22- ──今後について──
2091.09.07 Fri. 18:17 JST
「ここ、俺の家」
「ここ? ……すごいマンション! シンのお家て、もしかして、ものすごいお金持ちなの?」
リエリは上を向いて口を開けてポカンとしている。リエリの目の前には、超高層の巨大なマンションが聳えている。
「でも、まだちょっと早いんじゃないの? 付き合って一ヵ月も経ってないし。……いや、でも必要よね! やっぱり挨拶はしなきゃ、うん!」
「誰に?」
「もちろん、シンのお父さんとお母さんに」
「俺、一人暮らしだから」
「えっ? ウソでしょ? ここに一人?」
「そう、今年からだけど。去年までは親戚の家に住んでた」
シンがそう言って、暖色の明かりで照らされたエントランスの小階段を上ると、十人は横並びで通れそうな重厚な木製ゲートが迎えていた。シンがゲートの右端にある端末に手をかざすと、ゲートはその威圧的な印象に反し、非常に滑らかに音も立てず開いた。
「どうかした? 来ない?」
「……。行く、行きます」
リエリは慌てた様子で返事をした。
艶のある木製彫刻で装飾されたエレベーターはクラシックを流しながら七十八階で止まった。二人はエレベーターを出て、質のよさそうなカーペットが敷設された共用通路を進む。エレベーターと同様、通路でもクラシックが微かに聞こえる。少ししてシンは立ち止まり、重厚なドアに設置された端末に手をかざした。
「ここ」
シンはドアを開けながらリエリにそう言った。
「お、お邪魔します!」
リエリは元気な声でそう言うと、シンに続いて室内に入っていく。
玄関に入ると、間接照明で両壁が優しく照らされた長い廊下が続いていた。リエリは丁寧に靴を脱ぎ、足早で進むシンに遅れまいと付いていく。
長い廊下の突き当たりのドアを開けると、全面ガラス張りから見通すきらめく夜景が飛び込んできた。部屋は、百平米はありそうな大空間で、天井は二階分以上の高さがある。対照的に、家具は木を基調とした手作り感のある質素で落ち着きのある雰囲気を纏っている。
「スゴッ! こんなとこに住んでたんだ、シンって……。景色最高だし、すっごく広い……家具のセンスもすごく素敵!! このピンクの花の絵……あのサイトの花の絵と同じ……」
「間取りは親父のこだわりで、家具とかインテリアは母親の趣味らしい。俺はよく分からないけど」
「あの、……何かの事故で?」
「まぁ、そんなとこ」
「そう、なんだ」
「そこ、座って」
シンは、正面一八〇度に夜景を望む特等席のソファにリエリを案内した。
「飲み物は何がいい?」
「な、なんでもいいよ」
シンはキッチンの食器棚からコップを一つ取り、続いて、冷蔵庫から冷えたお茶のボトルを取り出した。そして、リエリが座るソファの前にあるテーブルにそれらを置いた。
「母親は優しい人で、親父は狂人」
「きょ、狂人?」
シンは、リエリが座るソファと直角に配置されたソファに腰かけながらそう言った。
「親戚が言うには、だけどね。俺は両親の記憶が五歳までしかないから」
「……そっか」
「親戚曰く、親父は口癖のように『こんな狂った社会は、一度壊れればいい……』って言ってたらしい」
「か、変わったお父さんだったんだね、ハ、ハ……」
しばらく沈黙が続く。
「な、何しよっか? シン」
リエリは少し頬を赤らめてシンに問うた。
「……今後について、共有したい」




