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1-21.冒険者の戦い方

 俺は、今日は一人で自警団の本部を訪ねていた。

 もちろん朝、ヤーゴンさんの家にお弁当を届け、ユアンちゃんの頭を撫でてきた。ユアンちゃんは当然の様に一緒に行くと言ったが、今日は連れてこなかった。俺は非常に嫌なのだが、団長さんかロイスさんにお願いして、昨日の訓練以上の激しい戦闘をするつもりだからだ。子供に見せるわけにはいかない。

 週が明けて月曜日の朝、山際さんの予測通り、死ぬような目に合って来いとカプセルの解析班に言われた。カプセルの設定は最初にキャリブレーションした時と変更はなかったらしい。それなのに、事実として俺の体には痣ができてしまった。さあ、再現するぞと言うノリらしい。

 今日は俺が最初にログインした時以上に大勢の人間がモニタリングしているとのことだ。監視装置(バード)もいつも以上に目につくところに飛んでいる。

「こんにちは、ケージです。」

 俺が入り口で声を掛けると、受付に座っていたパーンが勢いよく寄ってきた。

「ケージさん、よく来てくれました!」

 パーンは俺の手を両手で握り、握手なのか新手の攻撃なのか分からないくらい上下に振っている。

「昨日、闘技装置(バトラー)を使ったそうじゃないですか。いやー、俺も使いたかったですよ。俺も巡回じゃなければ使えたのになぁ。それにしてもケージさん凄かったそうですね、聞きましたよ、グワドルジさんまで投げ飛ばしたって。グワドルジさんなんて魔獣より怖いですからね、よくもまあ、あの人をねぇ。」

 パーンのマシンガントークは止まることを知らないようだ。

「ケージさんが強いってことは分かってたんですよ。何しろヤマイヌを素手で倒しちゃうんですからね。でもどれくらいってのは、ほら、分からないじゃないですか。でも、俺は分かってましたよ、強い…っで。」

