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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
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崩れたシナリオ

 中国海軍の駆逐艦隊は、尖閣諸島北西の接続水域に入り、領海線の手前で待機している。

 日本政府は潜水艦の領海侵入に対し、中国政府に抗議した。この段階で中国側は潜水艦の存在すら認めていない。

「しらぬい」のソナー員は、別の方角に微弱な反応を認めた。真下の潜水艦はじっとしたまま動きはない。

 艦長はソナー員に問いただした。

「別の潜水艦か?」

「分かりません。一瞬で反応が消えました」

 艦長は嫌な予感がした。もう一隻の潜水艦がまだ付近をうろついている・・・護衛艦一隻では少々負担だ。

 最も近くにいた海自の護衛艦二隻がこちらに向かってはいる・・・しかし最低五時間は待たなくてはならない。

 艦長は目の前を行き交う海保の巡視船を眺めた。対潜能力ゼロの頼りない連中だが、いないよりはましだ。

 そのうちの一隻、巡視船「あさづき」が「しらぬい」の右舷前方で何かに気付いたように停止した。海上に浮遊物を発見したらしい。

 その異変は、「しらぬい」の艦橋からも確認された。

「艦長、あれを・・・」

 双眼鏡越しに、海面が濁った色で泡立っているのが見えた。潜水艦から排出された可能性が高い。

「潜水艦、浮上しています!」

 ソナー員の報告に、艦長は衝撃を受けた。この段階で浮上して困るのは彼らのはずだ。

 すると潜水艦に何らかのトラブルが起きたのか・・・

「巡視船に伝えろ、潜水艦がまもなく現れる・・・」

 泡立ちは激しくなった。そして水泡に包まれた巨大な物体が、勢いよく海面から飛び出した。その巨体が激しく水しぶきを上げながら、もがくように上下動している。

 緊急浮上した二千トン級の潜水艦が、その姿をさらけ出した。排気口からガスが噴き出ているのが分かる。全開したハッチから黄ばんだ気体が漏れ出ている。次々と這い出る乗組員の慌てようから、有毒ガスから逃れているものと想像できた。

 それは「しらぬい」艦長にとって計算外の出来事だった。潜水艦の浮上は想定されていたが、あまりに早すぎた。

 しかし想定外の事態はこれで終わらなかった。「しらぬい」は右舷前方に「あさづき」と、パニックに至った潜水艦を眺める位置にいる。

 ソナー員は左舷後方から急接近する、今度こそ明確な反応を捕らえた。

「魚雷二本接近中!」

 艦橋に緊張が走った。やはりもう一隻の潜水艦がいた!

「巡視船に伝えろ!」

 距離が近すぎる!「しらぬい」は対魚雷デコイを発射し、タービンの出力いっぱいにして舵を切った。

 魚雷は直進したまま方向を変えない・・・

「魚雷、追尾してきません!」

 魚雷の進行方向には「あさづき」と浮上した潜水艦がいる。

 艦長は目を疑った。魚雷はロックされた目標にまっしぐらに向かっている。

「まさか・・・」

 二本の魚雷は潜水艦の左舷中央部に命中した。水柱とともに大爆発で船体が避けた。全長七十二メートルの潜水艦は艦首を突き上げ、そのまま海中に消えた。

 海面には脱出した十数名の乗組員が浮かんでいる・・・しかし動きはない。爆発でほとんどが息絶えているように見える。

 艦長は我に返ってソナー員に尋ねた。

「奴はどこへ行った?」

 魚雷を放った潜水艦が近くにいるはずだ・・・「あさづき」は生存者の捜索を始めているが、「しらぬい」は対潜警戒を解くわけにはいかない。

「ソナーに反応はありません」

 艦長は考えを整理した。意図的に味方の潜水艦を、六十名の乗員もろとも処分したというのか?中国側がそのような判断を下したとは考えられない・・・では目標を誤ったのか?

 魚雷は「しらぬい」の放ったデコイに惑わされず、真っすぐ潜水艦に向っていた。誘導機能を使わなかったということは、動けない目標を狙った可能性が高い・・・

 レーダー員の報告が混乱に拍車をかけた。

「駆逐艦隊が領海へ入りました。真っすぐこちらに向っています!」

 艦長は、用意されたシナリオが崩れつつあることを認めざるを得なかった。

「潜水艦の沈没を察知したらしい・・・」

 中国海軍の駆逐艦五隻は対艦ミサイルを装備し、「しらぬい」は既にその射程圏内にいる。

「迎撃ミサイルおよび対艦ミサイル発射用意!」

 それは相手の攻撃に備えた予防的措置にすぎない。艦長はつぶやくように言った。

「もはや現場判断の域を超えた。天の声でも聞くか・・・」

 駆逐艦隊が視界に現れるまで、さほど時間はかからなかった。海保の巡視船など、駆逐艦の敵ではない。つまり一対五の戦力比になる。

 巡視船はそんな事態をよそに、お決まりの文言で警告した。

「貴艦は我が国の領海に侵入している。即刻の退去を要求する」

 返事はすぐに返ってきた。

「貴艦は我が国の領海において、我が国の船舶を攻撃した。直ちに武装解除に応じなければ実力を行使する」

 いつもの無線の応酬で済む雰囲気ではない。中国艦隊は、「しらぬい」と巡視船を包囲するように圧迫している。

「貴国の潜水艦は、貴国の潜水艦の雷撃によって沈没した。目下生存者を捜索中である」

 海保は事実を伝えたが、中国側は聞く耳を持たない態度だ。

「繰り返す。直ちに武装解除に応じなければ実力を行使する・・・」


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