26 記憶 自衛官
若い兵士は、馬鹿にされたと感じたのだろう。
明らかに怒りの表情を見せたが、上官の方は心なしか笑ったように見えた。
そして、言葉を和らげた。
「金沢にようこそ。と、歓迎したいところですが、ご覧の通りです。危険でさえあります」
都会の老人と女性が来るところではない、という。
「この駅から外には出ないように。駅のコンコース周辺は我々が掌握していますから安全です。そろそろ暗くなります。街のほとんどのエリアには電気が来ていません。危険です」
次の大阪方面行きの列車は明日の朝までないという。
「それでお帰りください。それまでは、ここでお過ごしください。観光で来られた方をおもてなしすることは何もできませんが」
帰るわけにはいかなかった。
しかし、今は彼らの言葉に従っておくしかない。
生駒は、綾を連れて駅のコンコースを歩き回った。さも、観光客がみやげ物を探すかのように。
埃をかぶった金沢の街の鳥瞰模型。ショーウィンドウの中のガラクタ。色あせたパンフレットの類。
動かなくなって久しい天井の大時計。至るところ欠けて無残な姿となった大きなレリーフなどを見てまわった。
若い兵士は姿を消し、上官だけが東口の階段の上に立っていた。
街を警戒している。
生駒は迷った。
この自衛隊員の目をごまかして、どこかから抜け出るか。
あるいは、事情を話すか。
今ではない。
ここで一晩を過ごし、明日の朝。
そしてもうひとつ。
この街の状況を見て、やはり綾は連れてはいけない、という思いを強くしていた。
彼女には、どうしても無事に大阪に帰って欲しかった。
綾は思い詰めた表情をしている。
眼を合わせようとしない。
芯の強さは筋金入りであることは重々分っている。
街のこの状況を見ても、彼女ならひるむことはない。
むしろ、こう考えるだろう。
老人である生駒をここへ駆り立てた原因を自分が作ってしまったと。
生駒を守らねばならないと。
「ちょっと、お聞きしたいことがあるのですが」
生駒は勝負に出た。
ここで、自衛隊員にやんわり監視されながら朝を待っていても、勝機はめぐってこない。




