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72 今、腕の中にある感触
ああ、アヤちゃん。
「来てくれただけで、心がいっぱいだ。嬉しさで溢れかえっている」
アヤの目に初めて笑みが浮かんだ。
イコマも微笑んだ。
「話したいこと、聞きたいことはたくさんあるけど、また来てくれるんだろ」
「もちろん。これからはまた、家族のように」
イコマはそれからアヤを抱きしめ続けた。
記憶としてしまい込まれた思い出ではなく、今、腕の中にある生身のアヤの感触を確かめ続けた。
アヤもそうだろう。
ひとこと、「会えてよかった」と言ったきり、きつく抱きついたまま、離れようとしなかった。
面会時間は、ちょうど三十分間だった。
それ以上いると、システムに不審がられるかもしれない。
アヤは、必ず明日また来る、と言う。
だから、決して自分のIDにアクセスしてこないで、と。
イコマももちろん、そんなことをする気はない。
アヤは政府機関に勤めているという。
アギの自分がマトにアクセスするという稀なことをして、彼女の身にいい影響があるはずがない。
家族のように、と言ったアヤの言葉を信じないようでは、親ではない。
アヤは、
「じゃ、パパ、また来るね」と、決まり文句を口にして出て行った。
アヤが出て行ってからである。
本当の感激がこみ上げてきたのは。




