22 一体の生命体
サリの失踪をさかのぼること、半年。
宇宙船の外壁のかすかな隙間に、わずかコンマ一ミリほどの小さなシリコンカプセルが挟まっていた。
地球の大気圏に突入し、灼熱に晒されても、カプセルは燃え尽きることなく宇宙船に貼り付いていた。
南太平洋に着水したとき、カプセルは静かに宇宙船を離れた。
宇宙船の乗組員もそれを出迎える船の乗務員も、そして上空を飛ぶ監視衛星も、カプセルが静かに海に沈んでいったことに気づく者はいなかった。
しかし、カプセルが深い海底まで到達することはなかった。
海水に触れてものの数分もしないうちに、変態を開始したのである。
水を含んで、瞬く間に一千倍ほどの大きさまで成長した。
と同時に、尾やヒレが生え、目ができ口ができていった。
十分も経った頃には、既にオットセイのような姿になり、自由に泳ぎ始めたのである。
そして、迷うことなく一直線に西北に向かっていった。
地球の豊かな海。
数百年経った今も、変わることはない。
その青さも、粘り気も塩辛さも。
波はうねり、潮流が微生物を押し流していく。
それを追う魚や海生哺乳類の群れ。
しかし、その生命体が感傷に浸ったのは、脳の組織が一定水準にまで作られたそのときだけだった。
高度な思考能力を持つ一体の生命体。
名はある。
二十一桁の記号と数字を組み合わせたID番号。
通称JP01。
本名は本人だけが覚えている。
JP01は海の異変にすぐに気がついた。
かつてのように、海は大小様々な生物で溢れてはいた。
しかし、JP01には聞こえたのだ。
無数の声が。




