147『真希の仮説』
渋谷代々木公園ダンジョンから戻って2日後、今日はギルドを休みにしていたのだがあいかわらず俺と真希だけはオフィスに来ていた。
真希は机に置いた赤いレア魔石を、ずっと眺めている。
俺はついさっきまで「刑事部特殊環境犯罪対策課(通称・ダン対)」の小笠原刑事とオフィスで話をしていた。
英雄像から回収した「人をめっちゃくちゃ怖がらせる剣」を、ダン対に寄贈したいと俺から伝えられた彼女が引き取りにきたのだ。
ダンジョンの中では「対人」戦闘はない。
なので俺らが持っていても仕方がないし、オークションでも値はつかない。
だったら犯罪者という「対人」に対応しなければならないダン対が持っていた方がいいはずだ。
そして俺が今日オフィスにくると予想していた真希が弁当を渡してきたので向かい合って食べていると、珍しく真希の方から話しかけてきた。
「ねえユウト……少し思ったのだけれど」
「んん? 何を?」
「魔石ってダンジョンが発生する前まで地球上には存在しなかった鉱石よね。だけど奥野ルーシェルの話では“試練の洞窟”は過去に何度か作られている。なのに何故か魔石が人類の歴史には残されていないのよ」
「奥野はつけなくていいです……まあ、でもそうだな。なんでだろ……」
「私は魔石は永久物質じゃないと考えてる。時間経過でエネルギー構造そのものが崩壊する“不安定物質”なんだと」
なるほど。魔石は消えてしまう物質……か。
そんなことは考えもしなかったな。
「伝説には残っているけれど現存しない物質……有名なところではオリハルコン。それ以外にもアダマントやヒヒイロカネ、もしかしたらそれらは魔石だったのかもしれないわね」
真希のこういう話を聞くのは楽しかったし、彼女も誰かに自分の考察を話すのを楽しんでいるように感じた。
「なあ、真希はどこかのダンジョンの上層階に“異世界につながる階段”は存在すると思うか?」
彼女は箸は止めず、少量ずつ口に運びながらじっと俺の顔を見た。
そして最後に残していた黒豆を食べ切ると質問に答えた。
「オリジナルのダンジョンには存在していて、そして三法師雪奈が探している“異世界につながる階段”は……私はどこの上層階にもないと思う」
彼女はプリント用紙に木の絵を描いた。
なんだか絵本にあるような……妙に可愛いらしい絵だ。
「オリジナルが幹なら、世界中にあるダンジョンは枝葉。枝葉だけが無数に増殖している状態なのだと私は思ってる」
「ふむふむ」
「クリスマスツリーのてっぺんの星が“異世界につながる階段”で、枝には電飾や飾りが吊るされていてもその星はない……そんな感じ」
「なるほど。そして異世界に行ける幹だけが消失してしまった……と」
「もし上層階に“異世界につながる階段”があるのなら、異世界側にその出口が出現しているはずだと思うけれど、なかったんでしょ?」
「人間族領内の話だからあっても俺は知りようがなかったし、ルーシェルもそんな事態になってるとは想像せずにこっちへきてしまったからなぁ」
異世界側に出口があるのか、ないのか。
それさえわかれば早いんだけど
そんなのは異世界から誰かが────報告に来てくれないと無理なんだよな。




