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手綱と絆 ~追放された元公爵令嬢は気性難  作者: 甲斐 雫
第3章 ポタジェ村

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22/26

4 アリスヴェルチェ・フォーゲル女公爵

 丘の陰の家へ戻ったイレーネとウィンは、以前と同じ生活を再開した。

 ポタジェの村人たちは、そんな2人を暖かく迎え、穏やかな日々が続く。そんな中、ある日領主館から使いが来た。


 領主であるアーネストからの手紙には、姉が来たので館へ来て欲しいと書かれている。

 イレーネは、ウィンと頷き合って、返事をしたためた。



 翌日、イレーネとウィンは、領主館を訪問した。

 応接間に通されると、そこには肘掛け椅子に座るアーネストと傍らに寄り添って立つエディスが居て、二人掛けのソファーには一組の男女が座っている。

「よくいらっしゃました」

 早速アーネストが、気さくに声を掛けると、座っていた男女が立ち上がる。


 けれど、立ち上がってイレーネたちを見た男性が、ハッと表情を引き締めた。


 ウィンはそれに気づかず、挨拶の言葉を述べる。

「お招きに預り、参上いたしました。ウィン・カーネリアンでございます」

 騎士の礼をもって頭を下げたウィンだが、イレーネは固まってしまっていた。


 そして女性の方も立ち上がって、イレーネを見るが、軽く首を傾げている。

 実用的な服装ではあるが、気品は隠しようがない。


「・・・イレーネ・アルアイン嬢ではありませんか?」

 男性の方が、口を開いた。

 そこで思い出したのか、女性の方も呟く。

「・・・イレーネさん?・・・だとしたら、以前冬の園遊会でお会いしたのが最後だった、と思うのですが」

「私の方は、公爵の謀反前に、数回会ったことがあるな」


 女性は、アリスヴェルチェ・フォーゲル女公爵。

 男性は、ジーク・フォーゲル公で、王弟だ。


 イレーネは、覚悟を決めて口を開いた。

「イレーネ・カーネリアンと名乗っております。以前は仰る通り、アルアインの姓でしたが、今はそれを捨てて生きております」

 淑女の礼を取って深く頭を下げたイレーネは、僅かに目を伏せて言葉を続ける。


「先ずは、アリスヴェルチェ様。私は昔、貴女に対して酷い行いをしていました」

 それを聞いて、ウィンは驚く。

(なんだ、そりゃ・・・聞いてないぞ)

 ウィンの視線にも気づかず、イレーネは誠心誠意、言葉を紡いだ。


「貴方だけではありません。人を見下し、嘲笑って、危害を加えるような振る舞いもありました。謝ったからと言って、許されるようなものでは無いことも解っています。けれど私は、過去の自分を無かった事にしたくはありません。けじめとして、もしお会いできる時があったなら、心から謝ろうと決めていました」

 そこまで言って、イレーネは膝を突き、床に額が付くほど深く頭を下げた。


「本当に、ごめんなさい。お詫びの気持ちとして、私に出来ることなら何でも致します」

 許して欲しいなどとは、言えない。


 そんなイレーネに、アリスヴェルチェは暫くの間考え込んでいたが、やがて徐に口を開いた。

「・・・確かにあの頃は、腹も立ったけど・・・実は、今そう言われるまで、すっかり忘れていました。冬の園遊会の時の事も、それ以前の嫌がらせも全部。忘れてしまうくらい、それからの出来事が多すぎて、大きすぎて・・・要するに、忙しかったのです]

 アリスヴェルチェの口元には、微かな笑みが浮かんでいた。


「だから、貴女がけじめとして謝るのなら、それで終わりという事で良いのではないかしら?貴女か過去を捨てて、イレーネ・カーネリアンとして生きているのなら、私はそれを応援したいとも思う。私だって、没落貴族令嬢だったこともあるのだし」

 そしてアリスヴェルチェは、傍らの夫を優しい瞳で見ながら告げた。

「でも、どんな時でも私を支えて助けてくれた、愛する人がいたから、乗り越えてこれた。そして今、ツラかった事をただの思い出として話すことが出来るくらい、幸せだから」


 ジークは、そんな妻の肩に、そっと手を置いて微笑む。


 イレーネは、肩の荷が下りたような気分と共に、この美しく凛々しい女公爵を、尊敬の念を持って見つめるのだった。



 ところが、それではお茶でも、とイレーネ達も腰を下ろしたところで、館に緊急連絡が入った。

 北の畑に、アカガシラが2頭現れた、というものだ。

 アカガシラとは、大型の魔物で、見た目は熊に似ている。真っ赤な冠毛があり、大きな牙と爪を持っているため、危険度の高い魔物だ。雑食性だが、通常はもっと山奥で生活している。


