23- ──粛清の課題──
2091.09.07 Fri. 18:26 JST
「――こ、こ、今後? う、うん。もちろん! 大事よねそういうことは!」
「現状、アムの裁きは、二つの課題を抱えている」
「ア、アム! アムのことについてね、了解」
リエリは顔を引き締めた。
「一つ目の課題は、逃走中の犯人や事件が表面化していない犯罪は、裁く手立てがないという点にある。
知ってると思うけど、五十メートル以内の人間しか、デリーターの対象リストとして表示されない。だからどうしても裁きが局所的になってしまって、裁きの効率が上がらない」
シンは両腕を膝につけ、視線を遠くに移す。
「そっか、私のセレクターも多分一緒だね。測ったことなかったけど、距離って五十メートルだったんだね」
リエリは人差し指を立てて、頷いた。
「もう一つは、冤罪を裁いてしまうリスクがあること。――あのさ、デリーターもセレクターも画面構成は同じで、〈Direction〉、〈Distance〉、〈Serial Number〉ってあるけど、それぞれどういう意味か理解してる?」
「知ってるもん! 人の〈方向〉と〈距離〉でしょ。もう一個の番号は、人それぞれに違う文字がついてるのよ、それ」
リエリは得意気に腕を組んだ。
「〈Serial Number〉は、〈ビットの製造番号〉を指してるんだよ。製造番号が分かると、実は囚人を特定できる。だから、自分が裁くべき囚人だけを選んで裁ける」
「ふぇ? ビットの製造番号……ってなに?」
「ビットごとに指紋みたいに違う番号を持ってる、その番号のこと」
「へ~。でもでもなんでビットの製造番号が分かると、個人まで分かっちゃうのよ? そういうのって個人情報ってのでしょ?」
「世の中には、金さえ出せば名簿を売る人間がいくらでも存在してる」
「……こ、怖っ。そんなの売ってるの」
リエリは気味悪そう目を細め、顎をひいた。
「俺は今のところ、ビットの製造番号から個人を特定した上で、なるべく自白と証拠がある凶悪犯だけを裁くようにはしてるけど、その中にはいつも、冤罪が含まれているリスクがある。
ただ、……俺は別に聖人でもないし、そのリスクは飲み込んで、割り切って囚人を裁いてる。でも、できるなら、そのリスクをゼロにしたいとずっと思ってきた」
シンは真剣な眼差しをリエリに向け、淡々とした調子でそう語った。
「うん。……でも、そういうリスクはしょうがないじゃない! 神様じゃないんだもん。今、世界的に犯罪がすっごく減ってるってニュースでやってたよ。アムの裁きのおかげだよ? シンは全然気にする必要ないよ」
リエリは少し興奮気味にシンを擁護した。
「神様か……。俺がこれからしていくことは、おそらく〝神をつくる〟っていうことと同じだと思う」
「へ? 神様……つくるの?」
シンの突拍子もない発言に、リエリは目を丸くした。
リエリは立ち上がってシンの目の前まで進むと、膝立ちをしてシンの額にスッと手の平を当てた。
「うーん、熱はないみたいだけど……」
「……。つくるのは、神そのものじゃない。〝リアルタイム脳情報集積環境〟だよ」
「リアル……? もう難しい言葉はムリ~……。シン、この前、番組で偉い人が言ってたよ。頭がいい人は、分からない人に分かりやすく説明することができるもんだって。はい、それじゃあシン君、私にも分かるように説明して」
リエリは頭を抱えて寝転びながらそう言い、下から覗き込むようにしてシンを見つめた。
「簡単に言えば、〝全世界の人間の行動を把握する仕組み〟をつくりたい。それができれば、アムの裁きはより完全に近づいて、もっともっと犯罪が減るっていうことかな」
「そんなこと、できるの? マジで神様じゃない、そんなの」
「……ビットを使えばできる」
「……?」
リエリは不思議そうにシンを見た。




