ゲームだったら絶対何か宝箱とかあっても許されるけど実際には何もありませんでした、おのれ!
その後はどうやって帰ってきたのか覚えていない。
とか言うとなんだかとってもホラーみ溢れるけれど、実際は普通に帰ってきました。
あの細い道を少し進んだりもしてみたけれど、あの女の人はどこにもいなかった。まるでその場に最初からいませんでしたよ、みたいに消えてしまったとしか言いようがない。
この世界魔法があるとはいえ、こう、一瞬で姿を消すようなのとかは使える人いないと思うんだよね。
古の魔法とか何かこう、とにかくすんごいのとかだったらありそうではあるんだけど。そもそもそういう凄い魔法を使える人ってのがまずいない。
いたらめっちゃ有名になってると思う。
しばらくその辺うろうろして一応探してはみたんだけど、影も形もないので諦めて普通に拠点に戻ったわ。
そろそろ戻って休まないと、夜がキツイだろうし、ってのもあったからね。
ある程度動き回って体力を消耗させたのもあってか、拠点で自分に割り当てられた部屋のベッドに横になったらお休み三秒でしたわよ。
ちなみに呪われてるとか言われたけど別に悪夢とかで反映されたりもしていなかった。夢とか特に見ないですやぁしてたわ。
で、すっかり日が沈んだ夜。
夏だから暗くなる頃にはそこそこ遅い時間になってるんだけど、起きてまだ残る眠気をどうにか押さえつけながら外に出て見れば、昼とはだいぶ様相が変わった町並みと言えた。
まだ営業している店もいくつかはあるみたいだけど、ほとんどは閉まっている。街灯がないわけじゃないけれど、それでもやっぱり昼と比べると……昼の学校と夜の学校、くらいに雰囲気が違う。
大通りでまだやってる酒場あたりは外に漏れてる明かりとか、建物の中からドッと沸きあがる笑い声とか賑やかなんだけど、それだって建物からある程度離れてしまえば喧噪なんて聞こえなくなる。
静かになった分、遠くから波の音が聞こえてくる。
魔物が出ないのであれば、砂浜でキャンプとかできただろうにな、なんて思いながらもまたも同じメンバーで見回りに出る事になった。
「ところで思ったんですけど」
「お、どうした。何か気が付いた事でも?」
私の呟きのような声を瞬時に拾い上げたのはカイルさんだ。
「気が付いたっていうか、昼間に見たあの洞窟もどきあるじゃないですか。アレ、何の意味があるんです?」
「何の意味、とは?」
私の疑問を理解できなかったのか、ルーウェンさんが片眉を僅かに跳ね上げる。
「いや、一概にどうってわけじゃないけど、例えば村と隣接してるとかそういうところだと魔物さえでなきゃああいう所って涼しいから食料を保存するとかに利用されたりだとかって話は聞いた事あるんですよ。涼しくなくても例えば日の当たらない所でじっくり熟成させるだとか。壺の中で漬物だとか味噌だとか」
前世でも冷蔵庫がまだ普及する前は日の当たらない倉だとかで一部の食料が保管されてたとか聞いた気がするし。
そうじゃない場合で思い浮かぶのは防空壕とかなんだけど、別にこっちで戦争してるわけでもなさそうだし、じゃあ別にそういう役割ではない。仮にそんな役目があったとしても、あの洞窟じゃ意味がないと思ってるけど。
一時的に雨風をしのぐために、とかにしたって、あの洞窟は海に続いているわけだし、奥に行ったとして下手したらめっちゃ海荒れてたら洞窟の中も大分水が流れてくるのではなかろうか。ていうか、下手したら海側から凄い勢いで濁流になって砂浜の方に流れてくるとかあったりしない?
例えば。
例えばなんだけど、この世界に人魚とかいうメルヘンかつファンタジーな種族がいたとしてだよ?
