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74 おまえを襲ったのは、たぶん

 人は、徐々に狂っていくのだろうか。

 あるいは、ある朝目覚めると、昨日の自分がそこになかったかのように、狂気は突然やってくるのだろうか。

 目に見える景色は違って見えるのだろうか。

 黄色い霞がかかったようにでも見えるのだろうか。


 俺は狂人になりたくない。

 しかし、そうなるのは遠い先ではない。

 きっと。

 自分のことだからわかる。

 夜、眠るのが恐ろしい。

 朝になれば、俺は昨日までの俺ではなく……、と考えてしまう。


 もう、時間はない。




「ねえ、ンドペキ」

 チョットマが話しかけてくる。

「なんだ」

「今度の会談、頑張ってください」

「うむ」


 何を頑張れというのか。

 その日、俺はもう狂い始めているかもしれないぞ。



「すごいことですよ。指名されるなんて」

「意味がわからない」

「きっと、ンドペキは偉い人なんですよ」

「まさかな」

「覚えてないんでしょう? 昔の自分。もしかすると、ワールドの大統領だったりして」



 チョットマが他愛のないことを言ってくる。

 返事をするのも面倒。


「まあ、そのときがくれば分かるだろう」

 と、応えておいて、俺はまた妄想にふけった。




 再生不可処分の理由は、公にされるだろうか。

 ハクシュウは知ることになるのだろうか。

 隊員を殺せば、連絡がいくのだろうか。

 普通は、再生されない理由が明らかにされることはないはずだが。


 では、一般市民ならどうか。

 再生不可理由は公表される。

 人知れず死ぬ、には不都合だ。


 それだけ、兵士の立場は軽く見られている。


 そんなことはどうでもいい。

 もう、何度も同じ考えをなぞってきた。




 街に着くと、チョットマがぺこりと頭を下げた。

「気をつけろよ」

「ハイ! ありがとうです!」


 立ち去るチョットマに、俺は声を掛けた。

「待て」

 先ほど思いついた考えを伝えておこう。


「おまえ、クシ、男だ、名前、聞いたことがあるか?」

「クシ? いえ、ないです」

「おまえを襲ったのは、たぶん、そいつだ」

「えっ、だれなんです?」

「東部方面隊の隊員だった男だ」

「ええっ、なぜ、その人が私を?」

「なんとなく、そう思っただけだ。何はともあれ、気をつけろ」

「ハイ!」

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