 ゴンと言う音が聞こえ、パーンが頭を抱えてしゃがみこんだ。パーンが後ろから小突かれたようだ。

「パーン、ケージさんに迷惑をかけるな。」

 オリバーのおやっさんである。

 何だろう、この元騎士団出身にも関わらずおやっさんと呼びたくなるような雰囲気は。

「ケージさん、ようこそ。本日はどうしました。」

「ええ、昨日、お世話になったのでお礼と、出立前にもう一度だけ闘技装置(バトラー)を使わせてもらえないかとお願いに。」

 オリバーのおやっさんは、ちょっとだけにやりと笑った。

「ケージさんも団長と同じバトルマニアだったのかい。」

「滅相もない、違います。」

 俺は本気で否定した。

 業務命令じゃなければ戦闘行為なんてしたくない。

「ケージさん、闘技装置(バトラー)使うんですか!?今度は俺とも是非。」

 パーンが話に割り込んできた。

 パーンもバトルマニアの資質は充分にありそうだ。

「まだ分かりませんよ。それをお願いしに来たのですから。」

 俺がパーンに答えていると、奥から回答があった。

「いいですよ。何なら今日、使いますか。」

 ロイスさんだ。

「今日でしたら私がお相手しますよ。何なら何でもありでやりますか?」

 ロイスさんがやる気満々だ。

 オリバーのおやっさんがちょっと驚いた顔をしている。

「お願いできますか。」

 俺も業務をこなさなければならないので、受けて立つ以外の選択肢がない。

「昨日のケージさんの戦いっぷりをみていて、私も参加したくなりました。」

「副団長、珍しいですね。」

 副団長さんは落ち着いたイメージだったので、オリバーのおやっさんの言う珍しいがよく分かる。

「昨日はうちの自警団の全敗でしたから、一矢くらいは報いておこうかと。それに、今日は団長が見回りに行っていて、ケージさんの相手をする人が居ませんから。」

 最後の理由の方が本当のところなのだろう。最初からそっちを言ってくれれば良いのに。

「団長さんが居ない間に闘技装置(バトラー)を使って良いのですか?」

「構いませんよ、闘技装置(バトラー)の使用許諾は副団長の権限でもできますから。」

 どちらかと言うと、自分が戦えなかったことに文句を言う団長さんのことを心配したのだが。

「しかし、何でもありですかい。」

 オリバーのおやっさんが呟く。

「そうですね、昨日のは、あくまでも実戦向きではなかったですしね。今日は実戦向きの技術をお見せしようかと思いまして。」

 ロイスさんの言い方に引っ掛かりを感じるが、俺はちょっとだけ興味を持った。

 いわゆる剣道とチャンバラの違いだろうか。俺は格闘技には詳しくないが、言わんとしていることは分かる気がする。

 ロイスさんは冒険者出身だ。実戦の経験は豊富に違いない。その実戦で培われた技術はどんなものなのか、見てみたいとは思う。

 できうるならば、観客として。


 俺たちは昨日と同じ様に本部の廊下を通り抜け、裏の闘技場に出た。

闘技装置(バトラー)を使いましょうと言っておいて何なんですが、俺は人と戦ったのも昨日が初めてなくらいなんです。何でもありと言うことは、剣を持つつもりなんですよね。」

 素手の戦闘でさえあの迫力だったのだ。

 剣を持った相手と対峙(たいじ)することを考えると、かなり腰が引けてくる。

「そうですね、今日は剣もカードも有りでと思ったのですが、そうですか。」

 ロイスさんは少し考えてから言った。

「よし、パーン。まずはお前がケージさんの相手をしろ。」

 俺たちの後を付いてきていたパーンが突然名前を呼ばれて驚いた顔をしたが、そのあと嬉しそうな顔で叫んだ。

「よっしゃ!」

「ケージさん、パーンで肩慣らしをしてください。パーンなら剣を持たせても、昨日のドグやロックよりも弱いと思いますよ。」

「副団長、それはないでしょう。俺だってもうちょっとはできますよ。」

 パーンが抗議するが、ロイスさんは無視である。

「ケージさんも何か武器を持ちますか?うちにあるものでしたら使って良いです。」

 そう言われても、俺は剣を持った戦闘の練習はしていない。

 せいぜいヤーゴンさんの庭で拾った木の棒を振り回していただけである。

 とは言え、剣を相手に徒手空拳で立ち向かうのは無謀な気がする。解析班に死ぬような目に合って来いと言われたからと言って、死んでみるつもりは毛頭ない。

 最近、スキル任せ(オートモード)で戦うのにも慣れてきた。武器を使うスキルをいきなり使ってみても何とかなるんじゃなかろうか。

「そうですね、じゃあ、これでも。」

 俺は革のザックからナイフを取り出した。

「なるほど、あくまでも素手の戦闘の延長というわけですか。」

 ロイスさんは勝手に納得している。

 単に俺はこれしか持っていないだけなんだけどね。

 俺はスキルにナイフをセットした。ただし、あくまでもジュージュツがメインスキルだ。他には、格闘、カラテ、ヨガを付けておく。

 最初にジュージュツで剣の相手をしてみて、無理があると判断したらナイフに切り替えるつもりだ。

 パーンの剣術レベルは分からないが、自警団に入って1年ほどだったはずだ。一人前と言われるスキルレベルは30のようだ。パーンは一人前ですらないだろう。それに比べて俺のスキルレベルは50、さしづめ熟練者と言ったところか。素手でも勝てそうな気がしてくる。

