146『異世界の旅人・2』
俺は“試練の洞窟”の秘密を追っていた。
そして俺の目の前にいるガマスという名のトカゲ男こそ、俺が探し求めていた人物だった。
ガマスは酒場の店主が出してくれた魔族居住地区特産の木の実をうろこのある手で鷲掴みすると、口に放り込んでボリボリと下品な咀嚼音を響かせる。
「この店のツケを払ってくれたら話くらい聞いてやるぜ、人間族の坊や」
俺は自分の酒代とガマスのツケを店主に支払い、「ついてこい」と言ったガマスの後ろを歩いてイムリの街の北地区に向かった。
ついた場所はどこかから喧嘩の声が聞こえる猥雑な雰囲気の場所だった。
そして娼館の裏手にあったガマスの家はまわりと比べても、ひと際みすぼらしいあばら家だった。
家の中に入ると狭い部屋には本が大量にあり、壁には複雑な魔法陣の図、机の上には水晶玉となにかを書き途中の紙があった。
────ここは間違いなく、魔法研究者の住処だった。
「サリトルだっけ? お前は“試練の洞窟”に興味があるんだな?」
「ああ、だけど“試練の洞窟”の作り方について書かれた書物は、地震で大賢者の塔が倒れた際に失われたらしく、調べても具体的には何もわからなかった」
「ま……そうだろうな」
ガマスは椅子に腰掛けて、俺にも座るよう促した。
俺が古い椅子に体重をかけると、ミシっと軋む音がした。
ガマスは“試練の洞窟”について説明をはじめた。
「別世界から勇者を召喚する“試練の洞窟”を完成させたのは古代の天才魔法学者・アルサバードだというのが通説だ。まあ、俺の考えは違うけどな」
「……というと?」
「アルサバードの死亡と当時の勇者の伝説には年代記録に若干のズレがある。短期間アルサバードの弟子だったアシェーア・ハイナスタリ……あんたの出身地のハイナスタリ領の古代の王女が完成させたと俺は考えている」
ガマスは机の上の書きかけの紙のペンを手に取った。
「それの裏付けとして“試練の洞窟”の作り方が書かれた本は魔力を帯びた特殊な紙とペンで書かれていた……大賢者の塔から一度も外には持ち出されることがなかったからその事実を知るものはいないがな」
ガマスは中断していた作業の続きなのだろうか、紙に複雑な数式を書きながら話を続けた。
「その紙とペンは当時の人間族領では天才魔法学者であっても使うことが許されなかったものだ。唯一使えたのは王家の者のみ……つまりアシェーア・ハイナスタリが“試練の洞窟”の完成者であり、最初に出現させた者だ」
「色々な場所で聞いて回ったが、そんな話は初めて聞いた。ガマス……あなたはなぜ、門外不出の失われた書物の紙の種類がわかるんだ?」
「わかるさ……」
ガマスは立ち上がり、本棚から一冊の本を取り出した。
窓の外からずっと聞こえていた街の喧騒が一瞬、消えたような気がした。
「その“試練の洞窟”の作り方が書かれた古代の本は……ここにあるからな」
第十章・完
次章『第十一章 神威連合の終焉』
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ルーシェルの裸婦像は、最終章・第十二章で起こる絶対絶命の状況を解決するための重要なヒントとなります。
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