第七章:霧の監獄と献身の縫い目
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漏れ出した麻酔ガスは、あの怪物を倒すには至らなかったが、全員の視界を狂わせるには十分だった。燃え盛っていた炎は、別荘の自動スプリンクラーが作動した瞬間に消し止められ、血と錆の臭いが混じった冷水が彼らに降り注ぐ。
【視点:風間結莉 — 執着に浄められて】
私は浸水した床に膝をつき、激しく咳き込んだ。シルクのドレスは無惨に引き裂かれ、汚れた「第二の皮膚」のように肌に張り付いている。目の前では、スプリンクラーの飛沫を浴びて直立する父が、まるで洗礼を受ける死神のように見えた。
「結莉……」
怒りと情熱が混ざり合った、低く震える声。
彼は近づき、私の顎を強く掴んで上を向かせた。火傷で爛れた彼の手は、痛みなど感じていないかのようだった。それどころか、彼は残っていた一筋の縫合糸を手に取り、躊躇なく、無麻酔のまま私の手の火傷を縫い合わせ始めた。私の目の前で。
――ブスリ、……ズルリ。
「この痛みこそが、我々の絆だ」
彼は糸を強く引き、私の皮膚が歪むのを楽しみながら囁いた。私は悲鳴を漏らしたが、その痛みさえ彼からの接吻のように感じられた。「あの小鼠に我々の時間を邪魔させるとはね。罰として……兄の傷口から流れる『生命の滴』を飲みなさい」
彼は棚から銀のカップを取り、傾いた衛土の手術台から滴る血を受け止めると、私の唇に押し当てた。これは真実の血の婚礼だ。私は生臭い鉄の味に咽せながらも、それを飲み干した。父は濡れそぼった私の髪を愛撫しながら、愉快そうに笑っていた。
【視点:風間衛土 — 砕かれた希望】
鋏は握っていた。あと少しだった。奴の喉元を突き刺すだけでよかったんだ。
だが、体が動かない。ガスが予想以上に早く運動神経を麻痺させていた。俺は、狂った妹が、あの男の命じられるままに俺の血を飲む姿を、見開いた瞳で見届けることしかできなかった。
「悪い子だ、衛土」
源一郎が近づいてくる。奴は俺を殺さない。そんなのは奴にとって「容易すぎる」からだ。
奴は俺の手から園芸用鋏を奪い取ると、信じられない力で、俺の指を一本ずつ叩き折っていった。
――パキッ、メキッ、……グシャッ。
「新しい手が必要だね、衛土。二度と武器を握れないような手が」奴は淡々と告げた。「明日から『結合』の処置を始めよう。お前の手を背中に縫い付け、私のギャラリーを飾る肉翼の天使にしてあげるよ」
叫びたかったが、口の針金が惨めな掠れ声しか許さなかった。詩織がくれた希望は、より残酷な檻へと変わってしまった。
【視点:風間源一郎 — 伏線:もう一人の蒐集品】
頭が脈打つ。忘却の彼方から、記憶の閃光が走る。
妨害を受けたのは、これが初めてではない。部屋の隅で丸まる詩織を見る。なぜ、あの顔は「あの女」を思い出させる? 結莉さえ知らない、第二の隠し地下室に監禁しているあの女を。
「ああ……」私は微笑んだ。
思い出した。私が引き取ったのは、この三人だけではない。彼らには「長姉」がいた。五年前からこの別荘の壁の中に生き埋めにし、毎夜、小さな穴から餌を与え続けている個体が。
「結莉、愛しい子よ」私は彼女を引き立たせた。「衛土には話し相手が必要なようだ。死んだと思わされている『母親』に会わせてあげよう」
【視点:風間詩織 — 深淵の真実】
失敗した。焼き払うことはできなかった。
でも、父様が『お母様』と言った瞬間、背後の壁が呼吸をしたように見えた。私は冷たい石壁に耳を押し当てる。厚いコンクリートの向こう側から、絶望に満ちた人間の爪が壁を掻きむしる音が聞こえた。
――ガリ、……ガリガリッ。
私たちがこれまで味わってきた恐怖は、単なる表面に過ぎなかったんだ。この別荘は家じゃない。家族を内側から食らい尽くす、巨大な捕食生物だ。
「最後までお読みいただきありがとうございます。次回の更新は明日、22:00を予定しております。また明日お会いしましょう!」




