78 えっ、えっと、鍋ですか?
「ンドペキの部隊は、俺の部隊から切り離しスジーウォンの部隊に編入する。ただしチョットマは、俺の部隊に残ってもらう。各々の部隊内のことは、各伍長がやってくれ」
現時点まではハクシュウ隊に組み込まれていたが、スジーウォン隊になったからといって、誰も不満はない。
粗暴なパキトポーク隊だったら、げんなりした顔をする者もいただろうが。
「チョットマにはやってもらいたいことがある」
「ハイ!」
「おまえは、一旦街に帰って、ンドペキに会え」
「ハイ!」
「JP01を撃った者が誰か、聞いてこい。それから、ここ数日中にあったことも。どうも、あいつと俺との間の通信は、全チャンネルが遮断されている」
「合流するように伝えるんですか?」
「いや、それはしないほうがいい。きっと、あいつにはレイチェルから与えられる任務がある」
「ハイ!」
「できるだけ一緒にいて、情報を収集しろ。おまえもここに戻って来なくていい」
「ハイ!」
ハクシュウがどっかりと地面に腰をおろした。
「さて、昼飯にするか」
対岸の連中が敵だとすれば、大胆な行動だ。
「今日は動いてこないだろう。それに、相手さんの能力を考えると、逃げ隠れしたって始まらないからな」
そして、なんとヘッダーまで外す。
「ここは大気の状態がいい。この前、お互いの顔を見せ合っていてよかったな。ちゃんとした会食ができる。マスクとスコープだけはつけておいてくれ。おさおさ警戒抜かりなく、だ」
ほとんどの隊員はすぐそれに従ったが、何人かは突っ立ったままだ。
「おいおい、見張りはしなくていいぞ。見張りは全員で」
敵前で武装を解いてまで会食しようという提案に面食らったか、反発があるのだろう。
しかしハクシュウは、あえて命令口調では言わずに、誘うような口調で言う。
「さ、一緒に飯を食おう」
結局、全員が三々五々集まって弁当を広げる、ピクニックのような光景になった。
それぞれ、配られた食料チップを口に運んでいる。
「おい、チョットマ、鍋は持ってきてないのか」
「えっ、えっと、鍋ですか?」
「鍋を知らんのか」
「知りません」
「大昔、流行った会食手法だ。仲のいい連中がみんなで料理を作りながら、それを囲んで食う」
「はあ」
「今度、やってみるか。面白そうじゃないか」
「はあ、そうですね……」
ハクシュウが部隊を和ませようと話している。
勝ち目のない相手に、これからどのような展開になるか、不安感だけがのしかかるような場面である。
レイチェルの回答如何によっては、血がこの川を汚すことになる。
あるいは全世界の街の代表がどんな態度に出るか、わかったものではない。
ここ数百年間、組織だったまともな戦争は誰も経験していない。
イコマは、彼らの気持ちがよく理解できた。
黙りがちな会食が進んだ頃、ハクシュウが口を開いた。
「伝えておきたいことがある。スジーウォン、もう一度周囲を」
スジーウォンが立ち上がった。
「じゃ、ざっと一回りしてくる」
「すまんな。声が聞こえる範囲だけでいいぞ」
「了解!」
スジーウォンは笑って、カロリーチップをまとめて数粒、口に放り込んでから、駆け出していった。
チョットマが誰に言うともなく、声を掛けた。
「あれ、サリだった?」
誰もが首を捻るばかり。
それでもいくつかの考えが披露された。
あの女がサリを殺し、顔を拝借した。自分たちは変装もできるんだぞ、と恫喝。
サリを殺したわけではなく、たまたま見かけたサリの顔が気に入って、拝借した。ただ、我々に対する示威行為である点は同じ。
そういったストレートな考察に混じって、驚くべき考えも出された。