 俺が色々と準備をしていると、オリバーのおやっさんが声を掛けてきた。

「剣を持った相手と戦うのは初めてか。ジュージュツの技を磨くときはどうしてたんだい。」

 痛いところを付いてくる。

「同門と素手と素手での訓練をするだけですから。それに、技の練習がほとんどで、戦うようなことは少なかったですね。」

 適当に誤魔化してみる。

「実戦なしであの強さか。ケージさんが強いのか、ジュージュツが凄いのか。さすが伝説のヒノモト国と言うことか。」

 何がどう伝説なのだろうか。

 大抵のゲームの中の日本は不思議な風習を持ち、やたらと強い連中が溢れている国なことが多いので、ヒロモンでもきっとそうなのだろう。

「他流派と言うか、ジュージュツ以外と戦うことなんてなかったと言う意味ですよ。」

「そうかい。俺は騎士出身だから力任せの戦い方しか知らなかったが、冒険者は凄いぞ。色々な手を打ってくる。パーンはともかく、副団長とやるときは楽しみにな。」

 励ましに来てくれたのかと思いきや、プレッシャーをかけに来たようだ。

 ちょうどよくパーンの準備ができたようなので、俺は闘技場の真ん中に向かった。

 パーンは山に行ったときのように軽鎧を身にまとってきた。

 パーンが俺の前に立ち、剣を構えた。

「簡単には負けませんよ。」

 パーンよ、その言い方だと負けることが前提だぞ。

「まあ、適当にな。」

 今日はオリバーのおやっさんが審判役のようだ。

「オリバーの名において闘技の儀を執り行う。起動。」

 ぶうんと言う音とともに、バトルフィールドが展開される。

「両者、始め!」

 開始の合図とともに、俺は前に出た。

 前に出るところまでは俺の()()である。

 足を一歩踏み出すか踏み出さないうちに()を手放し、ジュージュツスキルによるオートモードにする。

 イメージとしては、コントロールパッドの前に進むボタンを一度だけ押し、後は手を離す感じだ。コントロールパッドに手が触れてはいるので、何かあれば自分で操作する。

 最近、自分の意思による操作とオートモードの切り替えがスムーズになってきた。コツが分かってきた気がする。ディスプレイに酔いながら毎日ヤーゴンさんの庭で訓練した成果だ。

 迎え撃つようにパーンは剣を振りかぶるが、俺の()は素早く剣の(つか)を押し上げるように押し出し、さらに踏み込みながら反転して腹に肘鉄を食らわせる。

 軽鎧とは言え鎧を着こんでいるのだ、あまりダメージはないだろうが、それでも体が前屈する。

 それに合わせて一本背負いを決める。

「ぐっ。」

 パーンが腰を地面に打ち付けうめき声をあげる。

 俺は一度距離を取る。

 鎧のおかげか、はたまた根性か、パーンが起き上がってきた。

 剣から手を離していないのは感心である。

火球(ファイアーボール)!」

 パーンが両手で剣を握りながら唱えた。

 何でと思ったら、パーンの胸元から小石大の火の弾が飛んできた。

 お腹の辺りに飛んできたが、距離が開いていたため横ステップで(かわ)した。

 パーンは火の弾の放出と共に剣を振ってきたが、俺の()は横ステップの後、パーンの方に踏み込み、やはり柄を掴み体落としを決めた。

 そのまま、パーンの腕を取り、うつ伏せにし、取り押さえる格好となった。

 勝負がついたのを見届けたのか、バトルフィールドが解除された。

「お疲れさん。」

 パーンに声を掛けるついでに胸元を見る。

 両胸の革を繋ぐ胸の真ん中にカードが一枚差し込まれている。カードの半透明の円形部分がちょうど露出するように納まっている。

「少しは効果あると思ったんだけどな。」

「もう少し近距離じゃないとな、避けられるよ。」

 うん、実際、つばぜり合いの状態や背負い投げの最中に魔法を放たれたらくらうしかない。

「その鎧は特注品か?」

「そうですよ、でも、俺だけじゃないですけどね。冒険者たるもの奥の手として色々と工夫してるものです。」

 パーンが偉そうに言う。

「カードを鎧に組み込んで、強度は大丈夫なのか?」

「何言ってるんですか、カードは鉄なんかよりも頑丈じゃないですか。大丈夫ですよ。」

 もっと色々と聞いてみたかったが、ロイスさんがこっちに来てしまった。

「パーン、工夫は良いが、使いどころをもっと考えないとな。」

「はい。もっと練習しまっす。」

 パーンは元気よく闘技場の外へと駆けていく。

「さて、肩慣らしにはなりましたか?」

「ええ、実戦形式と言う意味が分かりました。」

「それはよかった。では、次は私とです。」

 ロイスさんが開始位置についたので、俺も適当に距離を取って立つ。

 ロイスさんの軽鎧を全体的にチェックする。パーンと同様に左胸にカードの円形部分が見える。それと、両方の籠手(こて)。前腕部に円形の部分が見えている。

 なるほど、色々と仕込んであるようだ。

 いつもの開始の声が聞こえる。

「オリバーの名において闘技の儀を執り行う。起動。」

 ぶうんと言う音とともに、バトルフィールドが展開される。

「両者、始め!」

 合図ととも俺は前へと出たが、ロイスさんは同じだけ後ろに下がっていった、

 俺の方がリーチが短い分、距離を詰めたかったのだが、その辺はロイスさんも分かっている。

 右手で剣を中段に構えつつ、左手で腰のからカードを抜きだした。魔法カードをこちらに向け、呪文を唱える。この一連の動作を下がりつつ行った。

火球(ファイアーボール)!」

 俺は避けるしか方法がなく、横ステップすることでロイスさんとの距離が開いてしまった。

 ロイスさんは剣を構えつつ、火球(ファイアーボール)のカードをこちらに向けている。

 剣道三倍段と言う言葉がある。真剣のように殺傷力の高い武器に対して、柔道家や空手家が何の武器も持っていない場合のハンデキャップは、段位にして3倍はあると言う(たと)えだ。

