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弐拾禄話 御老公と御犬小屋騒動 下

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翌日柳沢殿の屋敷に伺うと忠相と荻生惣右衛門も揃っていた。何時もの面々(悪巧み)である。


「上様より御犬小屋を作り江戸にいる野犬を集めよとお話があった」


「御犬小屋ですか?」


 惣右衛門が首を傾げる。


「最近野犬が増えその被害が出ておる。これまでも問題となっていたのだが…」


 柳沢殿の話では人気の無い社に捨てられていた生まれて間もない捨て子が野犬に喰われた事件があり、その事が上様の耳に入ったそうである。予てから捨て子を禁じる禁制を出していた上様は大激怒、捨てた親を探させ厳罰に処し、犬の対策を幕閣に命じたのだ。幕閣も前代未聞の命令に仰天し、結局柳沢殿の所に話が来たそうだ。


「そこで今まで側用人の喜多見若狭守の管理していた御犬小屋を拡大することとなった、喜多見殿の御犬小屋は老犬や病気の犬を引き取り世話をするだけの小屋だが新しく作る小屋は世話をする者たちが居ない犬を捕まえて世話をすることとなる。御犬小屋は千駄ヶ谷の儂の屋敷地を宛て代地として駒込に土地を賜った。御加増頂いたので屋敷地を広げる必要があったから丁度良かったと言えるが」


 そう言っていた柳沢殿は少し寂しそうだった、千駄ヶ谷に未練があるんだろう。でも駒込もいいぞ、後の六義園が出来る地だしな。


「ではその御犬小屋ですが普請は外様大名に?」


 忠相が問うと柳沢殿は頷いた。確か美作国の森家が普請を命じられたが費えの多さや収容中の犬を殺されて当主が発狂して取潰しになったんだっけ。気の毒な話である。まあ今の生類憐みの令は苛烈では無いし、犬小屋も捨て子に害を与えたから収容する訳なので早々問題は起きないはずだ。


「問題は野良犬とそうでないものの見分け方だ。犬は主に町で面倒を見ている事が多いが放し飼いなのでどこの犬かは判りにくいのだ」


「ならば宗門人別改帳と同じく犬別改帳を作り犬には鑑札を作り区別が付くようにしては如何でしょうか。子が生まれた時や亡くなった時に記載したり消したりして置きそれが無い物を野良犬として収容し、又収容した犬は希望する町が有れば犬別帳に載せて鑑札を発行することで渡すようにすれば如何でしょう」


 まあこれは動物愛護センターがやっている事なんだけどね、それをパクっただけである。


「成程、それならば問題は起きぬし一目見て区別がつくな」


「これなら収容する犬をむやみに増やさずに済みますね」


柳沢殿や忠相も賛成か。おっと後はあれも言っておかねば。


「もう一つ、華の一族の書に載っていた物に狂犬病と言う病があります。これは犬が罹る病が人に感染するのですが、発症したら万に一つも助からないと言われる業病です、これの流行を防ぐには犬を分けねばならず御犬小屋はその役目も担うべきです」


「そう言えばあったな、発症したら助からぬ病など恐怖でしかあるまい。確かに罹った犬を捕まえ小屋に入れれば病に罹る者が減るというのは大事な事だ」


こうして話を詰めていき幕閣に案を提出するのであった。



江戸城本丸御殿 御用部屋


「これは…加賀守殿!」

 

  柳沢保明から提出された案を読んだ阿部豊後守が書類から顔を上げて大久保加賀守を見る。


「御犬小屋に収める犬を選別するために犬別改帳を作り鑑札を持たせる。これならば町々で飼っている犬たちとの区別も容易になるか、よく考えた物よ、更に狂犬病の犬も分けて小屋に入れよとは」


戸田越前守の声にも感嘆の響きがあった。


「そしてこの建言があの御庭番頭からだとは、先日の茶会でもあの気難しい水戸の光圀公が手放しで誉めており、上様も大層なご満悦であった。認めねばなるまい。かの者の才は初代にも匹敵し、初代が待っていた者であると」


大久保加賀守のこの言葉を本人が聞いたら「それは誤解です!」と言ったであろうが彼らにはその言葉は届かないのであった。


 こうして御犬小屋の事業は開始される。小屋を普請するのは美作国の森家と讃岐国の京極家に命じられることとなった。同時に獣医が集められ、獣医の養成所も開かれることとなった。獣医達は野犬の避妊手術を確立することが命じられ獣医医学所も併設されることとなった。




輪句珍(ワクチン)ですか」


「種痘もその一例と{華の一族}の本に書いてあり狂犬病の物も作れると書いてあったが。残念なことに製法までは書いていなかったんだよなあ」


「それは、惜しいことですな」


 忠相と獣医医学所の件で話しているが華の一族、やはりとんでもない連中だ。すでにワクチンの事までたどり着いている。製法が書いてなかったがあの本はどうも一族の物がまず医学に触れる為の入門書ではないかと言うのが荻生惣右衛門と議論した結果である。どうもその先は直接師匠から教えられ技を見て覚えるので教本が無いのかも知れない。受胎術とか腕下秘録等は一族以外に啓蒙するための物だったんだろう。


 ワクチン製法書とか残しておいてくれれば良かったのに。これは全部曹操が悪いということにしておこう。どうせ三国志演義ではボロカスだしなあ。


「医学所の方で輸入された馬から種痘の方は進めており、効果が認められ量産を進めております。又予防のための接種も治験が進められており上様たちへの接種もいずれ行うものとなっております。狂犬病の輪句珍(ワクチン)の研究もこれから進めていくようにしなくては」


 忠相の言う通りこれからは他の病気にも手を付ける必要がある。忙しくなるな。


「狂犬病に関しては元の犬への接種が大事だ。犬別帳や鑑札はその為に進めているのだからな」


 これで狂犬病が根絶されればいいんだが諸大名たちの領地でも同じ政策を進めさせねばならないな。




現在感想返し等は出来かねますのでご容赦ください。


この作品に登場する人物は全て創作によるものですので、現実の歴史、史実について関係はございません。

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― 新着の感想 ―
これはまた加増されて大名になったりして 旗本でも9000石近くになってニート生活遥かなりとなるか、鰻も自分で獲って調理も懐かしくなっているな でも次の子供が出来てもお金には困らないな
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