弐拾伍話 御老公と御犬小屋騒動 前
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高家問題は柳沢殿と忠相のお陰で高家を増やすことが決定した。さらに実際に儀礼に関わる役職を持った{奥高家}を増やすのも決定された。高家でも役職を持ってないのは{表高家}と呼ばれてるそうだ。知らんかったよ。
まあ名家だからと言って典礼とかに詳しい者ばかりではないだろうしな。公家から儀礼に詳しい者を旗本に取り立てる話もとんとん拍子に進んでいる。あちらでは仕事先が増えたんで大歓迎しているらしい。また儀礼指南役という職を作り旗本に教えるという事も始めるようだ。儀礼関係で出世したい旗本とやはり指南役に付いて収入を得たい公家の両方から歓迎された。こちらは京都所司代に併設された指南所にて教えることになる。
「うむうむ、貴殿にも尊王の志があるようで良きかな良きかな」
「はぁ…」
それはいいけどなぜうちの屋敷に水戸の御老公が来ているんでしょうかね?
「先日の茶会で上様が物凄くご機嫌での、勅使饗応役の不手際が無くなる様になるであろう施策が其方の建言によるものであると教えてくれたのよ」
「あれは柳沢殿と忠相の働きによるものでして某は一寸問題を指摘しただけですぞ」
「何言っとる、大名たちに金を出させる算段と高家を増やす策を考えたんじゃろ、それだけで大手柄じゃ。京の公家たちも喜んでいると聞く、主上にも伝わり喜ばれたと話が伝わって来たぞ」
まじか、相当な大事になってるじゃないか。
「同席しておった老中共が顔を青くしておったわ痛快痛快!」
あ、これやばい奴だ胃が痛くなってきた。
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「儂もな、新しく歴史書を作るにあたって尊王を本筋に置いた物にしようと思っておる」
判ります、大日本史ですね、足利尊氏大悪人待ったなしです。
「じゃが、少し困ったことがある。南朝と北朝の問題じゃ、元は大覚寺統と持明院統の両統迭立からの後醍醐帝の倒幕、そこからの足利尊氏との対立からの南北朝分裂じゃ。しかしどちらかを正統とするのは難しいものがある。学者たちの意見では三種の神器を所持していた方が正統じゃというのだが北朝の帝が即位の時には所持しておりその後南朝に奪われたという事例があるためこの場合はどうするというのかと今の帝は北朝の末であり仮に南朝方が正統とした場合うけいれるで在ろうかという懸念じゃ」
確かにな、今の帝達からすればお宅のご先祖は正統でないですよと言われたも同然だからな。今は神器は揃ってるから正統でもくるものがありそうだ。
「宰相様がお悩みになるのは判ります。ですがいかに史書とは言え帝の正統性を決するのは臣下として如何なものでございましょうか?全くの縁も所縁もない者を帝に祭り上げたのならいざ知らず、どちらも持明院統と大覚寺統の正統な御方です。さらに足利尊氏が独断で祭り上げた訳でなく持明院統の御方達が正統と唱えて立たれたのであれば尚更でしょう」
「うむ、そうだのう、我らが帝の正統性に口を挟むのは臣下として傲慢と言う物、であるならばどちらも正統とした方が良いのかな?判らぬ、これは碩学の者たちを集めて議論せねばなるまいて」
いけね、ついうっかり現代的な両論併記を口走ってしまった。これで光圀がその路線で行ったら水戸学自体が変わってしまいそうだ。
「これは良いことを聞いた!直ちに助さん覚さんに学者を集めさせなくては!済まぬが急ぐのでな、挨拶は無用じゃ」
「あ、あのー」 声を掛ける間もなく御老公は帰ってしまった。これで歴史が変わってしまったらどうしよう。
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大日本史は水戸藩主徳川光圀によって編纂が始まった歴史書である。神武天皇から後小松天皇までの帝の治世を扱っている。特色としては同時期に幕府によって編纂された本朝通鑑が北朝を正統として南朝方を賊徒としているのに対し南朝方にも一定の理があり一方的な反乱ではないと取っているのが違いである。南朝方として戦った楠木正成を忠臣として取り上げているのに対し足利尊氏を節操のない人物としているもその柔軟な姿勢が後の南北朝合一に繋がったと一定の評価をしているのが特徴である。南北どちらが正統かで水戸藩内では議論が続き大日本史の編纂にも影響が出ている。水戸藩の一大事業として始められ完成したのは約250年後の事であった。
茨城県歴史文化センター刊 光圀と大日本史より
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「…殿、源三殿!」
光圀公が嵐のように去った後どうやら呆然としていたらしい、傍で呼ぶ声で我に返った。
「忠相…」
そこに柳沢殿の屋敷の帰りと思われる大岡忠相がいた。
「どうしたのです?顔色が悪いようですが」
「ああ、それはな」
先ほどの御老公との話をすると忠相は溜息をついて首を振った。
「源三殿は既に上様の寵愛厚い側近ですぞ、迂闊な発言をすれば下手をすれば幕政にも影響が出かねませぬ。
気を付けていただかなくては」
やはり側近扱いなのか、楽しい小普請生活が懐かしい。
「それより柳沢殿より明日屋敷に来て欲しいと伝えがあります。なんでも御犬小屋のお話とか」
御犬小屋?なんか不吉な予感しかしないんですが。
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この作品に登場する人物は全て創作によるものですので、現実の歴史、史実について関係はございません。