 イレーネとウィンは、暇乞いもそこそこに、急いで現場に向かった。



 現場の畑に到着した時は、アカガシラ2頭は既に作物を食べ終えたようだった。畑の外に出た2頭を確認し、イレーネとウィンは風下へ移動する。

「先ずは1頭を足止めするわ。後ろにいる小さいほうで良いわよね?」

「おう、俺は大きいほうに向かう」


 イレーネはノイに乗ったまま、短く呪文を唱えた。

 ボゴッ! ガァッ!

 大きな音と共に、落とし穴が形成され、そこに落ちた小さいほうのアカガシラが驚いて吠える。

 前を歩いていた大きいほうのアカガシラは、直ぐに振り返るが、そこにリバティに乗ったウィンが立ちはだかった。


 ゴァァーーーッ!

 アカガシラは、後ろ足で立ち上がり、威嚇の咆哮を上げる。

 そこに、ノイに乗ったイレーネが後方から駆け寄り、杖を掲げて火球を飛ばした。


 怒り狂うように暴れる大きなアカガシラに対峙して、攻撃を繰り返すウィンとイレーネだが、穴に落ちた方のアカガシラも鋭い爪を使って出て来ようとしている。


 もう一度、穴を深くしようかとイレーネが思った時、蹄の音が聞こえた。

「こっちは、任せて!」

 白馬に乗り、装備を整えて駆け付けた女騎士(リッテリン)アリスヴェルチェだった。


 弓をつがえたアリスヴェルチェは、穴から顔を出したアカガシラの片目を射抜く。

 悲鳴を上げて仰け反り、穴のなかで仰向けになった魔物の真上に、白馬は軽々と飛んだ。アリスヴェルチェの付与魔法、重力軽減を得た彼女の愛馬グラーネは、慣れた動作で宙に舞う。

 アカガシラは、藻掻くように何とかうつ伏せの状態に態勢をを変えた。


「・・・ハッ!」

 アリスヴェルチェは、グラーネから跳び下り、愛用のレイピアを逆手に持つ。自ら掛けたストレングスの魔法で、刃はアカガシラの後頭部に深々とめり込んだ。


 あっさりと小さいほうのアカガシラを倒したアリスヴェルチェが、ふわりと地に降り立った時、イレーネ達も討伐を終えていた。



「ありがとうございました。助かりました」

 ウィンが相手の息の根を止めた大剣を納刀して、アリスヴェルチェに礼儀正しく頭を下げる。

「どういたしまして・・・それより、イレーネさんの愛馬は・・・」

 駆け寄ってきたイレーネを見て、アリスヴェルチェが呟く。


「ダークペガサス、だな。私も初めて見るが・・・王国にはいない筈だしね」

 そこに、ジークが声を掛けた。

 妻であるアリスヴェルチェと一緒に来たのだが、少し離れた場所で全体の様子を見ていたのである。


「あっ・・・は、はい」

 イレーネは、しまったと言う顔になるが、直ぐに素直に答えた。ノイも、慌てて翼を仕舞うが、後の祭りだろう。

「ダークペガサスの、ノイシュヴァルツと言います。私の愛馬であり、相棒です」

 こうなったら、全てを説明しないといけないのかもしれない。

 イレーネが覚悟を決めようとしていると、ウィンが話題を変えようとして口を挟む。


「そう言えば、あのアカガシラ2頭は、番のようでしたが・・・妙ですね」

 するとジークの方が、その言葉に応じた。

「ああ、雄と雌だな。小さいほうが雌だ。雄のほうが体が大きくて、頭の赤い冠毛が逆立っている。だが番なら・・・」

 ジークは王弟だが、生物学者でもある。魔物に関する知識も豊富だ。

「アカガシラは単独生活をする魔物だが、繁殖期になると番になった2頭で生活するようになる。高山に巣穴を作って、子供が育つまで一緒に暮らすんだ。人里に降りて来ることは無い」

