白昼夢って事にした
そうして他の場所を見回って。
ある程度見終わったのは昼をちょっと過ぎたあたりだった。
まぁ朝起きて説明聞いてそれから出発して、って考えるとそこそこの時間が経過してはいたけれども。
とりあえずちょっと遅めの昼食を食べて、これから次どうするのかって話になった。
拠点となっている建物の、それこそ全員が集まれそうな室内には一応どこそこを見回りましたよ、みたいな報告書が置かれていた。私たち以外のグループで先に戻ってきた人たちのだろう。
パラパラとそれらを確認するルーウェンさんの隣からそれを覗き込んでみれば、半分くらいは異常なしという結果になったらしい。もう半分は魔物と遭遇したけど単体だったり出てもそう多くない数だったからかサクッと退治したよ、みたいなやつだ。
とはいえ、サハギンを倒したという報告はない。
「たまに昼でも見かけるって話だったけど、本格的に行動するのは夜っぽいな」
「だな。怪我人が出たって報告も今のところはなさそうだし、それなら今のうちに休んで夕方から夜になってまたあのあたり見回ってみるか」
カイルさんとルーウェンさんがそう言ったので、とりあえず夕方までは休めという事か、と理解する。
ちょっとだけ町の中を見て回りたいんだけど、大丈夫かな。
そう問いかければ、少しだけなら構わないと言われたのでお言葉に甘えてちょっとだけ見てくる事にした。
何せついさっきご飯食べ終わったばっかだから、すぐに寝るのは正直キツイ。主に胃の負担的な意味で。一応私健康な方ではあるんだけど、だからって何やっても大丈夫! とかいうレベルで頑丈ってわけじゃない。あくまでも人並みである。
まだ若いからそこら辺ちょっと無茶してもどうにかなるだろうけど、それを当たり前だと思って習慣化させちゃうとね……年とってからが大変な事になるんだわ。治癒魔法でなんでもかんでも解決できるわけでもないからさ。胃潰瘍とか内部で炎症起こしてますよ、みたいなのはどうにかなると思うけど、それでも怪我を目視できない状態なので若干効きが悪いと思うんだよね。自分の身体なら痛くなくなるまで魔法発動させればどうにか……とは思うけど他人の身体だと微妙なところ。
でもこれ怪我で済む範囲ならともかく、そうじゃなくてもう病気ですね、っていうところまでいっちゃうと治癒魔法でもどうにもできないからさぁ……しかも内臓なんて目視できるわけじゃないから、早い段階で治療できていれば~とかいうよくあるパターンでもこっちじゃ大体気付くの手遅れレベルになってからとかじゃないかな。症例次第だけども。
とりあえず……自分の健康は自分で守るしかないんだよね。当たり前の話だけど。
というわけで食後のちょっとした腹ごなしも兼ねてメルドーラの町の中を探検する事にしたわけだ。
探検って言っても別にわざわざ人通りの少ない路地裏だとかを行くわけじゃない。
普通にそこらにある店の確認だ。港町ではない。漁業を生業としている町って聞いてたけど、なんというか思ってたのとちょっと違ったんだよね。
漁師の町、って言ってしまえばそれまでなんだけど、そういうイメージで想像したのって私、多分村とかそういう系統だったんだわ。木造建築の小屋と言ってもいいレベルの家とか、漁で使う網とかがそこらに干されてたりだとか、こう……言っちゃなんだけど日本昔ばなしに出てきそうな感じの。
でも実際は海辺の町って言われてるのもあるんだろうけど、全体的に綺麗。
建物は白が基調なのか雰囲気的にも明るく爽やかな印象だし、最初に想像した漁村みたいなものとは違ってどっちかっていうと海辺の観光地みたいな雰囲気すらある。
立ち並ぶ店も町の人たちがよく利用する店も勿論あるんだろうけど、時折ここに立ち寄る旅人向けっぽいのもちょいちょい存在していた。
あ、保存食かな、干し魚売ってる。一夜干しとかだとあまり保存食って感じしないけど、乾物レベルにまで干せば酒の肴みたいになるしおやつとしてもいけるよね。
おぉ……これとかいい感じでは……?