この町の子とかが秘密基地扱いしてあの洞窟で遊んでる時にどういう経緯かは省くにしても人目を避けるようにしてその子たちと会うのにあの場所を使ってる、とかって感じならまだわからんでもないの。
でも別に人魚ってこの世界いないからね。
魔物とかはいるけど人魚ちゃんはいません。エルフとかはいるらしいけど、人前には滅多に姿を見せないらしい。人間以外の異種族がこの世界にどれだけいるのかもよくわかっていない。
けど、人魚がいないってのは確かだと思う。
過去そういった目撃情報とかがあったりするでもないみたいだし。伝承とかもないっぽい。
となると、あの洞窟他に何に使われてるの? ってなるわけで。
だって普通に入って奥まで進んだらあとは海に繋がってるだけ。
例えばこの町が他の国と戦争になって敵国の兵士が攻めてきました、町の人たちは逃げるしかありません、ってなったとして。
あの洞窟に逃げても最終的にあの場所隠れられるような場所もないし。
海に逃げ込むにしても、船を隠しておけるような場所でもない。そもそも奥は行き止まり状態になっていて、進むとするなら海に潜るしかない。潜って泳いで外の海に出たとしても、逃げている状況ならどのみち最終的に捕まりそうだし意味があるようにも思えない。
いや、仮に船を隠しておくにしても、そこから強引に外に出るには岩壁を爆破しないといけない。うーん……でも、あの洞窟そこまでの広さがあるでもないから、船を運ぶ以前の話だし、あの場で部品を持ち運んで組み立てるってのも論外だと思う。
考えれば考える程意味がないのではないか、と思える場所だった。
そういったあれこれを私が言えば、ルーウェンさんは顎に片手をあててふむ、と小さく唸った。
「確かに、魔法が使える者が常にいるというわけでもない。だからこそ、そういった場所で食料の保管をしているという話は今でも場所によってはないわけじゃない。
というか、魔法が使えてもそこまで使いこなせないという者も多いからな」
平民も魔法が使える者がちらほら出てきているとはいえ、威力は低い。魔物をばんばん倒しまくるために使われるというよりは、どっちかといえば生活の役に立てるとかそんな感じの方が多いんじゃなかろうか。貴族で代々魔法を使う事のある家、とかだとまた違うんだろうけれども。
知り合い作フリゲだとそういう感じはしなかったんだけどさ。学校で学ぶ人たちは割と……って感じだったけど、こっちがゲームと同じかって言われると微妙な気がする。あまり強くない魔物ならどうにかなるんじゃないかな。たまにギルドとかで聞く噂話とかから推測すると。でも常時魔法を発動させっぱなし、みたいな魔力を惜しみなく使えるタイプの人はいないと思う。流石にいたら噂になってるだろうし。
「でも確かにあの場所食料を保存って感じでもなかったよな」
「むしろ海が荒れた日は海水が勢いよく洞窟内部を浸食していきそうだな」
「魔物が出なければお子様たちの秘密基地扱いみたいな感じだったと思うんですけど」
むしろあの場所で食料保存するにしても、下手したら海水で駄目になりそうだし、実際何にもなかったもんなぁ。
「……ちょっとこの町の自警団の奴にあの洞窟について聞いてみるか」
さてこれから見回りに行くぞ、って感じで砂浜の方に移動しかけてたんだけど、その前に、という事で進路を変更して自警団が拠点にしている建物へと先に行く事にした。
さて結果はというと。
あの洞窟、特に意味はないらしいよ。
昔は行き止まりになってなかったみたいで、ちょっとしたトンネル状になってたらしいんだけど何十年か前に大嵐が来た時に一部崩れて埋まったらしい。で、今の形になったんだとか。崩れた後、天候が回復した後泳ぎの得意な人が簡単に調べたらしいけど、海の方は普通に外と繋がってるのだとか。
とはいえ、下手すると魔物と遭遇するからあまり悠々と泳いだりはできそうにない、と。