 ウィンは、頷きながら言葉を続けた。

「そんなアカガシラが、何故2頭で村の畑に来たのか・・・」


 そんなウィンに、ジークは淡々と答えた。

「それについては、現在調査中なんだが、ある程度の予想は立っている。ただ・・・それをどこまで伝えて良いか・・・」


 何やら、不穏そうな気配がする。

 そんな話を一区切りさせるつもりで、アリスヴェルチェはにこやかに告げた。


「とりあえず、館に帰りましょう?イレーネさんの話も聞きたいし。ダークペガサスのこともそうだけど、貴女のことも知りたいわ。イレーネさん、攻撃魔法の使い手よね?それについても、教えてくれると嬉しいわ」


 漸く駆けつけて来た村人たちに後を任せ、4人は領主館へ戻った。



 応接室で向かい合い、お茶で喉を潤しながら、長い話が始まった。


「・・・さて、先ずはイレーネさんの攻撃魔法だけど、どうやって習得したの? 実は私も、以前に一度だけ、火の魔法を飛ばしたことがあるの。どうやったのか、後になっても全く解らないけど、小さな火球を飛ばしたのは事実。だから、貴女がそういった攻撃魔法を使えるのが素直に凄いと思う」


 そう、アリスヴェルチェは以前、小さな火球で男の股間を焼いたことがあった。

 けれど、出来たのはその時だけで、それ以後は一度も出来ずにいる。


 苦笑を浮かべた後、アリスヴェルチェは穏やかな笑みを浮かべた。イレーネは、小さく深呼吸をしてから、居住まいを糺して話し始めた。


「・・・私は、父の謀反についての詳細は、全く知りませんでした。そして身柄を預けられたゲレイロ村のターキン子爵の元から、逃げ出しました。運良く捕まらずに旅をして、私は人外の方々と知り合ったのです。その方たちは、可能な限り人との接触を避けて、ひっそりと暮らしています。彼らについては、申し訳ありませんが、許可を貰わないと詳しくは話せません」

 エルオリーセとアルバ、そしてオリビエについては、勝手に話すわけにはいかないだろうと思う。

 アリスヴェルチェとジークは、穏やかに頷いてくれた。


「彼らと暮らしながら、私は多くの事を学びました。ウィンと出会ったのも、そんな時です。そして私たちは、その人外の方々と一緒に、スティンガー山脈を越えて、遥か先にある魔王国に行きました。私の攻撃魔法は、魔王国の前魔王陛下から教えていただいたものです。ダークペガサスのノイシュヴァルツと、出会ったのもその時です」


 掻い摘んで話したイレーネに、先ずはジークが言う。

「成程・・・魔王国が実在していたとはな。古い文献にはあったが、何しろ人が行かれるような場所では無かったようで、王国ではお伽噺のようになっているのが実情だ。けれど、ダークペガサスを見れば解る。イレーネさんの言う事は、本当なのだとな。それにしても、ダークペガサスが翼を収納出来るとは知らなかった。文献にも、そんな記述は無かったし」

「ノイは、ちょっと特別なんです」

 イレーネは、微笑んで答えた。

「ふむ、色々と興味深いな。機会を設けて、教えて貰えないだろうか。魔王国の魔物や、動植物について、記録を残しておきたいんだ。勿論、公に発表などしないと約束する。ただ後世に、それを残すことはきっといつか、誰かの役に立つだろうと思うんだ」

 如何にも学者らしいジークの言葉に、イレーネは嬉しそうに頷いた。


 そこで今度は、アリスヴェルチェが問いかける。

「イレーネさん、貴方はこれから先、どうするつもりでいるの?アルアインの名を捨てていることは解ったけれど、過去を全て捨てたわけでは無いわよね。だって貴女は、過去の事を私に謝ってくれた。無かった事のようせず、ちゃんと向き合っているんだと思うけど」

 イレーネは、ハッと顔を上げた。


「今までずっと、貴女が努力してきたのは、何か目標のようなものがあるのではないかと思う」

 アリスヴェルチェの言葉は、真摯な瞳で真っ直ぐにイレーネに向かっている。


 アルアインの名を捨てたと言うからには、父親の仇を討って家を再興したいとは思っていない筈だ。だからこそ、この没落公爵令嬢の真意を知りたいアリスヴェルチェだ。


「・・・私は・・・」

 イレーネは、目の前にいる女公爵の眼を、真っ直ぐに見つめた。

「最初の頃は、公爵令嬢に返り咲きたいと思っていました。でも今は、ただ自分らしく生きていきたいと思います。その自分らしさとは、負けず嫌いで、やられっぱなしは性に合わないという性格が基本なのです。だから私は、いつかきっと、胸を張って王都に行きたい。それが目標でしょうか」


