーもあの娘に一目置いてるんだな」

「フン、茶化すな。そりゃさ。あいつがいるから、後ろを気にせずに突っ込めるんだから。ちゃんとして欲しいよ。サリがいなくなって、その役割はチョットマが担わなきゃいけないのにさ」




 兵士が出動する紛争や戦争がなくなって久しい。

 現代の兵士は、街の周辺の安全確保を主任務としているが、その相手は、戦争で破壊し尽くされなかった戦闘用マシンや、強大化した生物兵器の成れの果てなどだ。


 報酬は政府から出るが、額はわずか。それだけではまともな暮らしを営めない。

 ほとんどの兵士はマシンが体内に有しているICチップや、廃墟に残されたレアメタルを回収しては売り、生計を立てている。

 幸か不幸か、どの大陸にも戦闘用のマシンはまだまだ数多く闊歩していたし、数百年前の文明が残した都市の廃墟は、ほとんどが手付かずのままといってもよい状態だ。



「ね、今度のミーティング、出なくちゃいけないかな」

「軍法上、マスターが召集した会議に出ないのは違反行為だ」

「わかってる。あんたが副隊長だってこともね。でもさ、いまさらサリを探しにいくってのは、どう考えても無意味だろ? そのための打ち合わせなんて」




 サリが忽然と姿を消してから、すでに一週間ほど経っている。

 スジーウォンは、サリの亡骸が、あるいは何かの遺留品が現場周辺に残されているはずがないというのだ。


 普通、人が死ねば、死体はすぐさま回収される。

 どういう仕組みが働いているのか、兵士も街の者も誰も知らないが、数時間後には死体が身に着けていたものも含めて跡形もなく消失する。

 万一、血が流されたとしても、それさえ回収されるのだ。

 いや、回収されるというのは見かけ上かもしれない。

 そう思っているだけで、実際のところは誰にもわかっていないのだ。

 何も。

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