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とんとんと、気が早いことにもう歩き始めている彼の左腕をタップして歩みを止めさせる。
さすがに挨拶もなくこの場をさがるわけにもいかないと振り返ると、妹たちも私のすぐ横についた。
まぁね。気持ちは、そうね、私も。
久しぶりのこの子たちを止める気なんてないわ。
「………………こちらへ落ちてきた直後の私が、わきまえもせずに申し訳ありません。つい、色々と気が急いていたようです。お湯については図々しくもご厚情にすがらせていただきます。……美菜? 明菜?」
「ね、姉さんの声が、懐かしいの。涙、止まんないよう……。あのね、姉さん」
「一緒にお風呂入っていい? いっぱい、いっぱい聞いてほしいことがあるの」
「…………かわいいお馬鹿さんたち。私もね、すごーく、会いたかったわ。お風呂場に案内してくれる?」
「「うん!!」」
ねぇ、もう泣いてもいいかしら。ずっと、ずーーっと気が狂いそうだったの。
心配して。この子たちが、お腹が空かしてないか泣いてやしないか笑えてるか。
馬鹿みたいに、眠ることなんて出来もしなくて。
笑うか泣くか迷ってるうちに、表情は両方を選んだみたいだった。長兄だって紹介された彼が、さっきとは逆に私の腕をタップしてから歩き出す。無口だけど、親切な人なのかも。
マナーができてるのか。
私は彼を見ることなく妹たちを体にまとわりつかせて、彼女たちの旦那様に頭を下げる。
すごく驚いてる理由は、後にしましょう。護衛の彼が勝手に持ち場を離れることに、かしら。
あら、でも武僧の二位って実力はあるのかしらね? だから少しくらい離れても大丈夫?
その疑問は、引くくらいに広い個人宅湯船の中で妹たちから教えてもらった。
「あら、そうなの? 本当に?」
「もちろん! 私の旦那さまったら、ポカンってなるレベルで強いの」
「ちゅうねぇの旦那さまはね、だいねぇさん。実力で二位なんですって。それでも、だいねぇさんを案内してくれた、一番上の兄さまよりは弱いらしいんだけど」
「……ふぅん?」
三人そろってお湯に浸かれる日が、また来るなんて。私は幸せの絶頂にいるまま、ふわふわと妹たちの話を聞く。この子たちが照れながら『旦那さま』って言うのがかわいい。
色艶と肌艶もいい。笑ってる。笑いあえてる。
あああ、なんて幸せ。
「一兄さまは女嫌いなの。だから、神殿へ。すごく物静かな方よ?」
「兄上様は、おかあさまの立場のせいで跡目争いから降ろされたのだって伺ってる。本人も、強く望んだんですって。神殿入りを」
「それで、もともと神殿に入る予定だった一兄さまが」
「待って待って、お願い」
さらさらと零れる言葉たちを捕まえていられなくなって、私は妹たちの会話を遮る。もう、あっちもこっちも三姉妹なんだし、ここの制度もわかんないしで、ちょっとキャパシティーオーバーだわ。
「頭を洗いたいの。それから、ゆっくりと手と足を延ばしたい。悪いけど、そうね、すこーしだけ静かにしてくれるかしら」
「……はい」
「はーい」
ぽかんと口を開けたあと、泣き笑いの顔で妹たちはそれぞれの返事をしてくる。変わんない、だとか、そうそうこんな人だったって溜息で涙をごまかしながら三人して本当に久しぶりにお風呂を愉しんで。
そうして、ようやく私は詳しい事情を聞ける心境に落ち着いた。