新たな活用法
あっという間に去っていったヴィンセントさんを見送りつつも、そういえば、と思い出す。
「ディットさんあの時あの人の事倒していいって言ってましたけど……」
なんていうかタイミングがおかしかった気がする。
いや、ある意味で丁度いいタイミングとも言えたのだけれど、それが余計に……と思えてしまったんだよね。
あの時、倒していいって言った時点ではヴィンセントさんを助けるためにやむなく、と思えなくもなかった。
けれど、直後にやってきたルーウェンさんとカイルさん。あの二人が来たタイミングも何かおかしかった。
あまりにもタイミングが良すぎた、としか言えない。
ルーウェンさんとカイルさんも収穫祭を楽しみつつ見回ってたとしてもだ。
だからってあの場に巨漢が倒れた直後にやってくるのはあまりにもできすぎたタイミングではないだろうか。
たまたま見回ってた時にあの巨漢を発見して、そっと後を追っていたにしてもだ。
私がそう切り出した事でディットさんは「あぁ、そうだったね」とあっさりと頷く。
そういや後で説明するとは言ってたんだよね。その説明ってあの巨漢に関してかなとかあの時点では思ってたけど。
「実の所、彼の事をわたしはあまり知らなかったのです」
「え?」
いきなりそんな事を言われて、私としても思わず戸惑った。
えっ、知らないけど倒していいって言っちゃったの?
それ下手したら何の罪もない一般人だったらアウトじゃない?
「けれどルーウェンは知っていた。特徴を言えばすぐさま倒して構わない、と」
「えっ?」
いやあの、ルーウェンさんが来たのは倒した後ですけど……?
私の困惑具合をハッキリ認識したのだろう。まるで悪戯が成功したような表情で、ディットさんはそっと声を潜めた。
「実はですね……以前、貴方が教えてくれた魔法によるものなんです」
「えぇ……?」
そんな風に言われても意味が分からなかった。
教えた魔法……?
言われて、しばし考え込む。
ディットさんとはあまり魔法に関するお話はしていない。ディットさん本人はあれこれ話したいようだけど、そもそも私がそこまで乗り気じゃないからだ。自分が使える魔法は結界と治癒魔法くらいだし、それ以外の内容は聞き役に回るならまだしも質問されても答えられないし。
無詠唱に関しても何か気付いたらできるようになってた、ってのが大きいから、無詠唱に関してのコツとか聞かれてもそれも答えられない。
詠唱に関しては説明、というか教える事はできたとしても、それ以外に関しては感覚的なものもあるので、説明に困るのだ。
無音詠唱は声に出さずに詠唱する事ではあるけれど、じゃあ無詠唱は? となるともう完全に感覚でやってる感じしかしないからね。無音詠唱のやり方なら声に出さずに念じるように……とかでどうにかできる人はできると思うけど、無詠唱に関してはどう説明するのがいいのやら……って感じだ。
おばあさんやリタさんからも魔法に関してちょろっと教わったけれど、それだって基礎中の基礎、みたいな感じだったからそれをディットさんに教えたところで恐らく何の役にも立たないはず。
だからこそ、魔法トークは意図的に避けていた。
けれど、と思い返す。
私が教えた……という部分で思い当たるのは一つだけだ。
少し前にマッシュルームベア討伐の時に使用した治癒魔法陣、それらがオートで治癒を必要としているギルダーに発動させるためのマーカー。
使い方次第では、まぁ使えるんじゃないかな。とは思っていた。
使いこなせるかどうかは別として。
けれど、それでもルーウェンさんはそれを知りたがっていたし、魔法に関する研究会のようなところで発表してもいいか、と聞かれて私は了承した。
正直そのマーカー以外で教えたと言えるものはない。
つまりはディットさんが言っているのはそのマーカーによるものだ。
「マーカー、を中継点として……念話?」
「そうです。やはりエルテはすぐに気づきましたね」
素晴らしい! とでも言いそうな顔をして言われる。
私は治癒魔法陣に対して使ったマーカーだけど、他の使い方、という点で考えてあとは罠を仕掛けるだとかの方法くらいしかルーウェンさんには伝えていなかった。けれど、それ以外の使い道……と考えて、ディットさんとルーウェンさんのあのタイミングの良さを考えるとまるで……となったわけだ。
そうなれば、気付かないはずもない。
この世界、それなりに文明は発展している。とはいえ、前世と比べれば色んなところがちぐはぐではあるのだ。科学が発展していないのは魔法があるから。魔法である程度の暮らしができてしまうので、科学が発展しにくくはある。電気のかわりのエネルギーが魔力。魔石に魔力を貯めたりして使う、というのが主流なので、電力発電所とかができるのはきっとこの世界ではまだまだ遠い未来の話だろう。場合によっては作られないままかもしれない。
日常生活を送るのに必要そうなものは大体開発されてるけれど、遠くの人と話をする、という道具に関しては……一応ないわけじゃないんだけど、そこそこ高価な道具なんだっけ……?
