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ゴロツキ騎士団  作者: ころ太
第四章:風に吹かれて
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ゴロツキ騎士団

ラル視点です


「え?今日、もう治療室を出られるんですか?」


 事件を終えて、唯一体はそこそこ無事だった僕が報告書や調査書、香失草の資料や実態などを纏めていた。と言っても、ガラスで負った傷の所為で何時もより時間がかかってしまいまだやることは終わりそうにない。

 そんな中、僕の治療室へと一番に足を運んでくれたのは、村へと向かう際に久々に言葉を交わした陛下だった。


「あぁ、クレスタ総司令官のところへも行ったが、早く行きたいところがあると言っていたのでな、体が治っている訳ではないが治療班に無理を言っているのを聞いた」


 僕の横でクレスタ様の話をする陛下は、陛下であるとわかっていても、昔と変わらない兄の面影がそのままで、心が温まるのを感じる。そう思えば思う程、僕はやっぱり陛下の側で役に立ちたい、そして共に在りたいと思う。

 僕が作成した報告書や調査書を読む陛下は、リジュ嬢についてどう思うのだろう。陛下としての答えは少しわかる気がするが、ロード=セルティ・シアナ自身としては、なんと思うのだろうか。問いかけようと思う気持ちもあったが、僕自身の中で見つかっていない答えを求めてしまっている様で、まだ、聞くことは出来なかった。


 そう考えている時に言われたクレスタ様の様子に、僕は驚いて言葉を忘れてしまったというのもあるけれど。


「早く行きたいところですか・・・それにしても、重症だとお聞きしているのですが・・・大丈夫なのでしょうか?」

「・・・私にはわからないが、昔から殺しても死なない奴だと聞いている」

「・・・・それは、本当の様な、なんと言えば良いのか・・・」


 陛下の言葉に言葉を詰まらせた僕を少し柔らかい顔で陛下は笑った。そう、小さな時も同じ笑顔だったとよく覚えている。


「大丈夫だろう。恐らくクレスタ総司令官の早く行きたいところとは目を覚ましたと言われる団長のところだ。気になるのだろう」

「え!?シーナ、目を覚ましたのですか!?」


 クレスタ様の事も驚きだったが、シーナが目を覚ましたという事に更に驚いた。香失草の効力や体の容態も気になる。


「あぁ、先程私も聞いたばかりでな。お前に伝えようと思っていた」

「あ、ありがとうございます!そ、その・・・」


 僕は陛下にお礼を伝えると体がそわそわと落ち着かない動きをしてしまった。その様子を見て、今度は声をあげて陛下が笑う。


「っくく、行ってきなさい。何も無いと、祈っている」

「っ!はいっ!!ありがとうございます、申し訳ありません・・・僕、行ってきます!」


 陛下には僕の考えなど簡単に見通されていた事に、嬉しさや恥ずかしさが混じり、顔が赤くなる。陛下がシーナのところへ行くようにと促してくれた言葉のまま、僕は挨拶も簡単にして部屋を飛び出してしまった。

 少ししかない廊下が長く感じるが、それでも僕は足を走らせてシーナが居ると聞いた一番奥の部屋へと急ぐ。


「シーナ!」


 近づいた扉の中から聞こえた言葉に、僕も大きく反応してしまった。慌てて部屋の戸を叩き、返事をもらうと勢い良く扉を開ける。


「シーナ、目が覚めたんですか!?」


 扉を開けると、ベッドに上半身だけ起こしたシーナを中心に騎士団のマロン、ヴィスタ、アクリアとクレスタ様、そしてリリア様が周りを囲っていた。


「おお、ラル。丁度良い所にきたな」


 そう軽く手を上げたのは頭に包帯を巻いたシーナだった。見る限りでは香失草の効力は見られない。


「だ、大丈夫なんですか!?僕、シーナはずっと目が覚めてないって聞いて・・・!」

「あ?・・・あぁ、目が覚めたのはここ最近だからな。特に不調もねぇし、痛むとこもほとんどねぇよ。私より・・・な」


 シーナが周りを見るとみんなそれぞれ体に包帯をぐるぐると巻いていた。確かに、一番攻撃を受けていないのは・・・シーナかもしれない。僕は少し安心して空いている椅子へと腰を降ろした。


