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一体どうしろと  作者: 猫宮蒼
一章 自衛のために好感度とかもっとわかりやすくしてほしい

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多少の責任感



 うーん、流石にそれは……

 私無関係、とは言い切れないな。何せ発案者が私だ。

 実行したのが私じゃなくても私がいらん事言わなきゃそもそもこんな事にはならなかったと思う。

 そもそもその発想が騎士団にあったか、となると多分なかっただろうし。

 いや、仮に浮かんだとして誰が野郎の尻をどうにかしようと思うのか、という話だ。

 そんなん嬉々としてやったら実行者の人間性も疑われる。えっ、お前そっちの趣味があったの……? とか口に出されずとも内心で思われる可能性はとてもある。


 ともあれ、騎士団の一人がそういった方面での尋問方法に愉しみを見出し、手腕を発揮してしまった。

 まぁ、相手は犯罪者だからまだいいかな、って思える。冤罪相手ならたまったものじゃないけど、大半は現行犯逮捕も同然だ。

 何の罪もない一般市民を拉致してやらかしたとかではない。


 ヴィンセントさんの話だとそういう方法でやられた人たちの大半は泣いてもうしませんと言ってたみたいだし、実際に更生した人もいるようだけど例外も存在する。

 それが先程の巨漢だった。


 どうにも彼は生まれつき身体が大きく頑丈だったせいで、喧嘩は負けなしだったらしい。出身がウルガモットではないにしても、噂はちらっとあったようだ。

 とはいえ彼はその恵まれた体躯を、世のため人のために使おうとは考えなかったらしい。まぁ、何が何でも滅私奉公しろ、とは言わんけどギルダーとかやって魔物退治とかしとけば良かったのでは、とは思わなくもない。

 実際に彼はまだ若い頃、ギルダーとして一時期別の町のギルドにいたらしい。


 らしい、とかようだ、とかばかりなのは仕方がない。なにせ私はあの巨漢の事なんてこれっぽっちも知らないのだから。そしてヴィンセントさんも流れ流れてここに来て彼が捕まるまではふわっと噂程度に聞いた事があるな、くらいでしか知らなかったので、ヴィンセントさんの話もふわっとしていてもそれも仕方がないと思える。

 ディットさんが彼の事を知っている様子だったのは、単純に彼が二の腕に彫っていた刺青によるものらしい。そういや何かあったな……犬か狼かわからんけど、それっぽいのが。

 なんでもその刺青がそのマフィアの一員である事を示すものなのだとか。とはいえあの巨漢は既にその組織を追放されたらしいけど。


 聞いた話なので全部が真実とは限らない。けれども、大体は『そう』なんだろう。


 自分が強いという事を自覚したあの巨漢は、若かりし頃ギルダーとしてやっていた。しかし周囲と上手くいかず各地を転々としているうちに、最終的にマフィアへと転向。ギルダーと比べればまだ上手くやれていたようだが、それでも持ち前の性格でいよいよ組織からも見切りをつけられ……流れ流れてウルガモットへ。

 そこで犯罪に手を染め、捕まった。


 うーん、そうやって聞くとお手本のような転落人生に思えてくるな。


 捕まった時にはもうマフィア関係ないようだけど、それでもそのマフィアそのものは存在している。過去にそこにいた人物からでも多少なりとも情報は得られると踏んであれこれ聞きだそうとしていたってのはヴィンセントさんが言ってた。


 ウルガモットそのものはそのマフィアにあれこれちょっかいかけられたりしてないけれど、それだって今の話でいつか勢力が大きくなった時にこっちに被害が及ばないとも言い切れない。

 対策を練るにしても情報がなければロクな手段に講じる事もできないし……まぁ、こうして都合よくそこにいたっていうのがわかりやすい人物がいたらついでとばかりに情報吐かせるのはわからんでもない。

 本人が組織無関係って言い張っても本当にそうかはわからないわけだし。


 とはいえ、今まで荒事まみれの人生送ってた相手に今更騎士団の尋問など、生温いの一言に尽きただろう。

 多分私が結界でぶん殴り続けたとしても、効果はなかったんじゃないかな。ああいうのはある程度痛みに苦痛を感じるタイプじゃないと効果がない。


 そこで、快楽責めに目覚めた騎士がやらかした結果、どうやらその巨漢もまた新たな扉を開いてしまった……と。今までは屈服させる側だったのが、一方的に屈服させられる……うん、まぁ、尊厳とかね、そういうのはボロボロになるよね。でもそれを良しとしちゃったわけだあの巨漢。

 見事に快楽堕ちしてしまった、と。


 いやうん、私も前世でそりゃあ、年齢制限有りのジャンルとか多少手を出した事はあるけど、生憎自分が手を出したカテゴリとはちょっと離れてるからいかんせんそこら辺わからんな……としか言いようがない。



 でもまぁ、なんていうか自分は今まで強者の側にいるのが当然だったと思っていたあの巨漢が実は自分は弱者として踏みにじられる事こそ喜びである、と感じたのは事実なんだろう。巨漢の想いを完全に汲み取れるとは思わないけど、多分そんな感じかと。