帰る前に買っていこうかな。一応ちょっとくらい買い物する余裕はあるよねきっと……
今買って帰ると荷物の中に魚介系珍味は下手すると他の荷物に匂いが移ってしまうからな……
帰る前にちょっとだけ買い物の時間下さいって後でカイルさんかルーウェンさんあたりに許可もらっとこう。今回参加したギルダーの中で誰がリーダーかって言われると多分あの二人のうちのどっちかだろうし。
そんな感じであちこちの店のチェックをして、帰りにこれとこれとこれは絶対買って帰ろ……と決意する。
魔法が使える、といっても私が使えるのは治癒魔法と結界だけだ。それ以外の魔法となると攻撃魔法は攻撃……? と言えるくらい低威力。火は壊滅的に発動しない。風はせいぜいそよ風レベル。水は飲み水とかちょっとした氷を出すくらいならどうにかできるけど、それだけだ。
お冷出すなら問題ないけど、魔物相手に攻撃するとなると流石にそれはちょっと……
そんななので、リタさんの部屋にあった魔法書っぽい本とかで見た古の秘術、みたいなのはまぁ使える気しないんだよね。中には空間圧縮だとか時を凍らせる魔法だとかあるらしいんだけど。
つまりあれじゃろ、空間圧縮って例えば鞄の中でそれをやればめっちゃ色んな物が入るって事でしょ?
ゲームでよくある無限収納みたいな。
時を凍らせる、時間停止か? まぁそれも荷物の中で食べ物だとかを持ち運ぶ時に使えればとても便利とかいうやつだと思うの。
ゲームの中では普通にアイテム欄で何もかもアイテムが保存されてたけど、転生してこうして今私がいる現実ではそうじゃない。荷物として持ってこれる量には限りがあるし、何より沢山持ってきても重たいだけだ。更に生ものなんて持ってきたら下手したら早々に腐ってしまう。
ゲームのように何でもかんでも持ち運べるわけじゃない。
使えると絶対便利なんだろうけど、そもそも魔法書見てもさっぱりだったもんな。何をどうすればいいんだあれ……そもそも詠唱とかも完全にわかってない感じだったぞ。結界とか治癒魔法とか無詠唱で発動できるとはいえ、本来の詠唱を理解しているからできる芸当であって。
どういう詠唱で発動するかもわからない魔法を無詠唱で発動できるか、ってなればそりゃ勿論無理な話だ。
恐らくどっかにちゃんとした完全版の魔法書があるとは思う。リタさんが持ってたのはそれの写本とかそういうやつだと思うんだよね。で、それを写した人がそもそも完全版の内容を理解しきれていなかったのではないか、と推測している。
もしくは、本来写本できるようなものじゃなかったけど、人目を忍んでちまちま写していった結果、ところどころ虫食いのようになってしまったか。
オリジナルの本を堂々と開いて見ながら写せばそういう事にはならなかったかもしれないけど、そうじゃなくてチラッと見た内容を後で別の場所で思い出しつつ、ってなると所々忘れてしまっても仕方のない話だと思う。
他の場所とかでああいった魔法書探したりしたら完全版じゃないけどちょっとずつ情報集まって……とかないかな。ゲームだとよくある話だよね。
まぁゲームだとよくある話だけど、その場合もれなく私世界中を旅しないといけなくなるわけで。
ああいうのってゲームだと基本的に世界中あちこちに散らばってるって相場が決まってるし。
そんなんやらかしたら私完全に主人公ポジションじゃん。……やめとこ。
とりあえず気になる店のチェックは済ませたし、そろそろ戻って休まないと次は暗くなってから行動に移るっぽいからな……外で寝落ちは流石にヤバいからそれは避けたいところ。
そう思ってさてじゃあ戻るか、と来た道を引き返そうとした矢先に。
「お前」
やや低い、女の人の声がした。
「そこのお前。夏だというのに全身真っ黒の季節感皆無なお前」
声がした方を見ると、建物と建物の間の細い道に白い女の人が立っていた。
いや流石にさ、お前、だけなら私の事じゃないだろうってスルーしたけど流石にそこまで言われたらもうこれ私しかいなくね? ってなったわ。この町の人たちの服装とか割と白とか青系統の爽やか~な感じのが多いし。