 反旗を翻すのではない。ただ、自分自身を証明したいのだ。

 静かに、そう言い切るイレーネに、アリスヴェルチェは穏やかに頷いた。


「解りました。でも、それならば、イレーネさんは過去をしっかりと知る必要があると思います。先ほどのお話の中で、アルアイン公爵の謀反については、詳しく知らないという事でしたが、先ずはそれを知ることが大事だと思います。知った上で、王都にどのような形で帰るかを決めるべきではないかと」


 謀反人の娘であるという事は、隠せないだろう。真実を知らないままでいたら、どんな甘言でそそのかされるか解らない。そんな輩も、いるのが現実なのだから。


 イレーネは、確かにその通りだと深く頷いた。

「仰る通りだと思います。アリスヴェルチェ様、私に教えて下さいますでしょうか?」

 そこにジークが口を挟んだ。

「勿論、僕たちも出来るだけ客観的に伝えるが、公的な資料や現場などを見ることも大事だと思う」

 そしてジークは、傍らの愛する妻の方を見て、窺うような視線を投げた。

 女公爵は、ニコリと笑って頷く。

 ジークは言った。

「そこで提案なんだが、私たちと一緒に行動しないか?」


「え?」

「は?」

 イレーネとウィンは、一瞬呆気にとられた。



 ジークは、淡々と説明を始めた。

「これから話すことは、他言無用で頼む。君たちは信頼できると、アリスと相談して、話すと決めた。

 実は、さっきのアカガシラ2頭の出現だが、同じような報告が幾つか出てきている。どうやらそれが、ある事と関係しているのではないかと推測しているんだ」


 ジークはお茶を一口飲み、更に言葉を続けた。

「事の始まりは、およそ1年前。北の山脈の遥か遠い空に、穴が開いたという報告が入った」


「え? 空に穴?」

「穴が開くものなのか?」

 首を捻るイレーネ達だが、ジークは構わず話し続ける。


「その『空の穴』は、1週間ほど存在して急に閉じた。それに関しては、特に被害なども起きなかった。だがその半年後、今度は北の山脈の直ぐ向こう側に、同じような穴が出現した。それも1週間ほどで消えたのだが、それ以来、少しずつ山奥の魔物が人里に降りて来るという現象が起きるようになった。そして半月前、3度目の『空の穴』が出現したんだ」


 何やら、不穏な状況であるらしい。

 イレーネは、微かにゾッとする感覚を味わった。


「とりあえず3度めも、1週間で穴は消えたが、魔物が山を下りて来る頻度が上がった。穴の出現は、順当なら半年後くらいだろうと思うが、もしそうなったら、次は王国の上に来るのではないかと思っている。だから、私とアリスは、王命を賜って調査に回っているところなんだ」


 まだ予測の段階だし、山の魔物の移動くらいしか被害はない。なので、まだ公表はされていない段階だ。

 けれど出来るだけ早く、『空の穴』の正体を突き止めたい。


「今後の予定としては、スティンガー山脈に沿って北上し、マイミス地方にあるレザンと言う町に行く。アルアイン公爵の元領地だ。イレーネさんも、知っているだろう?」

 イレーネは、頷いた。

「はい、子供の頃、何度か行ったことがあります。でも、あまりよく覚えてはいませんが」


「アルアイン公爵の最後は、レザンから更に北に行ったところにある、禁足地にある砦なんだ。私とアリスは、そこで稀有な体験をした。それについては追々話すけれど、君にとっては、その場所へ行くことはアルアイン公爵を知るうえで、とても重要だと思う」


 だから、一緒に来ないかと誘われたのだ。

 イレーネとウィンは、そこで漸く納得した。


「イレーネさんの目標と言うか、生き方を聞いて、一緒に行った方良いと思ったの。私たちにとっても、心強い旅の仲間になれそうだし。どうかしら?一緒に行ってくれますか?」