 マフィアの立場としてそこそこ上にいたらしいけど、だとすると当然女を抱く機会もあったとは思うけど、今まではそれを当たり前だと思ってたのにどうにも本人、薄々何か違うな、とも思っていたらしい。

 ヴィンセントさんが苦々しい表情で語ってくれたよ。

 うーん、そこまで赤裸々にあの巨漢ヴィンセントさんに語ってたのか……ちょっとどういうリアクションすればいいのかわからないな。


 で、そんなちょっと何か違うな……? って思ってたのもあって、快楽責めされた結果目覚めてしまった、と。


 結果としてその尋問やらかした相手に感情が向くならまだしも、自分の心に正直になった結果好みのタイプはヴィンセントさんだった……と。


「凄い……完全なとばっちりじゃないですか」


 元凶だーれだって言われたらその尋問方法お勧めした私かもだけど、責任はとらない。

 一応それなりに効果というか実績は出たみたいだし。

 そこまでされるのがイヤなら普通に尋問されてるうちに情報吐けば済む話だもんね。


 こんな方法が実装されなければヴィンセントさんが今こんな事になってないとはいえ、反省もしないぞ。


「誰が原因だと……」

「事の発端はボクかもしれませんが、でもその尋問に巻き込んだの誰でしたっけ」

「そうだな……」


 私がそう言ってしまえば、ヴィンセントさんもそれ以上は言えなかった。


 とはいえ、なんていうか見てるととてもおもしろ……じゃなかった、可哀そうな気がしてきたのでちょっとは手助けしてもいいのでは、と思えてくる。



「うーん、なんとかできなくもないんですけれどね」

「本当か!?」

「ただ、それやると後から色々言われるの面倒だなぁって」

「どんな手段だ。正直縋れるなら何でもいい、文句は言わない」

「ご禁制のお薬にギリギリ該当する認識をすり替える系のお薬使えばいけると思うんですよ」


 ご禁制、という言葉に若干ヴィンセントさんの勢いが弱まった。

 ノリと勢いで犯罪の片棒担ぐわけにはそりゃいかないだろう。

 だがしかし、そこそこの葛藤の末ヴィンセントさんは一応どういう方法かは聞いておこうか、と言い出した。内容的にヤバかったら却下はするけど、それくらいなら黙ってればいける……! と思えばこれはGOサインだしちゃうやつだな。いいんだろうかそれで……とは思うが、まぁ、この手の組織が清廉潔白であるなんて事まずないからいいのかもしれない。


「いえ、そんな難しい話じゃないんですよ。あの巨漢がヴィンセントさんに抱いてる思いを別のものにすり替えるってだけの話なんで。

 他の誰かにしちゃうと今度はその人が被害に遭うので、なんかでっかいぬいぐるみとかに矛先向ければ平和かなと」

「…………採用しよう」

「しちゃうんですか」

「それで、その薬は」

「いくらうちが薬屋だからってあると思ってるんですか? ご禁制の品物ですよ。扱ってるわけないでしょう」


 そう言えばヴィンセントさんは頭を抱えてテーブルに突っ伏した。


「一応作り方は知ってますけど、材料とか常に揃ってるわけでもないんで。どうしてもっていうならほら、材料はそっちで集めてきていただければ」


 そうする事で私一人だけが犯罪に手を染めた、なんて事にはならない。材料持ってきたのはヴィンセントさん、お薬制作依頼もヴィンセントさん、という万一私が犯罪者扱いされた場合意地でも彼を巻き込む流れである。

 まぁ、ディットさんがこの場にいるので、私だけが一方的に踏みにじられるような展開にはならないだろう。


 一応材料はこれです、とメモに書いて渡せば、ヴィンセントさんはそれを極秘の情報書でも扱うような慎重さで懐に収めた。あ、やっぱその案採用なんですね。


「これから材料を用意してくる。集まり次第そちらに届けるので速やかに作成してほしい」

「必死ですね」

「むしろ必死にならない理由があるか?」


 そこまで言われてしまえば何とも言えない。


 頼んだ料理の支払いは既に済ませているので、ヴィンセントさんはそのまま席を立つと足早に立ち去っていった。路地裏に隠れてた時とは違って、何だかまるで一人で魔王に挑む勇者みたいな面構えであった。


「あの様子だと今日中に集めてきますよ、確実に」

「えっ!?」

「ヴィンセントの家はあれでそういう伝手があったりしますから。下手すれば日付が変わる直前に押しかけてくるかもしれません」

「わーお」


 ヴィンセントさんの家がどういう感じかは知らないけれど、知ってるらしいディットさんの話を信じるならば今日は夜更かししてた方がいいのかもしれない。寝てるところを叩き起こされるよりは最初から起きて待ってる方がマシな気がする。



 ――ちなみにこの時のディットさんの言葉は見事的中し、日付が変わる直前にヴィンセントさんは材料を持って我が家にやってきたのである。

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