横川は横川……
「ラジオの裏側で」の横川が、西條と会う前のお話
「優斗さんって、今、特定の誰か、いないんですか?」
目がくりっとして、笑顔のかわいらしい子が声をかけてきた。
自分のかわいさを自覚して、それを武器にしてる人間特有の作られた完璧さ。
若干、ウンザリはしたが、まぁ、完全に拒否するような程でもない。
とりあえず話を合わせておくか。
「……特には」
手に持ったグラスを傾け、相手をさらに観察する。
「え?じゃあ、俺、立候補してもいいですか?」
少しずつ近づく距離に、まぁ、とりあえず付き合ってみてもいいか……と頭の中で考えがまとまった。
「別にいいけど」
「やった〜」
ギュッと抱きしめられ、溜息が漏れた。
さて、今回はどこまで持つか…。
あれから、何回か会ってセックスするだけの関係が続いたけど……。
そろそろ仕掛けてもいい頃合いかもな。
バーの扉を開け、カウンターに座ると、向こうが気付いたみたいだ。
「優斗さん、こんばんは。今日も会えて嬉しい」
隣に座って、身体を寄せてくる。
軽く頭を撫でてあげると、肩に頭を預けてきた。
「他の男と話すの、楽しい?」
耳元で囁くようにすると、ビクッと身体を震わせ、こっちを見つめてきた。
その顔は嬉しそうに笑っている。
おおかた、俺が嫉妬でもしてると思ってるんだろうな。
なんか、急にかわいく見えてくる。
「優斗さんが一番。でも、優斗さんが気にするなら、他の人とは話さないから心配しないで」
ギュッと腕に抱きついてこっちを見つめてくるから、軽くて触れるだけのキスをした。
それだけで、蕩けたような笑顔になるのが楽しくてしょうがない。
そろそろ……か。
「じゃあ、今言った事、約束……できるよね?」
相手が喜ぶだろう、優しい笑顔で話しかけると、案の定、「うん」と頷いてくる。
軽く抱きしめて、さっきより少しだけ深いキスをした。
「約束……忘れちゃったみたいだね」
口元に少し笑みを浮かべ、横を向くと、ニコッと笑ってる顔が目に入ってきた。
「ちゃんと……約束守ってるよ?」
「……そうか」
バレてないと思ってるのがかわいい。
さて、どうしようか。
そう思案してると、隣からギュッと抱きつかれ、口を尖らせ、眉間に皺を寄せている顔が。
「そういう嘘を言う人って、俺に優斗さんを取られたって思ってる人なんじゃないかな?」
ほんと、なんでそんなことするかな。とかぶつぶつ言ってるが。
色んなところから情報は入ってくる。
それに、こう言う人間は相手が一人ってことはないしな。
「昨日、あそこにいる人と……キスをするような距離だったよね」
「……」
一瞬、仮面が剥がれた。
ビックリした顔をして、眉間に皺がよったけど……もう、今は目を潤ませてこっちを見てくる。
「しょうがない。今回は許してあげようかな」
わざとらしく溜息をついた。
騙されたふりも疲れるな。
上手くいったと思ったのか、ギュッと抱きついてきた。
多分、顔を見られないようにってことだろう。
「そのかわり、一つだけして欲しいな。
スマホ、出して。
……俺以外、必要ない……よね」
耳元に顔を寄せ、甘い声で囁く。
そんなに長くもない沈黙の後、スマホをカウンターの上に出し、連絡先の一覧をタップするのを感情のこもらない目で見る。
思ったように動かないようで、何度も操作を間違えてはやり直し…を繰り返してる。
とりあえず今日はこんなところか。
震える手にそっと手を重ね、もう片方の手で頭を撫でる。
おずおずと顔をあげて、こっちを伺うように見つめる瞳が揺れてる。
その感じ、たまらなくそそられる。
目を合わせると、途端に恥ずかしそうに、それでいてどこか嬉しそうに顔を逸らした。
落ちてきた……。
心の中でニヤッと笑う。
「今日はもういいよ。一人で帰れる?」
コクンと頷くのを見て、抱きしめてキスをする。
目がトロンとしてるのを見て、笑いを必死に隠す。
「じゃあ、またね」
手を振って、出ていく背中を見送った。
今回は…どれだけ持つかな。
横川って「花」に例えると何だろう?ってなって思いついたお話です。
「グロリオサ」でした。




