表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第二次日中戦争  作者: 畠山健一
4/27

グランドゼロ作戦

 台湾の国民世論は独立派が大多数と言われているが、中台統一派も1割程度はいる。いわゆる「親中派」の人々が一定数存在し、政治的な力をもつことは不思議ではない。

 もしその勢力がある区画へ集まって居住し、そこが海に面した上陸可能な地点であれば、中国は関心を持って、その地を観察するだろう。

 さらにその勢力が、体制に脅威を与える程に拡大した場合、 中国はその親中勢力へ手を差し伸べる誘惑を抑えきれないだろう。その地こそ、念願だった統一への第一歩となる橋頭保なのだ。

 無論、台湾当局がそれを放置するはずはなく、全力を挙げて阻止するだろう。親中派が中国に助けを求めても、今はどうすることもできない。その準備が整っていないからだ。

 中国は台湾を手に入れたい。できれば平和的に・・・台湾の経済力を損なわず、中国に組み入れることができれば言うことはない。第一、ひとつの中国は国際的に認知されているではないか。

 理想のシナリオは、親中派が勢力を拡大し、平和的に台湾全土を掌握することだ。それができれば何の苦労もないが、当分それは望めないだろう。

 次に考えうるシナリオとして、ロシアのクリミア併合方式がある。現状ではいきなり台湾全土の併合は不可能だ。そこで「親中派保護区」を設定し、中国軍が電撃的に、無血で進駐する。

 台湾陸軍は、この保護区をたちまち包囲し、せん滅することができる。そこで中国は、最強の海軍による海上封鎖で対抗する。

 海上輸送路を遮断された台湾は長く持たないだろう。中国との交渉に応じるしかない。中国としては、一部でも軍の駐留を認めさせればそれでよい。

 保護区は、中国本土の窓口となり、共産党に協力的な国民に経済的恩恵を与える。独立派の考えも徐々に変わっていくだろう・・・


 共産党の上層部や情報機関は数年後の統一目標に向け、幾通りもの作戦計画の立案に忙しかった。

 同じような統一のシナリオが、日本でも研究されていた。それは共産党の描く、巨大な中国が台湾を飲み込む姿ではなく、全くその逆だった。

 防衛省と何の関係もない、大学の研究室で「アジア戦略研究室」のメンバーが勢揃いしている。

「これは木村教授の構想をもとに、『グランドゼロ』作戦として具体化された計画書です。グランドは中国の民主同盟軍、ゼロは我が陸・海・空の自衛隊を示す隠語です。本来の『爆心地』の意味とは無関係です」

 竹永一等陸佐は事実上の責任者としての立場を受け入れた。たとえそれが成功しても、その功績が称えられることはない。それは国の指導者たちが手にするだけだ。

 失敗すれば、暴走した国粋主義者として糾弾され、その責めを負うことになる。割に合わない役目だが、作戦遂行の為に、階級を超える権限をもっていた。

 作戦計画第1項は、台湾工作から始まる。木村教授がその内容を補足した。

「残念ながら、台湾の親中派はさほど積極的ではない」

 中村教授はメンバーの中からひとりの男を紹介した。

「そこで、彼に台湾親中派への工作を担当してもらう」

 米内海佐はその「工作員」の顔を見て驚いた。戦略研究に批判的だったあの民間研究員だった。

「彼は中国人で、私の同志のひとりだ。親中統一派の活動家として、台湾で行動を起こす」

 彼は立ち上がって一礼した。

「王克印と申します。先日は失礼な事を言いました、お許しください」

 その言葉は米内海佐に向けられていた。

「構いませんよ。日本語がお上手ですな・・・てっきり日本人かと」

 米内は会釈で応え、中村へ説明を求めるように視線を向けた。

「彼の素性を知ったらもっと驚くだろう。ともかく、この作戦は王の仕事にかかっている」

 台湾工作に関する計画は、ほとんど王自身の手で作成されたものだった。その内容は戦略研究室のメンバーで慎重に討議された。

「台湾に潜伏する、中国の工作員と接触とありますが・・・」

 言いかけた米内に、王はすぐさま反応した。

「この人物を巻き込まなければ、中国海軍が動くことはありません」

「いや、そうではなく、どうやって接触するのか示されていない・・・この中国との交信方法にしても、肝心なところが隠されていませんか?」

 王は中村の顔を伺った。中村教授は軽くうなずいた。

「構わない、説明したまえ」

 王は気が進まなかったが、打ち明けなくてはならなかった。

「その工作員との接触方法も、中国当局との交信手段も分かっています。私自身が中国の工作員だからです」

 米内は耳を疑った。

「冗談ですか?」

「王は日本で諜報活動をする中国の工作員だ。安心したまえ、さっきも言った通り、彼は私の同志だ」

 米内は驚きを通り越し、ただ呆れかえるだけだった。

「つまり二重スパイですか?教授のやり方は私の理解を超えています・・・お任せしますよ」

 中村教授は、計画書にじっと目を通している一等陸佐の顔を伺った。

「竹永陸佐、資金拠出の承認は?」

 顔を上げた竹永陸佐は、我に返ったように答えた。

「活動資金の1億5千万円ですか?台湾元建てで送金します。あなたには『民主同盟軍』工作に桁違いの資金を投じてきました。今更認めない訳ないでしょう。それより・・・」

 竹永は、その場にいる全員に問いかけた。

「いったん事が始まれば、後戻りできません。中国側がどう動こうと、戦いの結果がどうなろうと、中止することはできない・・・宜しいですか?」

 彼は一層の覚悟を求めるように続けた。

「多くの血が流れることになるかもしれない・・・一生後悔することになるかもしません」

 一同の沈黙は、異議なしの意思表示となった。

「・・・それでは第2項に移ります。米内海佐、あなたの出番です」

 米内は立ち上がった。彼の計画は、以前に戦略研究室で示した「限定的勝利」を目指すものではなかった。

「第一撃の機会は・・・相手に譲ることになります。戦いの大義を得る為です」

 米内の示した台湾海域には、僅か1隻の護衛艦が配置されているだけだ。そして海自主力艦隊の航路が示された時、誰もが息をのんだ。

 グランドゼロの歯車は回り始めた・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