30『泥スライム』
少しでも多く寝ておいたほうが良いので俺と鯨山さんはまた寝袋に潜り込んだ。
西新宿ギルドの全員が起きてから軽い食事をとり、次の野営地である地下20階を目指すために出発の準備をはじめる。
富士山ダンジョンにはギルド同士の魔法の誤爆などを避けるための“ローカルルール”があった。
それは(現在の10階層のような)野営用階層から下に潜るときに各ギルドは1時間の間隔をあけるというものだ。
……正確に1時間を計る方法がないので、なんとなく1時間という感じだが。
「よぉし、時間だぁ! こっからはさらにモンスターのレベルが上がるからな! お前ら気を抜くなよ! つづけぇ!」
五郎が元所属していたギルドが階段を降りてから(たぶん)1時間後、俺たち西新宿ギルドは五郎を先頭にして降りていった。
11階層からのモンスターはこれまでより手強く、久留里が回復魔法を使う場面が出てきた。
地上の敵は五郎が剣でたたっ斬り、飛行タイプの敵は真希が撃ち落とすという我々のスタイルは変わらずだ。
13階層あたりから限界を悟り疲労困憊の表情で帰路につくギルド連中とすれ違うようになってきた。
さて、俺たちは何階まで行けるんだろうか。
「右の通路をまっすぐ60メートル先……モンスターがいるわ」
18階層に降りてすぐに真希が呟いた。
ダンジョン内は壁が発光しているとはいえコンビニのように明るいわけじゃない。
なので《千里眼》を持っている真希だけが薄暗い遠くの状況を知ることができた。
「そっか、わざわざ戦う必要もないし左の通路に行こ……え?」
真希はスタスタとモンスターがいる通路の方に進んでいった。
どういうわけだろうと全員がそのあとについていくと……泥のスライムと呼べばいいのか、ヘドロ状の生命体が迷宮の通路を塞いでいる。
「これは魔石で動く準生命体よ……中の魔石を持ってかえりましょう」
「なるほど、それでこっちの道に……」
「どうやって倒せばいいのかしら。勇人の地中から土の建物を出すスキルで天井と挟んで潰せる?」
「《闇築因子》はこういう天井が低くて狭い通路で使うにはちょっと危険なんだよ」
それができたら迷宮内のモンスターはすべてそれで片付けられるのだが、そもそも野外で使うことを想定されたスキルなのでこればっかりはどうしようもない。
さて、どう倒そうか……魔石で動く生命体……か。
「魔石で動いてるってことは……つまり切り離された部分はただの泥になるってことか。じゃあどんどん切り離していけば、いずれ……」
「俺もはじめて遭遇したモンスターだが……なるほどな、冷静に倒し方を見つけてくれるのはリーダーとして心強いぜ」
五郎は泥スライムにひとりで向かっていき、剣を振って泥を切り離していった。
スライムは触手のように体の一部を伸ばして五郎を襲うが、五郎はその触手も斬っていく。
これまでの道中は一撃一撃を叩きつけるように斬っていた五郎だったが、ここでは物凄いスピード感で撫で斬っている。
「あんたに作ってもらったこの剣はやっぱ凄えぞ! これは外じゃとんでもねぇ重さだったのに中じゃ羽のように軽い。鉄塊のような斬撃の威力はそのままでな!」
なるほど、あの黒い剣の特殊効果は異常なほどの軽さなんだな。
あたり一面に泥スライムを構成していた泥が飛び散っていく。
そしてついに最後は野球ボールほどのサイズでノソノソと動く状態になり、真希はそれを捕まえると中に入っていた小さな魔石を取り出した。
「まあまあのサイズね」
「それはいいんですけどー! 服も顔も泥だらけになってるんですけどー! これじゃ可愛い念写撮れないんですけどー!」
叫んでいる久留里だけじゃない、全員が全身泥まみれだ。
するとやはり泥だらけの鯨山さんが「あっ!」と声を出した。
「服と身体洗えますよ! 次の野営地の20階層には温泉があるそうですから!」