「それなら良いのですが・・・。あの、香失草の効力は・・・大丈夫ですか?」

「ん?あぁ、今んとこはな。何ともねぇよ、言ってみれば多分短期間だったしな。あの花とあの声が無ければ大丈夫だろ」


 そう言って笑うシーナに、今度こそ心から安堵した。


「良かった・・・。あ、そう言えば丁度良い所にって言ってましたね。何かありましたか?」

「いや、私が気を失った後の事聞こうと思ってな。クレスタもなんかいっぱいいっぱいだったって言うし、ラルが一番意識あったんじゃないか?」

「僕達は伸びてたからね」

「残念なことにな。シーナの本気久々過ぎてマジで死ぬかと思った」


 シーナに続いて、ヴィスタ、アクリアがそういうとマロンもゆっくりと頷いていた。


「マロンとヴィスタとアクリアにも、そんでもってリリアからもクレスタとの事はなんとなく聞いた。まぁ回復したら互いに一発ずつ殴るって事で解決した」

「してないからね、僕、殴るなんて言ってないよ!」

「戦うってなったら構わず殴るくせしてこういう時はそういう風に言うよな、クレスタって」

「もうシーナとも戦いたくないってば!もうあんな思いしたくないんだ、僕は!」

「そういってまた大会とかあったら絶対燃えるだろ」

「そ、それとこれとは・・・」

「ほらな」


 軽口で会話するシーナとクレスタ様に以前と変わらない関係が思い出されて、本当にシーナの誤解が解けたのだと安心した。いや、もしかしたらシーナにはまだ疑いがあっても、クレスタ様が笑ってればいい、そう思っているのかもしれないけれど。

 なんにしても、きっとこの二人の関係が崩れる事はもう滅多にない事なのだと思う。


「誤解が解けたのなら、良かったです。皆にも報告をしないとと思っていたので、僕にとっても丁度いい機会ですね」


 二人の関係にもう一度クレスタ様とシーナに憧れを抱いた。いつか、この二人と同じ場所に立つ事が出来るだろうか。否、同じ場所へ立つ為に、僕の出来ることをしていこう。

 そう考えを改めて、僕はあの事件直後の事を思い出していった。


「あの後、クレスタ様以外皆意識を失ってて、僕は一先ず唯一懐いてくれた飛竜を遣いに飛ばして王都へ連絡をしました。そして、その足で窓から落ちたリジュ嬢の様子を見にいきました」


 僕が話始めると、騎士団もクレスタ様もリリア様も耳を傾けてくれた。


「雨や暗さもありましたが、下が見えない程の高さがありましたし、僕は、リジュ嬢は助からないだろうと・・・落ちた時、そう思ったんです」

「・・・僕も、そう思ってたよ」


 僕の言葉に重ねて、クレスタ様が同意を示してくれる。一緒に落ちた瞬間を見たのなら、きっと誰もがそう考えるだろう。屋敷でも上の階に居た事は事実だし、雨で暗かったからとはいえ、鮮明には見えない程の距離もあった。


「でも、居なかったんだろ?」


 シーナが聞いてきた言葉に、僕は一度頷きを返す。


「・・・はい。応援に来た軍総出で探しましたが・・・どこにも・・・居ませんでした。けれど、窓の下の地面は窪んでいたので、近くに少し木も生えていたことから、それに当たって上手く速度が落ちたのではないかと推測されてます。でも、雨も長時間降っていて、足跡も見当たらなくて・・・僕も、直ぐに駆けつけた訳ではありませんから・・・なんとも」

「なるほどな・・・リジュは生きてる、か」


 シーナが呟いた一言に、クレスタ様の喉が静かに鳴った。


「・・・あんな思い、もうしたくないよ。やっぱり・・・リジュは探そう」

「それが賢明ですね。あの娘の声は・・・シーナ様にとっても厄介なのでしょう?」


 クレスタ様の提案に、リリア様が肯定を示す。確かに、今回の出来事は騎士団やクレスタ様にとっては悪夢の様な出来事だっただろう。もう二度と、僕だって繰り返したくはない。


