73 翼を見せてくれたデモンストレーター
「彼女が自分の体を広げて、皆さんにお見せします」
黒い鳥は羽ばたきもせず、一直線に上空に急上昇していく。
それを見やりながら、JP01が解説を付け加える。
「私達は重力に縛られることはありません」
数百年前に発見された半重力物質があったからこそ、私達は地球を飛び出すことができました。
しかし今や、私達はその何十倍もの力を持つ物質そのものを自分の身体に組み込むことができました。
そうして宇宙空間で、様々な星からの引力をコントロールし、自分の姿勢を保ち、容易に移動することができるようになったのです。
またたく間に、鳥ははるか上空に達していた。
「よく見ていてください。彼女の体を」
JP01に促されて、小さなその黒い点を見つめていると、その点が横に伸び始めていた。
見る間にぐんぐん伸びている。
「翼です。飛ぶための翼ではありません。エネルギーを受け止めるための翼です」
糸のように伸びた翼は、すでに天空を横断するほどになっていた。
数十キロに及ぶ長さに。
「私達は生きていく、つまり、自分の体を維持し、形作っていくすべてのものを、光を初めとする様々な光線から得ることができます」
細い糸の様な翼が、面的に広がり始めていた。
光を透過しているが、はっきりとその大きさがわかる。
「必要なものは、エネルギーといくつかの元素だけです。珍しい元素ではありません。そこら中に落ちている、あるいは空気中に漂っているような元素です」
たちまち翼は、天空を覆わんばかりになっていた。
「水は。いえ、そのようなことはいずれお話しましょう」
翼に遮られ、太陽の光が弱まっていた。
「私達が地球上に住むことになっても、食料をよこせとか、何かを分けろとか、そのようなお願いをすることは決してありません。大地と大気があり、そこに水蒸気が含まれ、太陽が輝いている限り、私達の体には余りあるエネルギーがあるわけですから」
JP01が、空に向かって手を上げた。
「彼女に降りてきてもらいましょう。地上近くには不規則な風があるので危険なのですが、彼女が、自分の身体を皆さんにどうしても見て欲しいと申しておりましたので」
天空に広がった薄膜が徐々に高度を下げてきた。
「翼を縮めながら降りてくるようですね」
JP01は上空を見上げながら、笑顔で手を振った。
巨大な鳥は、あっという間にかなり低いところまで降りてきていた。
翼は蝶の羽根のような形になり、その中心に人の体が見えた。
かなりスリムな女性のようだった。
完全に人間の女性の体。
裸で、乳房もあらわだ。
ただ、地球上の人類と異なっている点は、その胴体の色が鮮やかなコバルト色だったことである。
地上五十メートルというところまで降下してきたとき、彼女はすべての翼をしまい終え、JP01と同じような体型と体色になっていた。
「私達の体の大部分を翼が占めています。私達には衣服を身に着ける習慣はありません。折り畳んで体に巻きつけた翼が衣服の代わりなのです」
と、空中の鳥の姿が消えた。
次の瞬間、目の前に一人の女が立っていた。
「今、翼を見せてくれたデモンストレーターです」
裸体は薄膜で隠しているが、その顔はまさに人間の女性のものだった。
もちろん隠してはいない。
輝くような金髪で緑色の瞳。
キュートな女性。
ん?
そのとき。
「サリ!」
後方で叫ぶ声がした。