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銀の伝承  作者: 銀の伝承
第八章「神域決戦編」
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第168話「限界の先」

(もう一度、全力を叩き込む……!!)


ガウレムがアイゼンヘイムと融合する前の状態で、お互いにせめぎ合った全力の技。辛うじてブリシンガーが打ち勝った時の技。

グランド・ラグナヴェイン。


今の状態でガウレムに有効打を与えるとすれば、この技しかない。いや、この技ですら、今の彼に対して有効な一撃であるという保証はどこにもない。


だが、やるしかない。


怒号とともに、ブリシンガーが光速を遥かに超えたダッシュで拳を放つ。ガウレムが防御の構えを取るよりも早く、彼の胸部へ直撃。

ガウレムの巨体が、地球圏から放たれるようにして吹き飛んだ。


衝撃波は月を破壊した。そのまま、彼の身体は光の尾を引いて、遥か木星圏へと飛ばされた。


コンマ数億秒。

宇宙空間・木星の衛星軌道上。


彼の到着した場所を地球から目視で視認したその瞬間、ブリシンガーも跳躍する。

瞬間移動と全く変わらない速度で、木星を背にしたガウレムの目前に迫り、彼は剣を真横に構えていた。


「うおおおおおおおおお!!!」


彼は真横に剣を薙ぐ。

剣が唸る。宇宙を眩い光で照らす光がガウレムの全身を包み込む。


光の一閃は、その光が木星を横薙ぎに貫いた。

木星と、その後ろにある土星までもが、真っ二つに両断された。

揺れるように傾いた二つの球体が、遅れて崩壊し、巨大なガスの竜巻が宇宙に流れ出す。破壊された惑星の残骸が、宇宙を染める紅い滝となって舞い上がった。


だがその閃光の中から、ガウレムが再び姿を表した。

ブリシンガーの斬撃を片手で受け止めたのだった。彼の背後の斬撃はその余韻でしかなかった。


左腕から出血していただけだった。しかしその双眸には、余裕の笑みが浮かんでいた。


「見事だ……ブリシンガー」

「だが……その程度では、我には届かぬ」


息をつく間もなく、ガウレムの巨大な尾がブリシンガーに叩きつけられる。


「―ッぐッ!」

その一撃で、ブリシンガーの身体が再び宇宙を突き抜け、地球へと弾き返される。


前回の戦いで地球を突き抜けたブリシンガーが、もう一度地球を貫通し、その後ろにある金星にまで到達し、その表面に叩きつけられる。


灼熱の嵐が吹き荒れる金星の大地に、ブリシンガーは倒れていた。超高温の地表を、彼の背中が深々とえぐるように滑っていき、やがて力なく横たわる。


彼の剣は遥か後方に投げ出され、金色の光もほとんど消えかけていた。

焼け焦げた外套。身体中からは赤い血が流れ、地表に染み込み、気化していく。


「はっ……はっ……」

彼の呼吸は荒く、言葉も出ない。

酸素など存在しないはずのこの地に、それでも微かに残る生命の意志だけが、彼をこの場所に留めていた。


視界が揺れる。

空は鉛色の雲に覆われ、降り注ぐ光はなく、ただ遠く宇宙の彼方で、崩壊した木星の赤い破片が、滝のように舞っていた。


「……これほど……の一撃を……入れても、か……」


拳が震える。

彼は全てを込めた。焼き尽くす超越の斬撃。それでも届かなかった。


「……これが、俺の限界か……」

分かってはいた。


呟きはかすれ、やがて虚空に消えた。彼の脳裏に、仲間たちの顔が浮かぶ。

システィーン、バルダー、ドゥガル、ゼルグ、カリス。そして、今なお希望を抱いて避難空間で待つ人々。


彼らを救いたい。未来を残したい。その一心でここまで来た。

「このままでは……奴には……勝てない」

彼はゆっくりと、拳を握りしめた。


彼の体内深くから、欠片が彼を呼んでいる気がした。創造神ハルディヴァーから与えられた 神の欠片。


(……使えば、俺はもう……俺ではいられなくなる)


具体的に、何が起こるかは彼でもわからない。だが、使えば、どうなるかは何となく分かってはいた。

触れれば、全てが変わってしまう。


だが。

「今……この命で守れぬなら」


彼は、ゆっくりと立ち上がる。よろめきながらも、地を踏みしめる。


「人であることに、しがみついている場合ではないな」


その言葉が空に溶ける。

金星の焦げた地表を、重く、鈍く、破壊の気配が走る。異空間を引き裂くようにして、ガウレムが姿を現した。


「……まだ立つか、ブリシンガー」


黒と紅の瘴気が揺れる中、彼は一歩、また一歩と踏み出してくる。存在するだけで、その力の重みに耐えきれずに惑星が徐々に崩壊し始める。


だが彼の歩みが、ふと止まった。


「……ほう?」


金星の空が、微かに揺れた。

そこに立つブリシンガーから、明らかに別種の気配が立ち昇っていた。


光でも炎でもない。

それは、遥かに古く、深く、純粋な光。


「貴様……まだ何かを隠しているな」

ガウレムの眉が、初めて僅かに動いた。


彼の戦慄が、ほんの一瞬だけ滲む。それは、理解を超えた力への本能的な反応。


彼の身体は、まるで神話の中心に立つような威光を放ち、胸の奥から何か”ゆっくりと、確かに開いていく。


「俺は……人として、この世界を救おうとした」

「だが、それでは……届かないらしい」


その瞳に、かつてない決意が宿る。


「だから俺は、自分の存在そのものを賭ける」


天が、音もなく割れる。彼の背後に現れたのは、六つの光輪と、無数の細光。


「これが……俺の中に残された、創造神ハルディヴァーの欠片」

「神が俺に与えた、最後の鍵だ」


ブリシンガーの背に、六枚の光翼が広がる。

その気配を前にして、世界が沈黙する。

空間が膝を折り、大気が敬意のようにその周囲を循環する。


そんな中。

「……フッ」

不意に、ガウレムが嗤った。その笑みは、恐れではない。

敗北を認めるものでもない。


「そうだ。そうでなくてはつまらん」


その声は、まるで概念の外の者そのものが唸るように響く。絶対の支配者がまるで歓喜すら滲ませながら、言葉を紡ぐ。


「英雄よ、創られし者よ。……ブリシンガー」

「貴様が本気でこの命を賭けたとき、何を見せてくれるのか、興味が尽きん」


その巨体をわずかに前に傾ける。

「その覚悟、見せてみろ」

「この私に……ありとあらゆる理全てを超えたそのものに、貴様が挑むその意味を!」


星々が震える。ブリシンガーの光が、天を焼く。

戦いの神話の新たなるページが、静かに開かれた。

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