143『見ないでー!』
5月の中旬、俺たち西新宿ギルドのメンバーと雪奈は渋谷代々木公園ダンジョンの上層階を攻略していた。
先週このダンジョンの上層階へと行けるポイントを発見したのだが、他ギルドの出入りが多そうなダンジョンなので、今日は朝5時に入場をした。
誰もこない時間に入り上層1階にあがったあとに四角い穴を閉じたので、上層階の存在はバレないだろう。
だけど、やっぱり朝5時スタートはちょっと眠い。
いくつかの上層階を経験してわかったことがある。
下層が全10階層の場合は上層は2階層で、下層が全15階層だと上層は3階層。
つまり下層階の数を5で割った数が、そのまま上層階の数になってるっぽい。
渋谷代々木公園ダンジョンは下層が全14階層のダンジョンだが、上層2階で羅針盤はこれより上の階層がないことを教えてくれた。
5で割って余った数は切り捨てなのかな?
五郎が剣を鞘から抜いた。
「おう、出たぞ。今度は……英雄像か?」
俺たちが進んでいた神殿タイプダンジョンの柱廊に、神話に出てくる英雄のような凛々しい白亜の男性像が現れた。
このダンジョンの敵はこのような“動く像”ばかりだった。
ダンジョンがそもそも神殿っぽいので大理石の像が敵というのは、違和感がないといえばないのかもしれない。
そして、これまでの上層階に比べてアイテムボックスが少なかった。
けれどアイテムは手に入った。
それは像が装備しているグレードが高い鎧や剣を、倒したあとに回収できるからだ。
英雄像は手に持っている剣を振った。
その瞬間、背筋が凍るような感覚に襲われ、足が震えて動けなくなった。
なんだ、これ……怖い、めっちゃ怖いぞ!
仲間たちも顔面蒼白で体を震わせている。
英雄像はゆっくりと歩いてくる。近づくほどに恐ろしさは増していった。
「あの剣の効果は……恐怖付与か!?」
「ユ……ユッピー! 元魔王なら平気でしょ!? なな……なんとかしてー!」
「怖がられていた魔王だからって、自分自身が恐怖に強いわけじゃない!」
我々が金縛り状態で動けないでいると、ハチ公がまったく怯む様子もなく一直線に英雄像に突っ込んだ……なんで平気なんだ?
そうか、ケルベロスだから「人間相手の恐怖」が効かないのか!
ハチ公は前脚の爪で英雄像の手から剣を弾き落とした。
するとさっきまでの恐怖心は嘘のように消え、いっせいに走りだした俺たちは英雄像を粉々に粉砕した。
「お手柄ですよ、ハチ公!」
「クーンクーン」
三つの首を順番にルーシェルに撫でられているハチ公は嬉しそうだ。
人間に恐怖を与える剣か……正直使い道がなさそうだけど、一応回収しておこう。
英雄像を倒してそのまま長い柱廊を進むとそこは行き止まりで、分厚い扉があった。
雪奈は手帳を見ながら、渋谷代々木公園ダンジョンの上層階はこの部屋で完全踏破だと教えてくれた。
扉を開けると、中は大広間だった。
中央にはまるで美術館の「目玉展示」のように、ぽつんと1体だけ像がある。
「また白い像か……あれ? 武器も防具もないっぽいな。それに……」
その像は若い女性の姿をしていた。
このダンジョンで戦った像は若い男やおっさんやガーゴイルという感じで、女性像はなかった。
高さは160センチないくらいだろうか。スレンダーな肢体に小ぶりな胸、髪の毛は長くて軽くウェーブがかかっている。
それはこれまでの敵よりも精巧で、まるで本物の人間のような裸婦像だった。
あの裸婦像……どっかで見たことあるような。
美術や歴史の教科書かな?
いや、ギリシャ彫刻とかってもっとグラマーな気もするし……あっ……。
「…………がひぃ!」
どうやってその声を出したんだ? というような奇怪な声が聞こえた。
その声の方向を見ると、そこには顔を真っ赤にした────あの裸婦像にそっくりな人がいた。
「ユウト様ー!!! 見ないでー!!!」




