62 私が誰かってことに興味はないのね
ンドペキが砂塵を巻き上げているこの辺り。
グリーンフィールド地方と呼ばれているが、実際は草が所々に生えているだけの荒れた地。
めぼしい建物もない。
掃討する対象の少ないエリアだ。
訓練以外で、めったに来ることはない。
夜の荒野。
暗視モードのゴーグルには、地形の起伏が繰り返すのみ。
かなり走ってから、ようやくメッセージが流れた。
また、キュートモードである。
-----もう少し先にいる
-----スコープで覗いてみて
-----真正面にいるのが私
今度は、少々文字数が多い。
どことなく、ニュアンスは女だが……。
む。
ほどなく、スコープが熱を感知した。
前方、一キロ余り。
熱のボリュームから判断すると、人間だ。
こいつか。
クシか……。
徐々に輪郭が見えてくる。
ズームに姿形がはっきりと捉えられた地点で、ンドペキは停止した。
女だった。
-----昨日のお昼間は、ひどいご挨拶だったわね
なるほど、あいつだ。
クシではない。
サリの捜索中に出会った女。
街からこれほど離れたところまで来る割には、非常に軽装だ。
身体にフィットする柔らかい素材のスーツを着ている。
これ見よがしの武器は見当たらないが、あれほどの跳躍を見せたやつだ。油断はならない。
-----明日、あなた、代表として会談に臨むでしょ
-----これから忙しくなるかもしれないから、今晩中に
「どういうことだ」
-----私が誰かってことに興味はないのね
「ない。見せたいものとは」
-----ここでは話せない
女はちょこっと手を上げると、突然走り出した。
-----近づかないで それに話しかけないで、ついて来て
ンドペキは追った。
-----見せたいものは、ここにはないから
おおよそ三百メートルの距離をあけてついていった。
-----そうそう、GPSはオンにしちゃだめよ
-----まさか現在地を捕捉されるものは切ってると思うけど
数えるほどしか星のない暗い夜だった。
女はみるみるスピードを上げていく。
緩やかな起伏が続く。
なぜか、女の姿はスコープに映し出されなくなり、暗視モードに輪郭だけが表示されるのみ。
時として見失いそうになる。
小一時間ほど走り、百キロ以上は来たろうか。
再び女が口を開いた。
ラバーモードに切り替えている。
特定の者にだけ聞こえる音声通信。
キュートモードと共に、これも違法。
「約半分ね」
「どこへ行く」
「向こうで説明する。でも、道順は覚えておいて」
「なぜだ」
「きっと、次はあなたが人を案内することになる」