73 狂いの妄想
襲っておいて、救援に向かう。
チョットマは頭から俺を信じている。
好都合じゃないか。
そう、サリを殺そうとしたときと同じように。
今はダメだ。
少なくとも、ここでは。
見張りの兵士がどこかにいる。
妄想だ。
自分でも、倒錯した思考だと思った。
しつこく追いすがってくる自分の思考に手こずる。
こういうときは、行動を起こすに限る。
チョットマは黙って、指示を待っている。
いずれにしろ、危険は去ったと考えていいだろう。
今日のところは、おとなしく街に帰った方がいい。
走ろう。
走って、邪念をふるい落とそう。
今は。
「帰るぞ」
「ハイ!」
ンドペキは駆け出したが、一歩出遅れたチョットマが、声を掛けてきた。
「あの、ンドペキ」
「ん?」
チョットマが追いすがってくるが、ンドペキはスピードを落とすことなく、たちまちアリーナを出て瓦礫の街を抜けていく。
「あの」
「だから、なんだ」
「ありがとうございました!」
「……」
仲間を助けるのは当然の行為。
それを口にするほど、ベタベタした関係ではない。
こいつを殺すのはどうだ。
つい、それを吟味してしまう。
邪な思考がまた頭をもたげてくる。
そもそも、あの日、俺はサリを殺そうとした。
理由は特にない。
心を捉えていたのは、自分が死にたい、ということだけ。
俺は何者なんだ。
いったい、何のために生きているのか。
マシンを倒し、集めたメタルをカネに換えるだけの毎日。
先が見えないだけでなく、過去さえも失ってしまった俺に、生きていく目的などあろうはずがない。
そんな日々がもう数百年も続いているというのに、これからまだ数百年、あるいは未来永劫続くのか。
人生は旅だというが、とんでもない。
監獄の中をうろつき回るだけ。
俺は死にたい。
死んで、安らかな死後の世界に旅立ちたい。
死後の世界など、あるとはこれっぽっちも思わないが、もう、生きていくのはごめんだ。
耐えられない。
虚しすぎる。
今まで、心が失われ、闇に沈んでいった人間をたくさん見てきた。
俺は、そうはなりたくない。
そうなる前に、自分の肉体を消滅させてしまいたい。
ところがどうだ。
そんな俺に、死ぬ方法がないときている。
もう十分だというのに。
残された道はただひとつ。
再生されないこと。
人殺しの罪を背負って、ようやく死ねるというのは、なんという不条理。
チョットマは黙ってついてくる。
こいつなら、いいかも。
しかし、サリならともかく、こいつは並大抵のことでは倒せない。
敏捷性が半端じゃないからだ。
いや、だからこそ、こいつを殺しても誰も疑わないかも。
死にたい。
しかし、人殺しと罵られて死を待つのは耐えられない。
プライドはある。
生きてきた証なんぞには興味はない。
ただ、俺の生を汚したくはないという思いがあるだけ。
自分勝手な考え。
自分自身に死をもたらすために、人を殺す。
しかし、他人には、特に部隊の連中には知られたくないのだ。
そんな都合のいいことを考えてしまうのは、すでに俺の思考も狂い始めているのだろう。
いや、まだだ。
大丈夫。
他人の目など気にしている間は。




