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一体どうしろと  作者: 猫宮蒼
一章 自衛のために好感度とかもっとわかりやすくしてほしい

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来訪は突然に



 さて、こうして家に帰ってきたわけだけど、そのままの勢いで寝るわけにもいかない。

 ディットさんの言う事が確かならヴィンセントさんが薬の材料を持ってくるはずだからだ。

 まぁ、一応もうちょっと起きてるけど、あまりにも遅くなるようなら寝る。

 流石に来るかどうかを待っててその結果徹夜しました……なんてところまでは頑張って起きてるつもりもない。


 防寒具や保存食を買った時に戻ってきたけど、買った荷物は特に何も考えずテーブルの上に置いたりしてたので、まずは保存食を片付ける事にする。

 保存食なので、とりあえず直射日光があたらないような所でかつ涼しい場所に置いて大丈夫そうなのはそっちに置くとして、そうじゃないやつは冷蔵庫に入れる。

 保存食を片付けた後は防寒具をしまう事にした。

 とはいえ、着る前に一度洗っておくべきかなぁ……? なんて思ってしまったのでコートと手袋はとりあえず洗濯籠に入れておく。今から洗濯するつもりは勿論ない。


 思ったよりあっさりと片付いてしまったので、店の在庫の確認もしておく事にした。


 これから寒さが増して冬になると手荒れが気になる人が増えるらしく、しもやけやあかぎれに効く薬を求められるようになる。そうでなくとも冬って空気も乾燥するからね……手が荒れて酷くなると水不足でひび割れた大地みたいな感じになるからね……ただ大地と違って手はそうなると血が滲んできてめっちゃ痛い。

 ハンドクリームとかもうちょい作る数増やしといたほうがいいかなぁ……リップクリームとか、ハーブを使ったのど飴とかもあって困る感じじゃないかもしれない。


 そういう感じでこれを作ってあれももうちょっと在庫足しておいて……とあれこれやってる時に、ふと先程の会話を思い出してしまった。


「そういやおばあさんとリタさん、同じ師匠って言ってたな……誰なんだろう。二人の口からそういった感じの人の名前は出てなかったし……いやまぁ、あの二人のお師匠様ならとっくに亡くなってるか」

 だとしたらわざわざ話題に出なくてもおかしくはない。

 ゲヘノムさんやディットさんは知ってるんだろうか、なんて思っていたら。


「残念生きてるよぉ……」

「えっ!?」


 その声は唐突に聞こえてきた。

 いやまって、私帰ってきた時にちゃんと戸締りしましたけど!?

 一体今の声はどこから!? とばかりに周囲を見回す。いやだって、どう考えても不法侵入されてるわけで。

 念の為自分の周囲に結界張りつつ視線をぐるりと移動させればさっきまで保存食を一時的に置いてたテーブルに肘をついて頬を支えるようにしている人が一人。


「お前」


 そして彼女はこちらを見るなりそう言った。


「そこのお前」


 この出だしは既に前にもやっているので覚えがないとは言わない。


「相も変わらず黒ずくめとか、せめてもうちょっとこう……ないのかい?」

「いや余計なお世話なんだわ」


 そもそもお前が言うなとも言う。

 そっちは全身真っ白じゃんね。


「というか一体どこから入ってきたんですか。戸締りしてあったと思うんですけど」


 そう、そこにいたのはちょっと前に遭遇した、その存在を白昼夢だと思う事にしていた真っ白な女性であった。私に対して呪われてるとか言って去ってく人。


 白い服、白い髪。目の色だけが金色で。


 季節感だとかなんだとか、そっちだって人の事は言えそうにない感じだと思っている。


「ふふ、アタシにそんなものは関係ないのさ」

「えっ……何その堂々とした宣言。不法侵入し放題って事? 犯罪し放題って事ですか?

 ……っていうか、何、プリーザみたいな感じの人?」

「お前ふざけるんじゃないよ。よりにもよってそいつと同類扱いは流石に怒るからね」

「不法侵入されて怒りたいのはこっちなんだわ」


 というか怒ってもいいと思う。むしろなんで侵入しといて堂々としてるんだって話よ。


「まったく……なんだい、今しがたアタシの事を口に出してたからこうしてわざわざ姿を見せてあげたというのに」

「えっ、いや、えっ……?」


 言ったか?

 ほんのちょっと前の事だけど、言った?

 っていうか私さっき何口走った? 独り言の内容ってそんなハッキリ覚えてる事ある?

