54- ──You need permission to perform this action──
2091.11.11 Sun. 16:46 JST
縦横三メートルほどの薄暗い部屋のベッドの上で、シンは目を開けた。
シンは頭が痛むのか、こめかみを押さえたままじっと天井を見つめている。
しばらくして、痛みが落ち着いたのかシンはベッドから上半身を起こし、周囲を見渡した。
左右と正面はコンクリートの壁で、真後ろは鉄格子になっており、鉄格子の先には十数メートルの通路が伸びている。部屋にはベッドとトイレのみが設置されており、独房そのもののように見える。
シンはベッドからゆっくりと降りると、ベッドのシーツの一端を引っ張り、鉄格子に接触させた。
「電気は流れてない、か。」
シンはそうつぶやくと鉄格子を握り、強度を確かめるように何度か押したり引っ張ったりしたが、微動だにしない。
その時、鉄格子の先から光が漏れた。光はどんどんと光量を増していく。シンは眩しそうに手を目の前に上げた。
奥からは革靴で歩くような乾いた音が近づいてくる。
乾いた音は鉄格子の手前で止まると、今度は金属が擦れるような音がした。細まったシンの目は、徐々に光に慣れてきたのか見開いていく。
鉄格子の前には、黒いスーツの男が立っていた。狼のような鋭い眼光がシンを刺す。
「出ろ」
「……」
男の言葉にシンは無言のままだったが、男は構わず持っている鍵で錠を開け、鉄格子の扉を開けた。
「来い」
「……」
シンは抵抗しようと思えばできたはずだが、男の背中を見据えたまま、通路を通って光の先に入っていく。
通路を抜けると、そこは暖色照明に包まれた空間が広がっていた。ざっと二十人は座れそうなほど多くのイスやソファが置かれている。
左手にはバーがあり、酒類が所狭しと陳列されており、いくつかのイスには黒のスーツの男達が座り、忙しなくミーティングや電話をしている。その中に、一人だけ女性の後ろ姿があった。束ねられた艶のある黒髪は背中にかかり、暖色の光を返している。
シンを連行してきた男がその女性に向かって口を開いた。
「少年を連れてきました」
男がそう言うと、女性はこちらに向かって振り返った。
「あら、目が覚めたんですね。どうそ、そちらに腰をおかけください」
「……議員だっけ、あんた。確か、一ノ瀬とかいう」
シンは僅かに目を見開いた。
スーツの男がシンを目の前のソファに押し込むように座らせると、一ノ瀬は立ち上がり、テーブルを挟んでシンの正面に座った。深緑色の瞳がシンを映す。
「私の名前、ご存じなんですね」
「前に番組に出てるのを見た」
「あなたにお聞きしたいことが数点あり、少々手荒なことをしてしまいました」
「……要件は?」
「それではさっそくですが、あなたは、メサイアを名乗る町田刑務所事件の犯人ですか?」
「違うけど」
「あなたがケガをさせたもう一人の少年は、あなたが犯人だと言っていますよ」
「覆面男か。あいつも連れてきてるんだ。あんた達の目的は?」
シンが不敵な面構えで一ノ瀬に問うと、横のスーツの男がシンの首を掴み、顔を近づける。
「質問にだけ答えろ。誰がお前の質問を許可した」
スーツの上からでも容易に分かる太い腕は、そのまま簡単にシンの首をへし折ってしまいそうなほどに力強く、シンの顔はみるみるうっ血していく。
シンはすぐにデリーターで男をリストから選ぼうとするが、コンサート会場のときと同様、リストに男は存在しない。
「イトウさん、それくらいで」
一ノ瀬がそう言うと、イトウと呼ばれた男はシンの首から手を離した。シンは何度か咳き込んだが、すぐに呼吸は整った。
「では、あなたは誰ですか?」
「普通の高校生」
「そうは思えません」
「なぜ?」
「私も、あなたと同じ能力者なので」
「……」
「確かめてもいいですよ、どうぞ確認してください。あなたもメッセージをご存じでしょう」
「……」
シンは右手を動かしてデリーターで距離〈1・7〉のリストを選び、続いて表示される画面で最下行〈2091〉〈11〉〈11〉を選び、《DĒŁĒTĒ》ボタンに指を置いた。
【You need permission to perform this action】
シンは表示されたメッセージを確認すると、ゆっくりと顔を正面に向けた。