安価で出回ればもっとこう、世間に流通するとは思うけど多分今そういうアイテム持ってるのって一定の富裕層じゃなかろうか。
私はそもそも電話みたいなアイテムがあっても使う事があまりなさそう。店に置いても客層からして電話かけてくる人はそこまでいないだろうし。
遠方に知り合いがいる、とかなら場合によっては持つのも……と思わなくはないけれど、知り合いだってそこまでいないしね。エレナとポールという知り合いができはしたけれど、彼女たちとて仮に電話があったとしてそこまで頻繁にかけてはこないだろう。
前世のスマホみたいに普及すれば話は別かもしれないけれど、仮に今そういった道具が開発されても多分初期の頃の携帯電話みたいな物になりそうな予感しかしない。いっちばーん最初の頃の携帯電話ってあれ携帯するのマジで? みたいに思えるサイズだったような気がする。昔の雑誌でチラッと見かけた程度だから詳しくないけど。
道具として開発されて出回るのは当分先の話だろうけれど、情報のやりとりという点で魔法を使っての念話ってのはないわけじゃない。一応リタさんからそういう魔法があるっていうのは聞いた。
けれどそれだって気軽に使えるわけじゃない。近距離ならまだしも、距離が離れれば離れた分だけ魔力の消費量は上がるし、更にお目当ての相手と話をするにしても相手の正確な位置がわからなければ最悪全然知らない人に誤爆……って言い方もどうかと思うけど、まぁ、そういう失敗する事もあるらしい。
機密情報を仲間に伝えようとしたら失敗してバレたらあかん人に知られてしまった、なんて失敗もあり得るのだとか。
なのでこの念話、一般的な魔法ではない。
お互い接触できる距離にいて、周囲にバレないようちょっとした内緒話とかするくらいならまぁどうにか、って感じみたいだけど、それだってそう何度も使うようなものでもないしね。
得意な人もいるらしいんだけど、不特定多数に使えるわけじゃなく特定の人物とだけ、みたいな感じっぽい。
けど、お互いにマーカーを打ち込んでおけば余程離れたりしない限りは相手の場所を把握できる。
となれば……成程、確かに念話を使うにしても成功率は跳ね上がるか……
知らないうちに情報戦が水面下で繰り広げられたりするのか……って考えると怖いような気もするけど。
でもそれで、ルーウェンさんにあの巨漢の事を念話で知らせて、それがどうやら犯罪者であるというのを知ったディットさんが倒していい、と言ったのであれば納得はできる。そして居場所もディットさんが伝えたか、マーカーの位置をそのまま把握したかして回収にきた、と。
タイミングがあまりにも良すぎたのは理解した。
これ、自警団とか騎士団とかで使われるようになったら犯罪者取り締まるのに役に立ちそうな使い方ではあるな。まぁ、悪用しようと思えばできてしまうので手放しでほめられる感じでもないけども。
まぁ魔法って使える人は使えるけど使えない人は使えないんで……誰でも使えて犯罪にも活用できる、とかじゃないだけマシだと思おう。
ある程度休憩にもなった事だし、ぼちぼち席を立つ。
そこそこお腹は膨れたままだし、次こそは保存食の買い出しに行くか……




