物騒な世の中
どうやらマトハルさんが倒した盗賊たちはまだ他にも仲間がいるらしく、アジト周辺の捜索が始まった。
とはいえ、ウルガモット周辺に他にもあんな好条件のアジト向け立地があるでもなく、残りの仲間はどうやらこの街にいる可能性が高い、という話になっているらしい。
いやうん、確かにね、街の中で生活してる見た目一般人が実は盗賊の一味、ってなると街でこいつは金持ってるとかそういう情報集まりやすいだろうし、同時にこいつは金持ってるけど手を出すと厄介な家のやつ、みたいなのとかね、あると思うからね。
でも、じゃあ誰がそうなのか、ってなるとそこから捜査は一向に進まなかった。
街の中でも問題行動を起こしてしょっぴかれた人はそれなりにいるけれど、そいつが盗賊の仲間であるというわけでもない。
仕事をクビになってむしゃくしゃして暴れた、なんて人から金が無くて仕方なく盗みに入りました、なんていう犯行動機の持ち主の話を聞いている分にはそいつらが盗賊の仲間、という感じもしない。
彼らが仲間であるならともかく、そうでなければ他にも潜んでいるという事になるわけだし。
親分は捕まったけど、じゃあそいつが他の仲間の情報吐くかっていうととても微妙。
そこで死なば諸共、くらいのノリでバラすような人物なら多分どこかで裏切られるとかばらされる前に殺そう、とか思う現状潜んでる部下がいてもおかしくはない。
仲間を売るような事をしないまま、その仲間が助けに来る可能性に賭けている可能性もある。
仮に助けにこなかったとしても、野放しにしておくと今捕まえた連中を処罰したとして、残った連中がほとぼり冷めたあたりで何かをやらかす可能性もある。
自警団が調査に回り、騎士団が親分他を尋問しているらしいという話はマトハルさんとギルド長から聞かされた。
「物騒な世の中ですねぇ……」
犯罪って割に合わない商売だ、なんて言葉もあったような気がするんだけど……でもまぁ、金持ってる相手から奪えばいい、って軽率に思っちゃう奴はいるんだろうな。
「そうだな。魔物の目撃情報も増えつつあるし、更に盗賊だって捕まえたあいつら以外もいる。小規模なグループがそこかしこでやらかしてるのが現状だから、一つ潰したくらいじゃ焼け石に水といったところか」
ウルガモットの街周辺が色々と自然豊かなだけあって、魔物も暮らせるし盗賊も街から出ても一応生活できちゃう感じなのがここにきてとても面倒な事に……
「まぁ、なんだ。とりあえず今回捕まえた連中の仲間だけでも捕まえておきたいところではあるよな……」
ギルド長が重々しい口調でそんな事を言うものだから、てっきり何かあるのだろうか? と思ってしまった。なんだろ、どこかのお偉いさんが視察にくるとかそういう? その流れで盗賊とか見つけ次第きっちりしょっぴいてますよっていうアピール? 捕まえたならともかく一部はまだ逃亡中ですだと心証悪いもんね。
「そろそろ春の訪れを告げる花祭りがあるだろ。祭りともなれば浮かれる連中は多い。仲間が潜んでいたとして、その隙を狙って他の家に盗みに入るだとかそういった被害が出る可能性はある。
逆にここでそういった一味を捕まえた、なんてニュースが出れば他のよからぬ事を考える輩も多少なりとも警戒する」
「あぁ、そういえばありましたね……」
ウルガモットに来て一年は経過してるとはいえ、去年の花祭りの時はリタさんに延々お薬の調合方法教え込まれてたからお祭りがあったって話を聞いたのは終わって数日後だったんだよね。
まぁお祭り前にお祭りがあるよって言われたとして参加したかどうかは疑わしいけど。
何せその頃の自分、知り合いとかほとんどいなかったもんな。
ぼっちで祭り楽しめとかちょっと難易度高くない?
いや、出店とかね? そういうの見て食べ歩くとかそういう目的があればいいと思うよ一人でも。でもなんとなーく見るだけで一人うろついてるとさ、どうしても周囲の楽しそうな人たちが目につくわけで。
お友達同士でキャッキャしてるのは楽しそうだな、で済むけど、恋人同士のイチャイチャがそこかしこで、となると色んな意味で胸焼けする。嫉妬とかではないんだけど、なんだろ、盛り上がった結果外で盛ってくれるなよ、とかそういう考えはあるな。下手に路地裏でお子様が見ちゃいけないレベルのいちゃつきしてるのとか目撃したら気まずいじゃん?
仮に目撃したとしてもスルーできるとは思うけど、何か下手に一人かよ可哀そとか憐れまれたらそれはそれでイラつくじゃん?