「そうだな、けど・・・私は探せねぇだろ?お願いするしかねぇかな」

「まぁそうだな、リジュちゃんとシーナが会っちゃって、また反応しても困るし」


 シーナとアクリアの言葉に、僕も頷いた。


「そうですね。探すにしても、シーナは外れるべきです」

「よしっ、じゃあ決まりだな!」


 突然切り出したシーナに、僕だけではなく騎士団、そしてクレスタ様とリリア様までもが不思議に感じた。今の流れで、何が決まったのだろうか。


「なぁ、クレスタ。特別騎士団を作ったのはクレスタだけど、団長は私だよな」

「え?あ、うん・・そうだよ?」


 自分で団長だと今まで言っていたのに、急にどうしたのだろうかと問いかける前に、シーナはとんでもない事を口にした。


「団長命令だ。今日をもって、特別騎士団は解散する!」


 予想だにしない言葉を聞き、僕もクレスタ様も、騎士団達も一瞬唖然としてしまった。


「ちょ、ちょっと待てよシーナ、解散ってどういう事?俺等どうなっちゃうわけ!?」

「そうだよ、僕達、今ここしか居場所ないんだけど!?」


 一番にシーナの言葉に反応したのはアクリア、そしてヴィスタ。


「急にどうしたんだ?何か考えがあるのか・・・?」

「突然に、しかも強引ですね・・・」


 続いてマロンにリリア様だ。


「そうですよ、本当、急にどうしたんですか?」


 二人に続いて、僕もやっと思いを口にするが、近くにいたクレスタ様は未だに固まったままだ。


「そんで、私は軍を出る」

「ちょ、ちょっと待って!!シーナ・・・なんで、どうして・・・?」


 続いて出たシーナのとんでもない発言に、やっとクレスタ様の口から言葉が出てきた。けれど、シーナを傷つけた自覚があるクレスタ様の言葉は弱々しく感じてしまう。


「・・・クレスタと一緒に居れない訳じゃない。でも、今回もそうだし、クレスタの話を聞いても思ったんだ・・・私は軍に居ない方が良い。・・・・そうだろ?今回の事も軍に香失草の患者がリジュんとこから入ってきて、もうリジュは私が軍に居ることがわかってる。もう隠れるなんて事、軍に居たら出来ないだろ、だから・・・私は軍を出る。・・・そうだな、城下にでも拠点を移そうか。・・・そんでもって、騎士団のお前等を引き抜こうと思うんだが、一緒に来ないか?」


 はっきりと根拠を言われてしまうと、クレスタ様も否定出来なくなり、誘われた騎士団の面々は瞳の輝きを取り戻した。


「なっんだよ!それっ!早く言ってくれよ!俺すっげぇ心配した!」

「本当だよ!これからなんのお仕事にするの?あ、ちょっと綺麗な所にしようよ!それで今より広いところがいいな!」

「俺も行く。お前達だけじゃ心配だしな」

「はは、特別騎士団って肩書きなくすと私達じゃ本当、ゴロツキの集まりだな」


 ホッと安堵を示して、アクリア、ヴィスタ、マロンが返すとシーナがゴロツキの集まりだと笑う。楽しそうな未来に、僕も一声かけようとするとシーナの視線が僕へと移った。


「・・・ラル。お前はダメだ」

「え・・・?ぼ、僕も騎士団の一員・・です・・・」


 自分も行けると思っていた分、シーナの言葉が胸に突き刺さった。自分も、皇族・・・だからだろうか。


「ラルのやりたいことはなんだ?ラルが、やらなきゃいけないって思ってる事、あるだろ?」


 シーナの問いかけに、ぎゅっと胸が痛む。


「陛下の役に立つこと・・・です」

「そうだろ・・・?その陛下、の側を離れてどうすんだ。敷地内ならまだわかる、でも場所が違ってお前の兄貴になんかあったらラルは後悔しないか?」


 後悔。その言葉に僕は今回の事件を思い浮かべた。自分が死に直面した時も役に立てなかった事が心残りだったし、また失う事も嫌だと考えたばかりだ。


「・・・後悔、します」

「そうだな。それに、なんだ・・・ラル、もう私がお前に教えてやれる事はそんなにない。後はクレスタからでも十分学べるだろ、まぁクレスタがなんのつもりで騎士団に入れたかはわかんねぇけど・・・女とか、皇族とか、そういうもん考え直すにはちょっと横暴だったかもしれないが、いい教育になったんじゃないか?なぁ、クレス・・・・」


