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第20話 ティナ、準備を終える

あの日からティナは変わった。

孤児院で作った紙の束を集めて纏めただけの冊子の様な物を作り毎日そこに様々な事を書き込んでいた。


「これは・・・必要よね・・・そして、このページにしよう」


それは彼女が前回の異世界で学んだ呪われた武具の作り方。

武器屋を営んでいた両親がティナに決して見ないように言っていた書物の内容そのものであった。


「よし、完成だわ。後は・・・」


冊子が完成した数日後、ティナはそれを持ち毎日の様にそこを訪れていた。

そこはプロメタの町に1軒だけ在る鍛冶屋で魔人族との戦争の際にリムルダールの兵士に送る武具を作成している店であった。

だがその店の店主は気難しくティナはその息子が帰ってくるのを待っていたのだ。


「今日も居ない・・・だけどまだの筈・・・」


まるでその息子が帰ってくるのが分かっている様な様子に本人は違和感を覚えない・・・






そして、その日は来た。

いつもの様に鍛冶屋へ向かっていたらいつもの店主とは別の男性が作業を行なっていたのだ。

ティナは離れた位置からどう話を誘導するか考える・・・

少し考えた後、まるでその答えが出る事が分かっていた様にティナは行動を開始した。

まず孤児院で貰って貯めていたお小遣いで安い短剣を2本購入した。

その他にも今後必要になるであろう物をいくつか用意して夜になるのを待つのであった・・・


日が暮れて街灯等が無いこの世界では夜に外を出歩く人は少ない、そんな中ティナは鍛冶屋へ向かっていた。

孤児院の方ではティナが居ない事で騒ぎになっては困ると考えたティナはダブルを使いそこに自分が居るかのように見せかけていた。

昼頃から喉の調子が悪いと言って言葉をあまり話さなくしていたのできっとばれないであろう・・・


自らの偽者を見せて自分を見えなくさせる能力『ダブル』の一つの欠点として本人がそこに居ないと会話が出来ないのが問題であった。

だがこの欠点は日頃から口数を減らし顔を上下左右に動かす返事を意図的に繰り返す事でそういう人間なのだと思わせる方法で対処していた。

全てはこの世界の人々の救済の為に・・・


「ごめん下さい・・・」


ティナが声を掛けて鍛冶屋の中へ足を踏み入れた。

先程この店の店主が外へ出るのを確認してからの行動であった。


「すみません、もう閉店時間なので・・・」

「これを・・・」


多くは語らず目の前の男性に視界に入る瞬間にダブルを使用する。

きっと彼にはティナの直ぐ前に緑髪の少女の姿が映っている事だろう。

ティナは男性が立つカウンターの前まで歩き手作りの冊子を開いて置く。

その直ぐ横には日中に購入した2本の短剣を置いて彼の様子を見詰める。

まるで新しい玩具を得た子供の様に目を輝かせティナの作った冊子を見詰める男性にティナは口を開いた。


「この短剣にこの効果を付与してほしいのです」

「・・・この本借りても良いか?」

「・・・・・・一応門外不出の我が家に伝わる秘伝書なので・・・」

「分かった。それならあんたも一緒に来て見張っててくれ」


そう言われ店の裏に在る作業場へ移動する二人。


「入ってくれ」

「・・・・・・失礼します」

「目の前で作業させてもらうからその本のメモをとらせて貰っても良いか?」

「・・・はい、大丈夫です」

「ありがとう、それじゃその依頼受けるよ」


そう言って作業場の中央でティナの冊子を別の紙に写す男性・・・

その様子をチラリと見て予定通り隣のページも写しているのを確認したティナは作業場の外へ目をやる。

様々な作業を行なう上で体に悪い気体が発生する為か作業場の奥は壁が無く外と繋がっていた。

そこから毎日ティナはここを覗けていた事を幸運と思いながら男性が写し終わるのを静かに待つ・・・


「それじゃ大体30分位で出来るから退屈かもしれないが待っててくれ」

「はい・・・お願いします」


そう言って男性はティナに冊子を戻し作業を開始する・・・

その作業内容が間違っていないか遠目で見ながらティナは待つ・・・

そして、待つこと約40分・・・

完成した2本の短剣を手渡されティナはその短剣を手にする。


(これで準備は整った・・・後は・・・)


現在この2本の短剣はまだ普通の短剣である。

これを完成させるにはまだ幾つかの工程が必要なのだがそれはティナにしか分からない。

事実この短剣を作った男性にとってもこれがどんな効果の在る探検なのか把握できなくて困惑していたのだ。


「ありがとうございます。それで御代は・・・」

「いや、今回のは俺がこの仕事をやりたかっただけだ。だからサービスって事にしておくよ」

「・・・宜しいのですか?」

「あぁ」


口頭ではこう言っているがティナにはこの男性が代金を請求することは無いということは理解していた。

その為、孤児院で手に入れていたお金は全て買い物に使用していたのだ。

そうしてティナはその短剣を手に店を後にする・・・


「これで準備は整ったわ・・・それじゃ始めましょう、終わりの始まりを!」


夜空を見上げながら1人の少女がそう口にしてプロメタの町を守る兵士が常駐するその場所へ向かうのであった・・・

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