むしろ今はあの洞窟から魔物が出たりすることもあるので、正直困っているってのが本音っぽかった。
トンネルみたいになってるだけなら確かにそこまで気にしないだろうけど、海側から好きに出入りできる状態だといつ魔物があの洞窟に出没してるかわかったもんじゃないもんね。
かといってあの洞窟の入口に見張りを置くだけの余裕もないっぽいし。
メルドーラのお子様たちは既に大人も多少被害に遭ってる事を知っているから、魔物なんて大した事ないぜ、とか若さゆえの無謀で洞窟に行くような事もしていないらしい。そうね、そんなノリで行ったら運が悪ければ最悪数人死人が出てもおかしくないものね。
そこでへーきへーきとか行って死にに行くような子が出ても正直自業自得としか……
危険な場所に行くにしても、例えばそこにある素材がどうしても必要なんです病気のかあちゃんのために! とかそういう理由があるならまだしも、ただの度胸試し程度で大人の言う事無視して、ってなったらさぁ、死んでも「でしょうね」としか言いようがないっていうか。
とりあえずこの町の自警団の人曰く、もうあの洞窟あっても意味がないしむしろいつ徒党を組んで魔物がぞろぞろ出てくるかわかったものじゃないから本当に困っているのだとか。
「……まぁ魔物が海から出てくるにしても、下手に居着かれるような場所があるってのは確かに困りものでしょうね」
「普通に砂浜にあがってやってくる、とかだとそこまで集団でもないからこっちでも追い払うなりできるんだが、あの洞窟は念の為確認しに行くにしても、大勢で行くと足音で判断されるのか海の中に逃げられてるようにしか思えない。逆に少人数で行くと最悪海に引きずり込まれかねないし……」
「かといって確認しないわけにもいかない、と」
「そうなんだよ。放置しておいてあの洞窟の中で魔物の子とか育てられたりしてたらと考えるとそれこそ放置もできないし」
なんて会話をして、他にも自警団本部にいた人たちがうんうんと頷いていたのもあって。
「じゃあ、壊しても構いませんよね」
なんて思わず口に出してしまっていた。
「え、そりゃあ、壊せるならそれに越した事がないけれど。けど、あの岩壁結構頑丈だぞ? いっそこっち側の出入り口も埋めてしまおうかって話が出たけど中々上手くいきそうな感じがしなかったから困った事に現状維持のままになってるわけだし」
「んー、多分大丈夫かな。壊して、というか崩していいならそれで。こっちで勝手にやって後から文句言われるのも困るかなと思ったので一応許可だけは出してもらえると」
「……本当に、いいのかい?」
「はい、ただちょっとうるさくなっちゃうかもしれませんが……」
「だったら昼間のうちにやった方がいいんじゃ……?」
「今ならもしかしたら魔物もいるかもしれないわけですよね。じゃあついでに纏めて殺っちゃおうかと」
私がそんな風に言えば、自警団のお偉いさん――とはいえ彼はサブリーダーだと名乗っていた――が顔を引きつらせた。
「そもそもなんでここに魔物がやってきてるのかがわからないんですけど、でも近づくのは危ないって魔物も判断できる頭はあるわけですから、それに賭けるって意味もありますね」
「うぅん……どれくらいのうるささになるのかちょっとわからないけど……それ、明日にしてもらえないかな。明日のうちに町の人たちに説明だけはしておきたいんだ」
「そうですね。何事かと飛び起きてからのパニックとか避けたいですし」
「リーダーにも一応話は通しておくよ」
「はい、じゃあ今日の所は大人しく見回りだけにしておきます」
なんて会話があって、その後は普通に見回りに戻ったわけだ。
洞窟以外の場所でも魔物が多く出るポイントがあればそっちもちょっと確認してみたいなー、と言えば、カイルさんとルーウェンさんが何とも言えない顔でこっちを見ていたのが解せない。




