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25 記憶の人、肉体の人

 世界戦争が停戦期にあった頃、日本政府が国民に向けてひとつの発表をした。

 日本の人口ピラミッドは、超高齢化と戦火によって、まるで土台の折れたシャンペングラスのような形状をしていた。

 日本を立て直すため、という名目ではあったが、悪魔からヒントをもらったとしかいいようのない提案。

 それは、後に「ジャパニーズニューサンス」と呼ばれることになる「エイジングブロック」と名付けられたプランだった。




 告


 日本国の現状では自然な国民数の回復は見込めず、今後十数年のうちに日本人絶滅ともいえる状況となることが明らかである。

 政府として、この状況を座視し、滅びを享受することはできない。


 (中略)


 今、生きている者の使命として、生きて日本国を立て直すことを宣言する。


 すべての国民には、三つの選択肢が与えられる。


 一 知識の存在として、全記憶が保証される「生」。(仮称)記憶の人。


 二 健康な体を活かし、社会に貢献する「生」。(仮称)肉体の人。


 三 天寿を全うし、日本を後の国民に委ねる。



 つまり、政府が示した選択肢は、こうだ。


 一 「(仮称)記憶の人」は、死亡後、肉体を失う。


 ただ今後、一定期間に少しでもアクセスした記憶を、まるでスーパーコンピューターに整然と蓄積されたデータのように取り出せるという。

 肉体を持たない代わりに、日本中に設置されたライブカメラに自由にアクセスでき、自分専用の飛翔系カメラを与えられるという。

 また、すべての人との自由な会話が保障される。


 二 「(仮称)肉体の人」は、死亡後、その個人の肉体を再び与えられる。


 与えられる肉体は、死亡時の年齢に関わらず、一律にその個人の十六~十八歳時想定の肉体。

 かつ、再び死んだ後も、それは保障される。

 どのように生きるかは、個人の自由である。

 ただし、肉体再生時に、記憶は使わなかったものから順に、消去されていく。 


 一、二、三の選択は、個人の自由である。


 ただし、「(仮称)記憶の人」を選択できる者は、三千万円の負担ができる者に限られる。

 また、「(仮称)肉体の人」を選択できる者は、一千万円の負担ができる者に限られる。


 選択の期限は半年後。




 多くの国民は迷った。


 費用が払えないものは老いて死ぬしか選択の余地はなかったが、三千万円の費用を支払える者は、その選択に悩みに悩んだ。

 もちろん、費用が払えても死に往く権利はある。

 しかし、ほとんどの者は、目の前に差し出された生き永らえる権利を簡単に放棄できるものではなかった。




 イコマは、このような提案がなされるまでもなく、生き永らえることに執着していた。


 三条優に今一度会う。

 その思い自体が、まるで生きているかのように脳に住み着いていた。


 イコマにとって、肉体への欲求より、記憶が失せていくことは、死を意味した。

 そして、迷うことなく、記憶の存在として生きることを選んだのである。


 綾は肉体を選ぶという。

 聞き耳頭巾の使い手として、記憶や知識という概念だけでは足りないというのだった。

 そして、イコマの手足となって、生きていくというのだった。



 やがて半年が過ぎ、大勢が判明した。

 評論家達の予想は大きく外れ、国民の圧倒的多数が肉体を選んだのである。


 少しずつ、失われることのない記憶の存在と、不朽の肉体を持つ日本人が生まれていった。

 街には若者の姿がチラホラと見られるようになった。

 日本は復興の道を歩き始めたかに見えた。

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