外で盛ってる動物に憐れまれる程じゃねぇよ的な意味で。
あとその手の連中に絡まれたとしても、周囲に誰も自分の知り合いがいないとさぁ……周辺にいるモブどもまでもがこっちの敵に回りかねないって考えるととても面倒だよなって。
その点今年はギルドの人という顔見知りがちらほら増えたので、お祭りとかちょっと見てみるのもいいのでは? と思っている。何かあった場合、身元の証明がそれなりにハッキリしてるっていうのは大きい。
だがしかしこのままだとそのお祭りも何も考えずに楽しむという事ができないかもしれない……と。
それは困るな。
あちこち見てまわってうわー、たーのしー、で済めばいいけどそうじゃなかったら今通り過ぎた人何か怪しかったな……みたいに疑心暗鬼する羽目になるかもしれないとなると、とても面倒。
お祭りの間にそういう事件とかがなかったとして、後日残党が捕まりましたよ、で顔を見る機会があったとして、あっあの時見かけた人だ、ってなったとしてもそれはそれで何か精神的にイヤ。
そういうあれこれを考えると、今捕まえてるボスから残りの連中の情報を聞き出すのが手っ取り早いって事か……でもその親分は口を割らない、と。
中々に難しい問題よね。
暴力で痛めつけて吐かせるにしても、やりすぎると死ぬかもしれないし尋問途中で死にました、ってのはこちら側からしても世間体が悪いとかあるだろうし。
前世だと間違いなくマスコミに叩かれる案件。実際やらかしてる相手でも死んだ時点で冤罪だったのでは? とか言い出す連中とかも出てくるし。
かといってただただひたすらに聞きだすだけにしても、相手が喋るつもりがなければ単なる根比べになるし、そもそも命の危険性のない尋問であれば吐こうとは思わないだろう。そんな部分であっさり吐くような奴だったら捕まった時点で他の仲間はあっこれ情報洗いざらい吐くやつだってなってとっくにウルガモットから逃げ出してるはずだろうし。
「その、お仲間がとっくにここから逃げ出してるって可能性あります?」
情報吐く前に親分を仕留めよう、とか思う殺意アグレッシブな部下がいる可能性を考えてみたけど、そもそも彼らが留置されてる所だって簡単に侵入できるものじゃないかもしれない。
そうなれば、情報吐いたら次に危険なのって部下なわけだし、逃げるよね。親分の口封じできないとなれば逃げるよね?
さも当然のようにこれから用があって他の町に行きますよ、みたいな感じで装って出ていく事もあり得るし、夜逃げ同然で逃げ出したりもするかもしれない。
そういったこの街からの出入りに関して聞いてみれば、特に怪しい人物の出入りはなかったそう。
というか、この街から出ていった、っていう人今のところいないらしい。
え、えぇー、マジか……じゃあ部下いるって事? この街に?
逃げ出してないって事は親分や他に捕まった仲間が口割る事ないって信じてるって事? その信頼はどこからきてるの?
いや、わからんな。口を割らずに親分と捕まった子分たちが牢にぶち込まれてしばらく出てこれない、となったとして、出てきた後でお前らの事は黙っててやったんだから少しの間生活面倒見ろよとかそういう……?
でもそうだとしても、牢屋でお勤めしてる間に部下だった人が街を出て逃げました、ってオチもあり得るよね……?
う、うぅ~ん、その手の悪党の考える事がさっぱりわからないぞ。
あと考えられそうなのは仮にこいつも仲間です、って言われてもしらばっくれたり切り抜ける事が可能だから逃げ出す必要がなくて悠々と暮らしているとか……?
親分以上に厄介な後ろ盾が実はいるとかそういう……?
親分だと思ってたのが実は中間管理職的な奴で真の親玉が潜んでいる……
うーん、絶対に無い、とは言い切れない。
考えれば考えた分だけ様々な可能性が出てくるけど、どれもこれだ!! っていう確証があるわけでもない。
「なんだか……大変ですね」
花祭りが始まる前に解決できる気がまるでしないぞ。
「そうだなぁ。どうにかして情報吐かせようとしてるらしいが思った以上に手強いようだ」
花祭りまでに捕まってくれればいいけど、そうじゃなかったら祭りで浮かれてる隙をついて悪事を働こうとする人により一層気を付けないとなぁ……ウチは金目の物とかそんなにないから大丈夫、と言いたいところだけどそれでも薬の材料とか盗まれたらそれなりに困るし……
防犯アイテムとか作るべきかな……でも私前世であまりそういうの使わなかったからいまいちどういうのがあるのかわからないんだよね。
ホームア〇ーンを参考におうちトラップ仕掛けるにしても、朝になったら解除しておかないとうっかりお客さんが引っかかったら大変だし……
寝る時とか出かける時に盗まれたら困る物だけ結界張っておくにしても、毎回だと魔力の消耗激しくなるからやりすぎた結果自分が倒れるような事になるとそれも困る。
どうしたものかなーと考えていたら、ギルドのドアが開いてルーウェンさんがやってきた。
「おう、今日は来ないんじゃなかったのか?」
「あぁ……いや、ちょっとした所用で。ディットが依頼終了したっていう連絡も兼ねてこちらに立ち寄った」
「んん? ディットはどうした? 終わったのに報告に来ないのか?」
「急遽家に戻る事になってな。報告はだからかわりに俺が」
「ははぁ、家の事情か。大変だねぇ……」
「あぁ…………そうだエルテ」
「え? はい」
「これから時間はあるだろうか」
「え? いや、あの……はい」
ギルド長と話してたと思ったら唐突にこちらに話を振られて何で自分に!? と思いながらギルド長を見る。
どのみち今日はもう怪我人が運ばれてくるような事もなさそうなので、ギルド長は問題ないぞとばかりに頷いている。
私がギルド長へ視線を向けて確認していたのをルーウェンさんもわかっていたからこそ、私のその返事どっちなんだよ、みたいなやつを特に気にするでもなく、
「それでは少し付き合ってもらえないだろうか」
なんて言い出した。
「え? あの、どこに……?」
「行けばわかる。少なくとも危険はない」
「街の外とかですか?」
「いや。ここからそう離れてもいない。とはいえここで説明するのも少しばかり問題がある。ついてきてくれるか?」
説明はここじゃできないし、どこに行くとも明確に言わない。
怪しい事この上ないが、それを言っているのがルーウェンさんという時点で断るのもなぁ……となってしまう。
ギルド長はわかっているのかどうなのか、さも訳知り顔で「おう、行ってこい」なんて言ってるし……
危険はない、という言葉は確かなんだろう。
これで嘘なら結界でぶん殴るぞ。
そう心に決めて、私は何がなんだかわからないながらも頷いて、それから立ち上がった。




