20 蜂の羽音で
チョットマはンドペキの生の声を聞いたことがない。
聞くのは常に、一度はデジタルになった声。たまに、マイクから直接、電波に乗った声。
本当の声は、どんなだろう。
「自殺したら、恐ろしい刑罰、あるんだよね」
雑談でもいいから、ンドペキの声を聞いていたかった。
「通称、悪魔の海と言われてるな」
蜂の羽音で解説してくれる。
「気を失うほどの痛みが全身を間断なく襲ってくる。そして、人は我慢できず数秒後に死ぬ。しかし、一秒も待たずに再生され、たちまちまた痛みのために死ぬ」
「うん」
「それが永遠と繰り返される。そんなとんでもない液体が詰まったタンクに放り込まれる。それにその刑罰は、何十年も続くんだ。終わりのない永遠かもしれないけどね」
なぜ、自殺という行為がそれほどの悪なのか、チョットマにはわからなかった。
一昔前の宗教の影響らしいのだが、生死さえ自分で決められないようでは、自由なんて無いのも同然ではないか、と思うのだった。
「詳しくは知らない。その刑罰が実際に行われているのか、いないのか。だれも経験者がいないからね」
そういってンドペキが、久しぶりに笑い声を聞かせてくれた。
小さな、でもしっとりした「音」だった。
「だからね、チョットマ」
と、柔らかく言ってくれる。
「うん」
「サリが自分の部屋の中で自殺して、再生されないまま死んでいる、なんて想像はしないほうがいいと思う」
そんなことはありえないし、もしそうだとすれば、恐ろしくて悲しい想像をしなくてはいけなくなる、というのだった。
「うん」
チョットマはンドペキに、何かを言いたかった。
なにかを。
でも、それが何なのかがわからなかった。