 アリスヴェルチェの言葉に、イレーネとウィンは、顔を見合わせてから力強く頷いた。


「そうなれば、私のことはアリス、夫のことはジークと呼んで下さいね。一応、身分は隠しているので」

 最後はそうやって締めくくられ、イレーネ達はアリスヴェルチェらと北へ向かうこととなった。



 イレーネは家へ戻ると、直ぐに手紙をしたためる。

 女公爵夫妻と懇意になり、一緒に北へ向かう事を知らせておかなければならない。エルオリーセとアルバ、そしてオリビエについては秘密にしてあるが、何かあったらマイミス地方のレザンと言う町の、郵便局留めで連絡して欲しいという事も書き添えた。


 手紙はすぐさま、ノイに運んでもらう。

 彼が戻るまで、イレーネとウィンは旅の準備をして待った。アリスヴェルチェ達には、先に出発して貰い、後から追いつく予定でいる。


「何だか、妙な展開になってきたなぁ」

 ウィンは、何やら面白そうな顔つきで、イレーネに話しかける。

「そうね・・・でも、私にとっては、いい機会だと思ってるわ。王都に関することや、アルアイン公爵についての事を、詳しく知ることが出来るわけだし」

 既にイレーネは、父親の事を他人のように呼んでいる。

 この先、色々と知ることは多いだろうが、客観的に受け止めることが出来そうだ。


 そしてノイが、城からの返事と共に戻って来た。


『イレーネへ

 北へ向かうとの連絡、ありがとう。こちらは、特に変わったことは無く、平穏に暮らしています。私もすっかり回復していますが、今回は合流しないと決めました。

 私とアルバ、そしてオリビエの事は、今まで通り秘密にしておきたいのです。ですので、女公爵ご夫妻とは、深い関わりを持たない方が良いだろうと、オリビエとも相談して、そう決めました。

 遠くからではありますが、旅の無事を心から祈っています。

 あ、そうそう。スラルヴィオ様から、お手紙が届きました。インプが運んできてくれたのですが、オリビエが何の幽霊なのか、についての件が書いてありました。でもまだ、はっきりとは解らないみたいです。資料不足みたいですね。イレーネの事も、たくさん書いてありましたよ。孫を心配するお爺ちゃんみたいです。

 では、また時間が出来たら、旅の報告も兼ねて、会って話したいと思います。

 それを楽しみに、今日はこの辺で。    エルオリーセ』


 顔を寄せ合って、エルオリーセの手紙を読むイレーネとウィン。

 そして読み終わると、2人は穏やかに微笑みあった。


「イイもんだな。友人から手紙が届くっつうのは」

「そうね、離れていても解っていてくれる相手がいるのは、嬉しいし心が温かくなる」

「一緒にいて、解ってくれる相手は?」

 ウィンは、悪戯っぽい顔つきで聞いてくる。

 イレーネは、軽く返そうかとしたが、ふと真面目な顔になって聞き返した。


「ウィン・・・以前、私に・・・惚れてるって言ってくれたでしょ?それって・・・今も変わらない?」

 今までずっと、あの時の言葉については、何も言わずにいたイレーネだ。

 ウィンは、少しばかり驚くが、素直に答えた。

「変わらないな。何で、そんな事を聞くんだ?」

「だって・・・変わってゆくでしょ、私。それも含めて、私自身だって言ってくれたのは覚えてる。でも・・・やっぱり不安になるのよ」


 イレーネは、頬を赤くして俯いた。

 今ではもう、金褐色に近い色の髪が、その顔を隠す。


「あのな、そういう所も可愛いと思うぜ。何っつうか・・・ホント、飽きないんだよ。変わっていこうがいくまいが、成功しようが失敗しようが、傍にいて見ていて、本当に飽きない。まぁ、恋愛に慣れているお貴族様のように、巧いことは言えないが、これから先もずっと、惚れたままだと思うぜ」


「・・・ありがと」


 そして2人は、確かめ合うようなキスをする。

 甘やかな口づけは、やがて互いの身体を探るような指先の動きを誘った。


 が・・・


 ドガン! バリッ! ガッシャンッ!


 いきなり窓ガラスが割れて、蹄が突き出される。

 それは、こっそりと窓の外から中を窺っていたダークペガサスの仕業だった。


 〈ハイ、そこまで~~~〉

 お目付け役のようでもある彼女の愛馬は、しっかりとヤキモチを焼いているのだった。



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