 えーっと、あぁ、そうだ。おばあさんとリタさんのお師匠様の話だ。二人は師を同じくしたライバルって話だったし、どんな人だったのかな、って……


「え、おばあさんとリタさんのお師匠様? いやご冗談でしょ?」

「本当の事さね。まったく……あの二人は本当に可愛げのない。弟子の存在は秘匿するしいざ寿命で死ぬ間際になってもこっちになぁんにも頼ってきやしない」

「信頼されてなかったんですか」

「失礼な子だね! いつまでたっても独り立ちできないって思われたくないからに決まってるだろ!」

「じゃあ頼られなくてもぐちぐち言わないでくださいよ、そういうお弟子さんだってわかってるんでしょ」

「あぁそうだよ! だから可愛げがないってのさ」


 プンスコ、という効果音でも聞こえてきそうな感じで言っているが、正直まだ信じられない。えっ、本当にお師匠なんです?

 いや、おばあさんとリタさんのお師匠様が薬師ではなく魔女としての、という意味なら不法侵入されてた事に関してそれはまぁ、わからんでもないんだけども。


 二人の師に関してゲヘノムさんとかディットさんは知ってるんだろうか、とか思ってたのはそう。今度会った時に聞けそうなら聞いてみようと思ったのもそう。

 でもまさかそれより先にご本人がやってくるとか思わないんだわ。


 しかもそのご本人が少し前から人に対して呪われてるよっていういらんお知らせしてくる人物だとか思わないじゃん?この人の存在はもう白昼夢か何かだと思う事にしてたというのに。実在してない何か、くらいの気持ちでいたのに存在をしっかりアピールしてきたよ……


「えぇと……ちなみにどっちの師匠、あ、いや、いいです言わなくて」

「お前も可愛げのない子だね。わざわざ聞いた時点で薄々理解してるんだろう。けど聞いてしまったら認めるしかないから聞きたくない。そういう悪あがきはしたって無駄なのさ。

 そう、アタシこそ、ローズマリーとリタの師匠であり、伝説と謳われた大魔女、レーゼリナ様さ」

「あっ、はい」


 こういう時……どういう反応をすればいいのかわからないの。


 いや、薬師の師匠っていうのもワンチャン……や、ないな、ないけど、でも希望をそう簡単に捨てるなって前世のばっちゃが言ってたって事にしておきたい。実際前世のばあちゃんは希望なんてもんはないと思ったらすぱっと捨てな、って言い切る人だったけど。いつまでも縋ってたって仕方がないだろうって言う人だったな。


 この人の存在を実在の人物じゃない、こう……白昼夢扱いとか空想上の人物みたいな扱いにしてたというのに実在が確定されてしまったせいか、前世のばっちゃとかいうのが脳内で突然出てきちゃったわ。想像上の人物捏造してる場合じゃないんだけども。


 ばばん、とかいう効果音でもつきそうな感じでわざわざ椅子から立ち上がってふんぞり返るレーゼリナに思わず遠い目を向ける。

 大魔女って言われましても。

 伝説と謳われた、って言われましても。

 私それ知らないから、それがどれだけ凄い事なのかさっぱりわからないんだよね。


 いやまぁ、伝説になってるくらいならさぞ凄いんだろうな、って漠然と思わないでもないんだけどさ。

 でもその時点で漠然としてるしふわっふわなわけ。

 これがどれだけ凄い事なのか知ってる人であるならば、私のようなリアクションは絶対とらないんだろうな、とも思っているけれど、じゃあどういう反応が正解なのかと言われると私にはわからないので……


 レーゼリナにとっても私の反応は思ってたのと大分違うんだろう。

 けれどそれに対して不服そうだとか、そういうのはなかった。


「ま、伝説はあくまでも伝説だからね。いずれは時の中に埋もれていくものさ」

 ふっ、とどこかニヒルに笑って肩をすくめている。


「えーっと……どんな人なのかなぁ、とは確かに言いました。で、わざわざ姿を見せにきたんですか? まさかでしょう?」

 タイミングとしてはとてもいいタイミングだとは思う。

 けど、それだけのために出てきたとは思えない。


 何がどう、とはうまく説明できないけれど、でもあえて姿を見せるにしたって今までみたいにどこかの道端で現れて一方的に言いたい事言って消える事だってできたはずだ。

 わざわざ訪れるにしても、今まで――って言っても過去二回か。ともあれその二度のパターンと同じ感じでやればよかっただけの話だ。

 けれども三度目、あえてここに彼女は来た。


 何かがあるのではないか、と思うのはそれだけでも充分だろう。

 私の態度にレーゼリナもふっ、と薄く笑い、そうだねぇ、なんて言いながら再び座る。

 あっ、これは何だか話が長くなる予感……! そう思った私は別に招いたわけじゃないけど、相手はおばあさんとリタさんのお師匠って言うし、あまり雑な扱いは駄目だろうと思ったのでとりあえずお茶を淹れる事にした。

 不法侵入してきた相手に対しては、かなりいい扱いしてると思う。

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