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第二次日中戦争  作者: 畠山健一
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退却命令

「アジア戦略研究室」の広々とした会議室に、僅か三人だけ顔を合わせていた。中村教授、竹永一等陸佐、米内三等海佐は深刻な顔で向き合っている。

 まず、竹永陸佐が口を開いた。

「会うのは控えることになっていましたが、これは想定していない緊急事態です」

 作戦が実行段階に入ってから、立案した彼らの手を離れている。彼らの存在は非公式なもので、機密を保持する上では会うことすらリスクになる。

 海自の作戦を受け持った米内海佐は責任を感じていた。

「このままでは護衛艦は降伏するしかありません。増援の護衛艦が向かってはいますが、中国海軍は方々から現れています。彼らの庭先のようなものですから・・・」

 中村教授は黙ったまま聞いている。竹永陸佐は事態の収拾を最優先に考えていた。

「相手の行動を予測せよとの命令があった。まだ戦争になった訳じゃない。降伏も何もないだろう」

「予測ですか?潜水艦の撃沈など、考えもしませんでした。相手は我々がやったと主張し、攻撃の口実を得たと思っています。戦闘になった場合、戦力比では話になりません」

「米海軍の動きは?」

「彼らは台湾に向っています。中国海軍は台湾を取り囲む勢いで大艦隊を投入しました。これも予想外です」

 弱気になった米内に、竹永は声を荒げた。

「そもそも君の作戦では潜水艦を人質にする前提で立てられていた。『しらぬい』も首尾よくやったはずだ。王克印の台湾工作も思い通りにいった。人民解放軍を引き付ける目的も達せられるだろう・・・しかし尖閣諸島はともかく、台湾まで失いかねない事態だ。一体何が歯車を狂わせた・・・それを解明しない限り我々は巻き返せない」

「ひとつ言えることは、潜水艦の撃沈は共産党指導部の判断ではないということです。彼らも我々が沈めたと信じているかもしれない・・・」

「その根拠は?」

「確証はありませんが、共産党がそれを命じる理由がない・・・それだけのことです。それに潜水艦は我々が対峙している東海艦隊ではなく、北海艦隊の所属です。何か別のルートで指示が下った可能性があります」

「一体誰がそんな命令を下せるんだ」

 それまで黙って聞いていた中村教授が立ち上がった。

「味方の潜水艦を沈めたか・・・相当の覚悟だ。その理由はひとつ・・・我々の作戦が見抜かれたということだ」

「見抜かれた?計画が漏れたということですか?」

 竹永は不服そうに尋ねた。この作戦は厳重に秘匿され、ほんの一握りの者しか知らない。

「我々の側から漏れたとは考えにくい・・・となると中国の工作から漏れたか・・・台湾工作との結びつきを見抜いた奴がいる」

 中村教授は恐ろしく厄介な結論を導き出していた。

「米内君が言った通り、共産党のトップが瞬時にその判断が下せるはずがない。別の勢力が意図したものだ」

「別の勢力?」

 竹永はその意味が理解できなかった。

「共産党も一枚岩ではない。軍部の一部の勢力だと思うが、この機会を利用しようとしている・・・なかなかの知恵者がついているようだ」

「感心している場合ではありません。早急に我々の見解を報告せねばなりません」

 竹永は護衛艦がとるべき行動を、海上幕僚長へ示さねばならなかった。

「中村教授の読み通りとして、我々はどうすべきでしょうか?」

「ある程度の要求は受け入れねばならないだろうが、降伏するには及ばない。拿捕した台湾の測量船を解放し、活動家たちを引き渡す。潜水艦の乗員を救助していればそれも同じだ。そしてこの海域から退去する。どうだね?米内君」

「中国艦隊が黙って見逃すでしょうか?」

「連中にとっての勝利だ。それで手出しはしない」

「尖閣諸島を明け渡すつもりですか?」

 竹永は思わず口をはさんだ。

「まもなく中国工作の『グランド作戦』が動き始める。全てはこれにかかっている。成功すればいつでもこの島は取り戻せる。護衛艦の主力も計画通り動かせばよい」

 中村教授はなだめるように答えたが、新たな勢力の脅威を認めざるを得なかった。


「撤退ですって?」

「しらぬい」艦長は電話越しに護衛艦隊司令官に問い返した。

「いかなる戦闘行為も禁ずる。『しらぬい』は那覇へ寄港し、新たなお客を迎えることになる。今後は彼らの指示に従うように。以上」

 有無を言わさぬ指示に艦長は唖然とした。

「護衛艦二隻は進路を変えました。台湾の米艦隊と合流する模様です」

 通信員が報告した。

「米艦隊だと?連中に何もできはしない。ただ眺めているだけだ」

「しかし空母を含む、第七艦隊が向かっていますが」

「それまで時間を稼げなかったということだ・・・台湾は包囲される」

 巡視船にも動きがあった。海保司令部の命令で、逮捕した台湾の活動家と、数名の救助した潜水艦の乗組員がボートに乗り移っている。

「完全な失敗だな」

 艦長は呟いた。通信員は不安な顔で報告した。

「中国海軍が武装解除を要求し続けていますが・・・」

「無視してここを去る。そういう命令だ」

「黙って見逃すでしょうか?」

「撃ってきたら撃ち返す。正当防衛だ」

 艦長は吐き捨てるように言った。


 中村教授が予期した通り、中国海軍が発砲することはなかった。

 しかし、一時的にせよ、尖閣諸島は人民解放軍に制圧された・・・


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