 シーナの言葉が、重く胸にのしかかる。

 確かに、僕には考えが足りなかった。そして、本当の死への恐怖、絶望、立ち向かう勇気も。


「おいおい、今生の別れじゃないだろ?」


 シーナが不自然に言葉を区切ったと思い、シーナの視線に合わせて同じ方向を向くと、今にも泣き出しそうなクレスタ様の姿がそこにあった。


「だって、シーナ、出ていっちゃうんだろう?」

「まぁな。護衛みたいな何でも屋をやろうかと思ってる」

「もう、簡単に、会えなくなっちゃうじゃないか・・・そうしたら、もう、」

「あーもう、泣くなって。別に会えるだろ?クレスタが会いたい時に会いに来いよ。行方くらます訳じゃないんだ。それに言っただろ、クレスタに笑ってて欲しいんだよ、私は。私を軍に残して、また後悔なんてさせたくないんだ」

「・・・・・・絶対、絶対に場所を教えてくれるかい?」

「あぁ。約束な」


 何とか頷いたクレスタ様に、困った顔をしながらも笑ったシーナは、きっと満更ではないのだろう。


「それはそうと、護衛みたいな何でも屋ですか?」

「あぁ、私等みたいなゴロツキ集団だとな、腕っ節しか強みもねぇし。そんで、全員の名前は伏せる、あと私も男で通す。後はまぁマロンが上手くやってくれるだろ」

「シーナは何時もそうだよな、また胃が痛くなりそうだ・・・・」

「ふふ、なんだかクレスタ様とロード=セルティ・シアナ様を見ている様ですね」


 僕の問いかけに返してくれたシーナの言葉に、マロンがまた胃を痛める事になりそうなのは容易に想像が出来た。そしてリリア様の言葉に、シーナは嫌そうな顔をしたけれど、僕は知らない陛下の姿を知れた気がして少しだけ嬉しくなった。


「でもゴロツキ集団ってなんか聞こえ悪くない?」

「確かにな、あ!じゃあ騎士団だけ残してゴロツキ騎士団ってのどうよ?なんか義賊っぽくないか?」

「義賊って・・・そんなに良いものではないと思うのですが・・・」


 ヴィスタの言った言葉に返したアクリアの義賊に僕が反論を示すが、どうやら周りの意見は同じではないらしい。


「いいんじゃないか?まぁ、支持されるかどうかはわからねぇけど、正当な正義の味方って感じも私達には合わないだろ。それぐらい泥臭い方が似合ってるよ」

「確かにな」


 加えてシーナ、マロンが良いとなればきっとその名前は決定なのだろう。


「はぁ、では、僕も指導してもらいに顔をだそうと思いますので、場所は必ず教えてください」


 そう言いながら、きゅっと胸に残る痛みは寂しさからだとわかっていた。寂しい、その言葉が言えなかった僕にゴロツキ騎士団の皆は笑ってくれた。


「いつでも来い」

「書類の管理も少し手伝ってもらうかもしれないがな」

「まぁラルなら仕方なく歓迎してあげるよ」

「だな、変態ラルちゃん!」


 いつも通りの返りに、僕は苛立ちよりも嬉しさを感じて同じように笑ってしまった。きっと、ゴロツキ騎士団、という名前が城下の密かな立役者だと噂される様になるのは遠くない未来なのだと思う。


 ゴロツキ騎士団と関われる事を誇りに思うし、僕も、ゴロツキ騎士団の皆に関わった事を良かったと思ってもらいたい。


 僕の成長はまだ始まったばかりだ。


 いつか、憧れたシーナとクレスタ様と肩を並べて任務がこなせる様に。


 そして、陛下や騎士団、クレスタ様、家族や仲間の大切さを今まで以上に大事にしていきたいと、強く誓う―――――






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