 ヒロモンでのレベル差に換算するとどうなるかは分からないが、少なくとも、剣に対してジュージュツが同じスキルレベルでは勝てないだろう。

 何せ、俺の防具は布の服で、盾も籠手もない素手なのだから、剣も魔法も防ぎようがない。

 パーンのように明らかに格下ならともかく、ロイスさんのスキルレベルは高そうだ。

 俺はナイフを右手に持ち、メインスキルをナイフに切り替えた。

 これで少なくとも剣を防ぐ一助にはなるだろう。

 ロイスさんが前へと出てきた。

火球(ファイアーボール)!」

 俺の太もも辺りを目がけて火の弾が飛んでくる。

 横ステップで避けるが、避けた場所を目がけてロイスさんが上から斬りつけててくる。

 何度も同じような動作をしているのだ、読まれていて当たり前か。

 さすがに俺の()もロイスさんを投げ飛ばすことはできなかったようで、ナイフでなんとか受け止める。

火球(ファイアーボール)!」

 右手で剣を受け止めているために空いた脇腹に、火の弾が飛んでくる。

 俺の()も反応して、左の掌で下に払い落とす。

 衝撃と熱を感じる。

 ロイスさんは、カードを投げ捨てると、剣を両手で持ち、体ごと俺を押し込んでくる。

 じりじりと押し潰されそうになるが、俺の()は逆に沈み込むと、巴投げを決めた。

 俺とロイスさんは同時に起き上がるが、俺の方が若干早く、ロイスさんの懐に飛び込んだ。

閃光(フラッシュ)!」

 ロイスさんの胸元が激しく光った。

 俺はもろに見てしまい、目を瞑ってしまう。

 俺は目が開けられないまま、体のあちこちに衝撃をくらい、転がされた。転がされた後も身体のあちこちに衝撃を感じる。

 恐らく、殴られたり蹴られたりしたのだろう。模擬戦だからか、さすがに剣で刺殺されはしなかったようだ。

 しばらくすると、転がされたはずが立っていた。

 バトルフィールドが解除され、開始位置に戻ったらしい。

 だが、俺の目はまだちかちかする。

 目のステータスは正常なのだろうが、リアルの俺の目がやられている。

「ようやく自警団が1勝できました。」

 薄目を開くと、ロイスさんが手を差し出してきていた。

 俺はなんとか握手をする。

「まだ目がちかちかします。」

「目くらましは、ありったけの魔力を込めるのが上手くするためのコツなんですよ。」

 ロイスさんの声に笑みが含まれている。

 きっと、してやったりと言う顔をしているに違いない。

「色々と勉強になりました、ありがとうございました。」

 俺は素直な気持ちで言った。

「こちらこそ、若いのはともかく、我々も格闘の技も磨いていかないとと思わされたところですよ。何せ、団長すら格闘では負けてしまいましたからね。」

「素手で人と格闘することって、余りないのじゃないですか。」

「武器を常に手にしているとは限りませんし、戦闘中に武器を落とすことも考えられます。団長やオリバーが使っていた技も、騎士団の中でそうやって培われた技なんですよ。」

「騎士団の技術に、冒険者の技術か。ここの自警団は凄いですね。」

「私もそう思います。ただ、ここだけの話、王都では冒険者と騎士団は仲が悪いですから。うちが特殊なんです。」

「団長さんと副団長さんが夫婦ですもんね。」

「ええ、まあ。」

 ちょっとだけロイスさんが照れたような顔をした。


 その後、俺はヤーゴンさんの家に行き、ユアンちゃんと少しだけお話した。

 俺がロイスさんに負けたことを話すと、ユアンちゃんの表情が少し曇ったが、そんな強い人が村を守ってくれているんだよと話すと、そうだねと言って笑顔を見せてくれた。ユアンちゃんは素直で可愛いな。

 それにしても、闘技装置(バトラー)は便利だ。戦ったことをなかったことにしてくれるので、汗や服の汚れもなかったことになる。戦った後なのに綺麗なままなのである。

 それでも、ログアウト前には宿屋で体を拭くんだけどね。そうしないとユアンちゃんに臭いと言われるから…。

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