声がした方に視線を向けはしたけれど、え、これ、私どうすればいいんだろ……
声をかけてきた女の人は、白を基調とした一見するとドレスに見えなくもない服を着ていた。とんでもなくゴージャスな衣装だったら花嫁さんか何か? とか思ったかもしれないけれど、そこまでではない。精々ちょっといい家の人がよそ行きに着るんじゃないかな、くらいのものだ。
そして白い髪。頭のてっぺんからつま先まで真っ白であれば、そりゃ白い人って認識しても仕方ないよね。靴も驚く事に真っ白だ。今日新しいのをおろしたばかり、とかならわからんでもないけど、そうじゃなかったら白い靴って結構簡単に汚れて黒ずむよね。
ほとんど白一色、みたいな女の人だけど、流石に何もかも真っ白ってわけじゃない。唇はほんのりと色づいていたし、目は私と同じく金色だった。
「……あの、何か?」
一体なんでそんなところにいるんだろう、と思いながらも私に声をかけてきたわけだし流石に無視するわけにもいかないだろうと思って聞き返す。
「お前、呪われてるね。それもとんでもなく強く」
「……はぁ」
魔法がある世界だから、呪われてるねって言われてそれを笑い飛ばす真似はしない。多分私が知らないだけで何かこう、ちゃんとした手順と儀式とかがあるんじゃないかと思っている。
とはいえ、だからって呪われてるって言われてもそれが何か、としか思えない。
いや、正直実感してないし。
もっとこう、日頃から不運の連続で人生が常にアンハッピーです、みたいな状態なら今の言葉をするっと信じて「そんな!? 一体どうしたら!?」とか言っちゃうかもしれないけど、正直自分そこまで人生悲観したりはしてないんだよね。いや、転生してるって気付いた最初の頃は割と途方に暮れる事もあったけど。前世の記憶思い出したらその時点で両親死んでるし、親戚の家に引き取られる事になった時も結局途中で盗賊に馬車が襲われて馬も御者の人も亡くなっちゃったから親戚の人が誰なのか知らないままだし。
そこからおばあさんと出会う事もなく路頭に迷ったりしてたら多分信じた。呪われてるって。
強く呪われている、って言われても、正直今その効果を実感はしていない。
そもそも効果を実感できる呪いって何って話だけど。
日常のちょっとした不運なんでもかんでも呪いに紐づけてたらキリがないし、魔法が創作の中だけの概念だった前世でもそもそも呪いってのはあった。とはいえほとんど思い込みだ。
それを知ってるからこそ、ちょっとした不幸をなんでもかんでも呪いだなんて言うつもりもない。
「自覚してなかったのかい。随分とまぁ……」
「自覚も何も呪われてるって思う程自分の人生悲観するようなものでもないので」
そもそも衣食住どうにかなってる時点で全然マシでは。下手したら路頭に迷ってたかもしれないけど、今の生活考えたらそこそこマシな方では。
住む場所があって、飢える事もまずない。手に職もある。薬屋は個人でやってるから気の合わない同僚がいるとかでもないし、ギルドに関しても私回復要員だからな。他のギルダーの皆さんとそこまで仲が険悪になるような事もない。
これで呪われてるとか思うか? って話だ。
「……気にしてないなら構わないよ。けど、努々気を付けるんだね。そうじゃなきゃ、食われるよ」
「気を付けてどうにかなるものなんですかね……」
「ならないねぇ。ふふ、くふふ、あはははは」
気を付けてどうにもならないならそれもう気を付ける意味がないのでは。っていうか、どうしようもないやつでは?
なんて思ってたら女の人は楽しそうに笑って――消えた。
「――は?」
建物と建物の間の細い道。日の光が差し込まない薄暗いそこに、白い衣装の女は浮かび上がるようにして存在していた。もしかしたら見る人によっては幽霊と勘違いしたかもしれない。
「え……?」
気になった私は思わずその道に足を踏み入れて数歩進んでみたけれど。
あの女の人らしき姿はもうどこにも見えなかった。




