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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
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中国海軍の出撃

 東海艦隊は中国海軍の三大艦隊のひとつであり、東シナ海の防衛を任務とする。寧波・上海・福州を拠点とし、福州は台湾の目と鼻の先で、台湾海峡を隔てて200キロの距離しかない。

 台湾進攻の中核となりうる艦隊で、30隻の駆逐艦とフリゲート艦、15隻の潜水艦、更に20の揚陸艦で編成されている。

 この事態を受け、東海艦隊は慌ただしく動いた。台湾けん制に10隻、そして尖閣諸島の「しらぬい」に対峙するかのように五隻のミサイル駆逐艦を投入した。

 魚釣島に接岸した測量船二隻は、海保の巡視船に拿捕されている。上陸した活動家は奈良原岳に居座ったまま降りてこない。

 全ては福隆事件で捕らえられた工作員を解放するための、王克印のプランに基づく行動である。中国海軍の台湾への圧力もその布石だった。

 しかし中国側の事情も変わってきた。尖閣諸島に現れた駆逐艦隊の後方から、潜水艦救難が接近している。

 護衛艦「しらぬい」は中国海軍の動きを伺っている。真下には航行不能の潜水艦が潜んだままだ。

「AUVの仕業と気付かれていない・・・大成功だった」

 満足そうな艦長と違い、レーダー員は不安な顔で報告した。

「駆逐艦、領海へ接近してきます」

「潜水艦はいずれ浮上する・・・動けなくなった彼らは我々に救助を求めるか、あの艦隊が我々を押しのけて救助するしかない」

 中国海軍は本国の指示を待っていた。相手は護衛艦1隻だ。実力で排除するのは難しくはないが、戦争を覚悟しなくてはならない。

 魚釣島の山頂には中国国旗がはためき、中国の世論も盛り上がっている。台湾との福隆事件決着の引き換えとはいえ、この国旗を引きずり下ろす必要があるだろうか?

 これは尖閣諸島を奪い取る千載一遇のチャンスではないか?

 台湾で捕らわれた工作員は?それこそ台湾進攻の口実になるのでは・・・

 共産党指導部は、最善の方向を見出そうと思いを巡らせている。実力行使となると、トップ判断が必要の為、容易に結論はだせない。しかし、不測の事態に備えて準備は進めなくてはならない。

 潜水艦は二週間程度、潜っていられる・・・それがタイムリミットだ。


 周浩然と河原が会った出張所の前に一台の乗用車が停まっている。日は落ち、街灯がともっているが、出張所に明かりはない。

「河原はここに入ったのか?」

 運転席の曹上尉は、助手席の女工作員に尋ねた。

「間違いありません。例の名簿のファイルを持って行きました」

「君はここで待たされたわけだ・・・通訳は必要ない相手ということか」

「政府関係者の知り合いと言っていました」

 曹は考え込んだ。共産党の実力者なら、名簿の人物の足取りを追うことも可能だ。中には秘密裏に抹殺された者もいる・・・その調査が目的かもしれない。

「問題は誰と会っていたかだ・・・河原はその男と、日本にいる中村との連絡係にすぎない。共産党の一定の地位にあり、日本語の話せる人物か・・・」

 曹は思い出したように時計を見た。

「会食の約束があって行かなくてはならない。君は・・・」

「河原に夕食を誘われています。途中で降ろして下されば・・・」

「うまく進んでいるようだな。ここまで隙のある男だとは思わなかった・・・逆に利用されていることはないだろうな?」

「それはありません。大変真面目なお人ですが、今は私に夢中のようです。独身だと下手な嘘までついています」

「中村が知ったら大目玉だ。ともかく河原に動きがあったらすぐ知らせろ。近いうちに連中は必ず行動を起こす・・・」


 曹上尉は軍関係者の大物を前に、腰が引ける思いだった。陸軍北京軍区の政治委員に、北海艦隊所属の海軍中将がいる。

 会食をセッティングしたのは陸軍第81集団軍所属の劉師団長だった。曹はクーデター情報提供のことで呼び出されたものと思っていた。

「率直に言う。現在わが軍の潜水艦が魚釣島の領海で事故を起こし、潜航したまま航行不能となった。バラストタンクの噴射で浮上は可能だが、海上に日本の軍艦がいる。この事態を受け、東海艦隊に出撃命令が下り、北海艦隊もまもなく出撃する・・・」

 政治委員がまず口火を切った。彼がこの場を主導する立場と曹は理解した。

 海軍中将がその説明を捕捉した。

「わが北海艦隊の出撃は、日米艦隊の出撃を受けての事です。既に日本の駆逐艦十隻と、米第七艦隊より空母一隻、駆逐艦七隻が台湾方面に向かっています」

 政治委員は続けて言った。

「そして陸軍にも動員命令が下った。台湾進攻作戦に備えてのことだ・・・しかし党は戦争を仕掛けるつもりは全くない。発砲は固く禁じられている」

 その口ぶりに不満がにじみ出ている。曹はこの会合の趣旨が何となく見えてきた。

「ところで曹上尉」

 政治委員は曹に問いただした。

「君はある仮説を立てていると聞いた。この機に乗じてクーデター作戦が進行中であると・・・しかし解せないのは、それを企てた連中が、この事態を予期していたことになるという点だ。まさか君はこの台湾の事態が仕組まれたものだと思っているのかね?」

 曹は面食らった。上司にも話していない彼の考えを何故知っているのか・・・曹はふと劉師団長の顔を見た。彼を見くびっていたようだ・・・政治委員と繋がっていることからみて、ただの軍人ではない・・・

「私は特殊警察部隊の一士官にすぎません。私の考えなど・・・」

 すかさず劉師団長が話に割り込んだ。

「曹上尉は、このクーデターを企てる勢力が日本と繋がっていることをいち早く突き止めました。日本と繋がっている以上、魚釣島で起きていることと無関係ではない・・・そう考えるのが自然です」

 劉は曹の顔を窺い、釈明するように打ち明けた。

「すまないが君の事をいろいろ調べさせてもらった。今のうちに君を我々の側へ引き込んでおきたくてね」

「引き込む?」

 我々の側とは何だ?曹は共産党の派閥争いに巻き込まれるのではと不安を感じた。

 政治委員は苛立った顔で曹を問いつめた。

「君は考えを述べればよい。潜水艦は十日以内に浮上しなくてはならない。それをただ見ているのが最善の策だというのかね?」

 曹は慎重に考えを述べた。

「政治委員が言われた通り、私はこの事態を仕組まれたものだと思っています。私が追っている日本人の中村という男はただ者ではありません。全ては彼の策略です。であれば、潜水艦の事故も偶然ではありません・・・つまり先に攻撃を仕掛けたのは日本側ということになります」


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